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何とかならない時代のTempest/復讐とか赦しとかsympathyとかEmpathyとか

復讐と赦しは表裏一体、コインの裏表なのではないか。
ある人の舞台を観て考えたりしていたところでした。この半年ほど。
 
〝芸といふものは実と虚との皮膜の間にあるもの也〟
〝舞台へ出て芸をせば慰になるべきや。皮膜の間といふが此也。
虚にして虚にあらず実にして実にあらずこの間に慰が有たもの也〟
 
これ、近松門左衛門による虚実皮膜論、
世阿弥の花論と並ぶ日本の演劇芸術論と言われるものです。
学生時代、上方文化評論家というあやしいおじさんに教わって以来、忘れられない思想です。
あまり勉強せず演劇ばかりやっていた頃ですが、覚えていることのうちのひとつなんです。
(この先生は私が舞台で白石加代子と同じ大役をやったとき大変喜んで下さり、
 なんか芸能人に贈るレベルの正式過ぎる楽屋見舞いをくれたりした思い出があります(笑))
 
近年、私は、旅芝居(大衆演劇)というものを面白く思っています。
いや面白くないんです。あまりに「人間」なので吐き気とか眩暈とかだらけです。
全国を回り毎日舞台をみせて食べていく文字通り「旅役者」だからこそ
生きることそのものの舞台で、
生だから性で精で正なんだかわかんないことだらけで、
だから「聖」を感じる・感じざるをえない瞬間とかもあったりなんかもして、
気付けば19年ほど追っている訳なのですが、嗚呼、やはり、笑い泣き、泣き笑いとしか言えません。
 
旅芝居を経て、近年、ストリップという芸能に辿り着きました。
 
かのジャンルを経てからのだからでしょうか。
今まで以上に劇場でたくさんのことを思わされたり考えさせられたりします。
(本当は20代前半で出会っていた世界ではある。
けれどその頃の私は性的なことに苦手意識もあった。今では苦手じゃなくなった諸々も含めて、これも向き合ってゆく大きなテーマのひとつ。は、さておき)
中でも私が今ほんとうにだいすきな踊り子さんと彼女のまわりに居る皆との出会いはとても大きい。
「ゾーニングをきっちりして欲しい系人権派ストリッパー」と、いつぞや御自身でも書かれていた彼女の舞台に劇場にいろんなことを思わされ考えさせられています。
進行形、現在進行形です。
考えさせられると言っても自己成長やそういったもの(だけ)ではありません。
ちょっとおおきな、おおきすぎることを言うと、
〝皆で生きる〟〝皆で生きるために〟のこと、
あまりにさまざま、性だからこそ、あまりにさまざまなことやひとと出会える場所と、
彼女(と、さまざまな踊り子さんの)その舞台に、だからこそ。
 
シンパシーとエンパシーという言葉についても、考えるようになりました。
遅まきながらこの数年で知りました。
大ヒットした『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の作者、
英国在住のライターでコラムニスト、ブレイディみかこさんがよく唱えておられる言葉です。
彼女の本たちを読んだ時、
なんだかずっとずーっと思っていたことが腑に落ちたような気がしました。
出される本や文は過去のものも含めて、全部とても楽しみにして、
近年は過去のものをもう一度(若くて尖っているものとかも含めて)読み返したりもしています。
 
■シンパシー
 「感情とか行為とか友情とか理解とか、どちらかといえば人から出て来るもの、または内側から湧いてくるもの」
 「かわいそうだと思う相手や共鳴する相手に対する心の動きや理解やそれに基づく行動」
■エンパシー
 「能力だから身につけるもの」
 「別にかわいそうだとも思わない相手や必ずしも同じ意見や考えを持っていない相手に対して、その人の立場だったら自分はどうだろうと想像してみる知的作業」
 
(ブレイディさんの文より)
 
共にむつかしい。めちゃくちゃ、むつかしい。
むつかしいという言葉だけじゃ言い表せないくらいむつかしすぎる。自他共のいろんなことに思います。
 
このあたり、2年前に読んだ『正欲』という本を読んだ時にも震えて唸りました。
ぶん殴られたような、「答えが出ない」、だからこそ考えないと、って。
朝井リョウ氏によるものっっすごい作品です。今年映画化も決まったらしい。是非。私も読み返そうとしていたところです。

