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モノがたり

年末の大掃除でかなりモノが減った。45Lのゴミ袋にして4つ分。これだけのモノが長い期間持ち主に指一本触れられず、突然光が差し込んだと思ったら、すぐにゴミ箱に送られてしまうだなんて、少しいたたまれない感じがしてくる。モノを粗末に扱うなと育てられても、小金が手に入れば、割引されていれば、ついつい買ってしまうモノ。いつの間にか若さで優先順位をつけられ、押入れに収納されるモノ。そして気づくと捨てられてしまうモノ。

モノを捨てることは価値観のアップデートであり、今の自分に合わないモノが多くなったからといって何も悲しむべきことはなく、言ってしまえば旧い価値観の垢みたいなもので、たくさん捨てられた分だけ喜ぶべきである。むしろ旧態然としたモノを無理に保持し続けることは、自分の価値観を縛り付けることになる。だから捨てることは価値観の刷新なのだ、と。
こんな屁理屈を言って過去の自分の大量消費行為を正当化してみたところで、なにも面白くない。この少し広く、小綺麗になった部屋にそぐわない違和感はなんだろうか。

ミニマリストという人たちがいる。かつて、僕もこの考え方を取り入れようとあれこれ本を読み、彼らがお勧めする商品を購入し、外見だけでもそれらしくなった。気がする。実は、昨年の2月あたりから、こっそりミニマリスト化を始めていた。
ミニマリストの持ち物の中でよく見るのは、無印良品やユニクロなど、もっぱらモノクロで統一されたモノたちだ。当初から、不必要なモノを持たないことが、最小限のモノしか持たないことが、一体どうして同じ様相を呈するものかと疑問には思っていたが、やはりモノクロの統一はカッコ良いので、さほど気にも留めていなかった。

が、この大掃除を機に、その疑問は氷解したように思う。それを思考の整理がてら綴っておきたい。

どれだけ世間知らずでも、無印やアップル製品がミニマリズムをコンセプトに作られた商品だと知ってはいる。そういうコンセプトに基づいて作られた製品が、そういう思想を持つ人間と高い親和性を持つのもまあ、当然だとは思う。が、本来ミニマリズムとは、必要最低限のモノを持つことにその特徴がある。であるならば、各人にとって必要なものは各人異なるはずであるのに、金太郎飴のようになってしまうのはどうしてなんだろうか。

僕の考えるミニマリズムとは、価値観の洗練の果てにある調和された状態であり、各人固有のミニマリズムが実現されるべきだと思っている。しかしながら、過去の僕は、必要最小限のモノを持つことと、必要最小限にデザインされたモノを買うことの二つを混同していた。モノクロで持ち物を統一することがミニマリストではない。要は、ミニマリズムというブームに乗っかり、大量消費行動がしたかっただけだ。行動に移しやすく、結果が目に見えやすい「捨てる」という行為によって、そしてミニマルなデザインの商品を買い揃えることによって、大した努力も意志も必要としない軽佻浮薄な自己変革に成功したのであった。

大掃除後に覚えた違和感の正体は、ゴミ袋に山ほど詰められた薄っぺらい自己改革の無残な後ろ姿だった。
確かに取り巻く環境は変わった。だが、変わったのは見た目だけだった。決してジョブズのようなキワモノにはなれなかったし、生産性も向上しなければ大した成果も上げられず、結局のところ、蘊蓄を傾けるプチブル気取りの消費者に成り下がってしまった。
その統一された“ミニマル”な見た目とは裏腹に、僕の消費衝動は依然として残り続け、それは例えば香水だったり、珈琲などの嗜好品の購入などに形を変え、年末の大掃除には、以前のように夾雑物でまみれた押入れだけがあった。

僕は反省した。即席のミニマリズムには、大量消費型のパッケージ化された自己啓発的要素が内包されている。そこに急いで乗っかろうとする心情は、通販のダイエット器具やサプリメントを購入する消費者層の心理と、大差がないと言っても過言ではない。
そしてこの安易なミニマリズムは、実は大量消費と表裏一体であることをよくよく留意するべきなのだ。
心に根を下ろしていない、自己探求を蔑ろにし、年月の洗練を待たずに獲得されたミニマリズムは、ミニマリズムの反動としてやってくるマキシマリズムに、いとも簡単に飲み込まれてしまうだろう。したがってパッケージ化されたミニマリズムの需要者であり続ける限り、ミニマリズムとマキシマリズムによって構成される消費サイクルからは抜け出すことができないのだ。

それじゃあ、”本当のミニマリスト”って一体誰なんだろう。
その答えは、僕自身がミニマリストじゃないから、今はわからない。けれど、ミニマリストブームの先駆者や、ミニマリストとして活躍している人たちは、皆が同じように見えながら、つぶさに観察してみると皆各様に異なっている。
ちょうど、水流に攫われて丸みを帯びた小石の中に、多孔質の骨格を持つ軽石や、モザイクのステッチを編み込んだ花崗岩があるように。
ミニマリストとはかくのごとくあるべきなんだろう。
僕もいつか、あの洗練された曲線美の仲間入りができたらなと、ゆっくり夢を見ることにします。

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