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蕚 utena

不思議なものですね、あなたさまがそのようにお思いになるなんて。いつもなら、それでもまた繰り返し繰り返し、その光る銀の糸をたらしておやりになるのでしょう?

ほら、御覧くださいませ。
潸潸たるあのこもごも蠢く光景を。わたくしに至っては、そのようなお立場ではまず御座いませんから、これでもめっぽう困惑しているのですよ。

いえ、あなたさまがそのようにお思いになることは、少しも可笑しいことでは御座いません。あの糸を切ったのはこのわたくしめの為事ですし、あなたさまがその御心を、ぼざりぼざりと煩わせるなんてことは微塵も望んではおりません。

わたくしは、とこしえにあなたさまの御心が何時如何なるときも康寧であること、そしてそれがこのわたくしの、安居楽業に繋がるとそう信じておるのですから。

ほら、御覧くださいませ。
またまたこの蜘蛛たちが今度は金色の糸をかけ始めましたよ。今度ばかしはとても多くの糸繰りが必要になりますな。このわたくしの両の腕も必要になる事でしょう。そうだそうだ、少しばかりこの蕚に絡めてみましょうぞ。先刻よりも丈夫にすればきっともう、あなたさまの御心を煩わせるような事には成りますまい。

玉のようにまっ白だったその花は、はんなりと淡紅色にそのお姿を染め、透き徹るほどに美しい浅葱色の蕚は、しなりしなりとあちらこちらに傾きました。その真ん中にある金色の蕊からは、なんとも云えない好い匂が、絶間なくあたりに溢れて居ます。

御釈迦様はたった独りでぶらぶらと、池の淵を御歩きになっていらっしゃいます。
遠くの方では錦の鯉が珍しく、ばしゃんばじゃんと水飛沫を立てました。
極楽は、また丁度、朝を迎えたので御座いましょう。

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