迎え火の頃、その人は毎年その木の下で涙を流し手をあわせます。 色褪せない心の陰。それを集めてできた結晶は漆黒ながら光を通すと柔らかな夜色を散らすのです。それが本当に美しくて。 「ほら」と、いつか手渡せたならと思いつつ その横顔に何も言えなくなるのです。 #四季を纏いし君のこと
足を止め乱れた息を整える少年がいた。「最近毎日走ってるね」彼は戸惑ったように視線を泳がせ「運動会の練習」と言ってまた走り出した。「晴れるといいね」背中に向け言葉を送る。雨の匂いがした。秋雨は空の汚れを落とし澄み切った秋晴れを呼ぶだろう。秋桜が揺れていた。 #四季を纏いし君のこと
夏空にそびえる入道雲は、学校のプールによく似合っていた。気象庁の発表した“冷夏”の長期予報をあざ笑うように暑い日が続き、プールサイドには水面で跳ねた光がこぼれている。「気に入った。しばらく雨雲には遠ざかっていてもらおう」 俺は小さく呟き使役した式神を放った #四季を纏いし君のこと
「モノカキサンタ企画」を更新しております。 モノカキ空想のおとのメンバーがそれぞれサンタクロースになって、プレゼントを送るとなったなら…? 今回もそれぞれの色合いを感じられる物語となっております。お楽しみいただけたなら嬉しいです。 https://note.mu/monokaki/m/m8de0684caef1
「まだ起きてたのか」澄んだ夜気を震わせる声だった。明かり一つない深夜の廊下でも声だけで誰なのか分かってしまう。返答に困る私を気にする様子もなく温もりが肩に降りてきた。彼の上着だ。「風邪ひくなよ」酷く優しい声、乱暴に奪われる唇。私をさらったこの人は、こうやってまた私に鎖を付ける。