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線上のキンクロハジロ 第三十一話(最終話)
年が明け、登美彦と妃沙子と響谷はスタジオ内の休憩スペースで車座になり、アニメ放送後の反響と次回作の構想について話し合っていた。
十月から深夜帯で全十二回の放映がスタートした『ハバタキのキンクロ旅団』は、初回からヒビヤ艦長が波動砲をぶっ放し作画崩壊する、というシュールな展開がネット上で評判となった。
艦長服を身にまとったヒビヤ艦長が戦艦のコックピットと思しき場所で、それぞれ黒いカメラ、コー
線上のキンクロハジロ 第三十話
林田は途中で帰ったが、残りのメンバーは妃沙子の部屋に移動し、ワニ肉を焼いて食べることにした。響谷と登美彦は缶ビールを手に持ち、妃沙子と高槻はそれぞれシチリア産レモンとグレープフルーツのチューハイ、飲酒年齢に達していない春斗はコーラで乾杯する。
「焼けた、焼けた。さあ食べよう。じゃあトミー、分けて」
ワニ肉を大皿に乗せて運んできた響谷が家主のように振る舞っている。ワニ肉をグリルでこんがり焼く
線上のキンクロハジロ 第二十九話
春斗の新人賞受賞とクラウドファンディングによる目標金額達成のお祝い会は、「美味しい焼き鳥が食べたい」という春斗の鶴の一声により、両国の小洒落た焼鳥屋で行われた。
響谷チョイスのお店は、高い天井の太い梁がまるで江戸の造り酒屋のような趣で、入り口横の螺旋階段を上ると、一日一組限定のロフト席があった。
文藝心中社の篠原にも声をかけたが、林田宛てに丁重なお断りのメールが届いた。
「藤岡さんは短編
線上のキンクロハジロ 第二十八話
高槻沙梨のトークショーは成功裏に終わり、文藝心中社のオフィシャルページに公演の模様を振り返るニュース記事が公開された。記事終わりには、アニメキャラクター化された高槻のカラーイラストが添えられており、出資募集ページにリンクも張られていた。
会場のキャパシティもあってトークショーの参加人数を絞ったことが偶然にも良い方に転がったのか、ハバタキのオフィシャルページへの流入が激増し、出資者も増えた。
線上のキンクロハジロ 第二十七話
本日集まったお金をネット上の出資金額に反映させると、八百万円近い額となった。
ベレー帽の男が匿名希望を条件に寄付した百万円を含めると、一夜で百五十万円以上もの大金が寄せられたため、目標金額の達成率は一気に四〇%に迫った。
パソコンのキーを叩く響谷は上機嫌で、しきりに「打ち上げしようよ、打ち上げ!」と騒いでいる。
店内を営業時の状態に戻し撤収作業を終えると、林田はリバーサイド・カフェの
線上のキンクロハジロ 第二十六話
トークショー終了後、高槻沙梨は列をなした一人一人にサインをし、にこやかに握手をしている。登美彦が出入り口横に出資相談用ブースを作ると、高槻のサイン本を抱えた客たちが次々に押し寄せてきた。登美彦の隣には、春斗がちょこんと腰掛けている。
「坊や、頑張りなさいよ。小説家ってのは人生経験が豊富じゃなきゃならん。いっぱい勉強して、いっぱい遊びなさい。そうすりゃいつかはデビューできる」
年配の客たちは
線上のキンクロハジロ 第二十五話
ゴールデンウィークの最終日、高槻沙梨はトークショー開始一時間前に編集者の篠原を伴ってやってきた。
篠原と林田社長は既に顔見知りであるらしく、数年来の友人かのように親しげに挨拶を交わしている。林田は篠原に妃沙子と響谷を紹介したが、妃沙子はごく事務的に名刺交換を終えると、高槻沙梨にべったりとくっ付いて談笑しだした。
登美彦も形ばかりは名刺交換させてもらったが、トークショー会場であるリバーサイ
線上のキンクロハジロ 第二十四話
高槻沙梨のトークショーおよびスタジオ・ハバタキの出資説明会は、ゴールデンウィーク最終日の日曜日、午後七時半に開催されることが決定した。
