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サマー・バケーション
街の喧騒が遠のくと、明るいアイドルソングを鳴らしていたカーステレオが急に張り合いをなくしたように、おとなしい曲を流しはじめた。
窓の外は、さっきまで眩しかったイルミネーションが薄暗い街灯へと移り変わり、どこか寂しい気持ちにさせる夜景が、薄く濁った心を撫でていく。
“もしも、オスカー・ピーターソンがクラシック音楽のピアニストだったら”
という他愛ない思いつきがふっと頭をかすめ、手から伝わってくる
【モノカキ空想のおと】楽器スプレー 【即興SS】
″楽器スプレー″と、引いた紙にはあって、私は思わず頭をひねる。
身を切るような寒さが続き、まだまだ冬だと思っていたら、週末はふわっと春になった。大変お日柄もよく、と町内会長さんが壇上から挨拶する中、私は少し憂鬱だった。
「お陰様で、十回目になりますこの借り物競争も……」という言葉通り、少し変わった行事がその原因だった。マラソンとか餅つきなら分かるけど、なぜか毎年この時期に借り物競争をする。
【モノカキ空想のおと】楽器スプレー【即興SS】
小学校低学年の頃、某国民的アニメ、ネコ型ロボットの
新ひみつ道具アイディア募集の企画があった。
その何でも出てくる不思議なポケットに魅了され、
毎週のようにテレビにかじりついていたわたしは
──これは送らねば。
と、謎の使命感に燃えたのだった。
そこで思いついたのが「楽器スプレー」。
そのスプレーを吹きかければ、どんな物でも素敵な音がなる。
保育園の頃、お弁当箱を叩いていて怒られたこと
【モノカキ空想のおと】楽器スプレー【即興SS】
授業開始の5分前には準備を整えておくのが私の決め事。
それは教室を移動するときも例外じゃない。
ノートと教材を両手に抱え、まだのんびりしているみんなを尻目に次の音楽室へと足を運ぶ。
私だって遊びたい。けど根が真面目なせいか、授業が始まる直前に慌てて入ってくる生徒にはなりたくなかった。
教室を移動する時はさらに余裕をもって行動するから、たいてい一番乗り。誰もいない音楽室を一人で専有する気分を
【モノカキ空想のおと】母の手の船【即興SS】
話をする前に、一つだけ、約束してほしいことがあります。
いえ、難しいことではありません。ただ、忘れてほしいのです。これからお話しすることを。
約束して下さい。でなければ、何もお話しできません。
そうですか。有難うございます。
あれは、まだ私が幼い頃でした。
冬は過ぎていたのに、随分と寒い日でした。
母は私の手を引いて、海に出かけました。ええ。海は家の近くでした。父は船乗りだったのです。