と、どんどん話が広がっていってしまうし書ききれない。ので、今回はちょっと戻しますが。
 
「ロールプレイ」という言葉もブレイディさんの著作の中で知りました。
朝日新聞出版による演出家・鴻上尚史との対談本『何とかならない時代の幸福論』にて。
(ああ、なつかしき第三舞台。どうでもええけどこないだの成人式ツイートあれはどないやねん、も、今はさておき)
演劇教育いわゆる「ワークショップ」の話などからなのですが、
(このあたりは映画『ドライブ・マイ・カー』にも通じますね)
「ロールプレイ」の意味は「役割演技」だそうです。
そこから映画『プリズン・サークル』のことが語られていました。
観ていないけれど、とても観たいと思っていたドキュメンタリー映画です。
島根の刑務所で受刑者たちが「セラピューティック・コミュニティ」というプログラムを受ける様子をうつした作品だと知りました。
受刑者たちが輪になって自分の体験を語ってゆく。そこに組み込まれるのが、ロールプレイ。
皆でその件を演じる。加害者たちである彼らが加害者は勿論、被害者や被害者の家族などを演じることで、そのひとの気持ちになることで、気付く・向き合う。
観られていないのにどやねん、、ですが、ずっと頭に残っていました。

 
そんな舞台や劇場や本をいろいろ旅しているような私なのですが、
数日前に、偶然、本当に偶然、この1冊にも出会いました。
 
マーガレット・アトウッドによるシェイクスピアのリトールド、『獄中シェイクスピア劇団』。
(集英社)

(本をこう置くことは大嫌いで絶対しないのですが、帯が両方見えるように一瞬だけ……ってボケてますね、すみません) 

老いた舞台芸術監督、折しも『テンペスト』を上演しようとしていた際に、
部下からの裏切りによってすべてを失った彼がひょんなことから刑務所の更生プログラムの講師となり、受刑者たちとの演劇活動にかかわるようになります。
そして12年、あの裏切者が大臣となって視察に来る。何を見せる。それは、勿論、『テンペスト』!!
ライトに弾む言葉にわくわくしながら風刺や毒にニヤリともしながら読み進め、昨日昼に読了。最後、泣きました。
二重三重構造の物語り、二重三重のミーニングのことばたち、
舞台で演じられる物語りと演じる彼ら彼女ら自身の物語り、
物語りという言葉を多用するのも本当はあまり好きではないのですが使わせて下さい。
芝居の中の人々と演じる人々という多くの人々の想い、悩みからの成長や解放と開放……〝自由〟。
何とかならない時代に、いや、この世は人間は常に何とかならなすぎていて、
でもそれでも、だからそれでも、それでもだから。
シェイクスピア最後の作品、プロスペローはシェイクスピア自身であり、
この世は舞台で人は皆役者で、舞台、芝居小屋、劇場、世界はやっぱ劇場、
皆が(傍観者ではなく)舞台上の出演者である劇場、
だからこそすべての人が共演できるよう人生を進められるよう、自己を解放できるよう。
全然うまく言えていないかもしれませんが、
やはり、復讐と赦しは表裏一体、コインの裏表で、虚実も表裏一体で……。

許しじゃないけど、私自身も、ずっと何年も昔に同業者??に「あなたのことは認められない」と言われたことがあります。
「あなたはすごい。正直こわいなって思うこともある。でも悔しいっていうかあなたのことは認められないなーって感じ」
大変に失礼な言動をしてきた目上の人です。
大変に失礼な言動とをしてきた若い方にも言われました。
「あなたは私(たち)とは違うだけです」
ちゃんと言ってきたのはすごいなあって思います。
言わないけれど思っている人もいるのかもしれないしいるでしょう。
ずっと「はあ?」「で、どのツラ下げて義理と人情の世界をお語りで??」と思ってきた。でも、このことやこういう人のことも考えてゆきたいです。

まだまだいろんなことが頭をめぐりますが、
まとまらないままに、こんなことを、書いておきたくなりました。 

テンペストも、アトウッドも、
件の大好きな踊り子さんが演目(作品)のモチーフとしていたものです。
(他にもここからの偶然の縁や素敵な出会いはなんだか嬉しいほどにあるのですが、またいずれ)
 
いろんなことがへたくそな人間で、
やっとちょっとそんな自分と向き合うような、そんなような最近である気もします。
これも自分のためではなく他や誰かのためにの、です。なかなかですが。
舞台に本に、劇場に、そして、書くことに、そのことで縁ができた多くのいろんないろんな人に支えられ、救われてきました。
 
〝皆で〟〝皆と〟のために。

今年はこういう暑苦しい文はやめていこうかなぁと思っていた矢先に書きました。

お付き合い、ありがとうございます。
またいろいろ、まとまったものも、まとまらないものも、書いてゆきます。

今年はいろいろお知らせできそう。
Lifeworkとして書き上げたい原稿も、今年は、ほんま、やります。


ここ最近の(関連する)つぶやきなどなども



そして私は昨夜静かに静かに震える本と出会った、出会わせていただきました。ありがとうございますすぎる。



以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
よろしければお付き合い下さい🍑✨
ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。

大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。

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(以下に第1~16回、まとまっています♫)

と、あたらしい連載「Home」。
皆の大事な場所についての文章、も、ぼちぼちと。こっちも更新せなあかんなー。

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)やってました。担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中(貴重映像ばかりです。私は今回のアップにはかかわってないけど)


あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。

皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。


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