募集人数は先着三十名、参加費は林田が算盤を弾いた通りに二千円となり、トークと出資説明の持ち時間はそれぞれ一時間ずつとなった。
四月初めに文藝心中社のオフィシャルページとハバタキのオフィシャルページの両方でトークショーの開催が告知されると、一週間と経たずに
線上のキンクロハジロ 第二十三話
翌日、スタジオに姿を現した響谷の人差し指には、柔らかいモール糸で編んだハジローが乗っかっていた。かぎ針一本で作った編みぐるみの指人形だそうで、響谷が人差し指を曲げると、ハジローがぺこりとお辞儀をした。
響谷を中心にアニメーターたちの輪ができている。スタジオ中でわいわいと騒いでいたのがうるさくて気になったのか、ひたすら原画を描き、絵コンテを描き進めていた妃沙子がふらりと近寄ってきた。
「なに
線上のキンクロハジロ 第二十二話
昼過ぎに出社してきた響谷は、鳥かごと大きな網を持ってきていた。
これでランニングシャツでも着ていれば、炎天下にクワガタやカブトムシでも取りにいけそうな装備である。響谷の奇行には慣れっこなのか、妃沙子は耳にヘッドフォンを付けたまま完全に無関係の立場を貫いており、淡々と作画作業に勤しんでいる。
妃沙子はある程度の枚数の原画を描き終えると、小休止のたびに高槻沙梨と藤岡春斗が合作した脚本を擦り切
線上のキンクロハジロ 第二十一話
三月もそろそろ終わりに近付いた火曜日、登美彦は小鳥パンが開店するのを店の外で待っていた。オーナーの大河内がいつか口にしていたように、開店時間は朝八時から十時に変わっていたが、開店前から行列するのは変わっていない。
小鳥パンのこじんまりした出入り口に続く漆喰の壁には「キンクロ旅団、団員募集中。公共電波に乗ってハバタくためにご支援よろしくお願いいたします」と書かれたポスターが貼られている。
線上のキンクロハジロ 第二十話
暗黒期から目覚めた響谷は、惰眠を貪っていた充電期間のツケを清算するかのごとく猛烈な勢いで働き、三日三晩不眠不休でハバタキの自社サイトを完成させた。
特に誰から頼まれたわけではなく、響谷が自主的に制作したものであるが、その完成度はプロのウェブデザイナーも舌を巻くほどの出来だった。
「これは凄いですね。こだわり方が半端じゃないです」
「ふふん、そうだろう? ぼくはやるときはやる男なのさ」
線上のキンクロハジロ 第十九話
藤岡少年がさらりと書き殴ったプロットは、ハバタキに劇的な変化をもたらした。
大塚妃沙子は「監督になる!」と言いだし、響谷は「艦長になる!」と言い始めたのだ。さっぱり意味が分からないので深くは追及しないでいたが、両者の目的は違えど、どうやらハバタキの両輪が目指す方向だけは同じのようだった。
三月半ばに登美彦は家賃三万円の一人暮らしの部屋を引き払い、妃沙子と同棲するようになったが、妃沙子はク
線上のキンクロハジロ 第十八話
「なんとなくこんな感じかな、と」
藤岡少年がわずか数時間のうちに練り上げたプロットは、こちらの想像を遥かに超えた出来であった。主人公はキンクロハジロ、ハバタキのスタッフがサブキャラとして登場し、さらにどこかで戦艦が登場し、なおかつ戦場カメラマンが登場する話がいい、とリクエストしてはいたが、まさかこんな話になるとは思ってもみなかった。
「いくつか部品があれば作れると思います」と言う藤岡少年には
線上のキンクロハジロ 第十七話
登美彦はハバタキのスタジオ内を案内すべく、藤岡少年をカフェから連れ出した。寝袋から這い出てきた響谷が春斗を見かけるなり、やけにフランクにべらべらと話しかけた。
「なに? 君、中学生? えっ、なに? 高校生なの。ふーん、童顔だねえ。えっ、見学?アニメーター志望なの? えっ、話を考える方? そうか、じゃあ脚本志望なの? 大体そんな感じ? ふーん、じゃあせっかくだからいろいろ教えてあげるよ。あ、ぼく