マガジンのカバー画像

詩のスケッチブック

24
日々や旅の風景をささっと描いた詩たち
運営しているクリエイター

#日常

どこへいっても

彼はどこへいってもチャーミングな客人だった
そろそろ毛布が恋しくなってきた

彼はどこへ旅立つかしら?
今夜はどこで眠るのかしら?
沢山のドアと人々の間を通り抜け
彼はどこまでも進んでいく

終わりは
世界のどこにもないように思われた

一つの場所で何かに取り組んでいる時
また別の場所で新しい何かが生まれる
遠くのどこかで
何かが朽ちて消えていく

そうして終わりのない終わりが
延々と続く

彼は

もっとみる
イエールのサンセット

イエールのサンセット

昼の残りのクスクスとドレッシングをさっとかけたトマト
フランボワーズが隠し味に効いたライス・サラダ
食後の温かい紅茶

遠浅の海をあっという間にかけていき
インクのにじみみたいになった
子供達の影

薄いピンクから水色、グレーのグラデーションを描きながら
ゆっくりと暮れていく、イエールのサンセット

まだ暖かさを残した砂浜
淡い色合いの中に浮かんでいる白いヨット
強くなりはじめた夜風など
ものとも

もっとみる

記憶の層

あなたの歩いた灼熱の砂漠は
夏の盛りのアスファルト
荒野の岩肌は晩秋の夕暮れ、寂寥感

あなたは広い大地で道に迷って途方に暮れる
私は田舎のローカル列車で、
反対方向に乗ってしまって、えらく焦ったことがある

あなたほどではないけれど
私も日常を旅している

だからあなたの足跡を
何となく、
皮フで感じることができる

あなたの骨に染み入る原風景は
私の感覚を通じて保存され
やがて私の記憶となる

もっとみる

帰宅

日焼けした肌/灼熱の大地
隆起した二の腕/石灰岩の岩肌
カサついた唇/広い荒野
クタっとした髪の毛/ムワっとしたマーケット

あなたの首筋に腕を絡める時
そこから指を這わしていく時
私はあなたの辿った道のりを
たどっていくことができる

ピラミッドのようにうず高く積まれたトースト
缶詰の、緑の豆のスープ
二人の間を埋めるのは
つつましく立ち込めるスープの湯気と
バターを熱心に塗り込める
控えめな音

もっとみる

丸太町〜吉田山

1.
学生時代、夏の盛り
暑さが少し陰った時分に気まぐれに出かけていった
丸太町〜吉田山辺りのことはよく覚えている

燃えるオレンジの夕陽と残像の路地裏
カラーでありながら白黒写真のような
鮮烈な一時

何気なく足を踏み入れた吉田山で
フイに日が傾き始める
夜へ向けてざわめき立ち、
深い緑の息吹を発しながら気配を強めていく木々達
下っていく階段のリズムと
徐々にぼやけていく視界

ようやくふもとに

もっとみる

きのう (7/28)

実家に帰ると母親が新しい枕をかっておいてくれた。
そんな訳で、フワフワの枕を携えて帰路についた。
数日空けていた家にもどると、
中にいれていた鉢植えの花が満開になっていた。
何ともいえない素敵な気分になった。

きおく

わすれ方をわすれてしまった

きみのこえ

日々の記憶

三つ編みの中

細胞の組織

奥深く編み込まれて

ふとした拍子によみがえる

ひかりの粒子

舞い上がる記憶たち

わすれ方をわすれてしまった

積層する季節

記憶する身体

あふれる思い

吹き抜ける風  水辺のきらめき

ひかりが描く、横顔の輪郭

そこらをチラチラ舞っている

暇なときは

それを見て  遊んでる

かなしみ

かなしみは出来事じゃない

ふいに吹く風

心にたつ さざ波

何に揺さぶられるか

どんな風にざわめきたつか

その違いこそが 人間だ

われわれは若さと引き換えに、それを手に入れる

でもそれは悪いことではない

見えなかったひかりが見えるようになる

感じることのできなかったものを  感じることができるようになる

  分かちあえるようになる

われわれはそうやって何度も打ちひしがれて、それ

もっとみる