筆遊

いいねありがとうございます。不躾ながらここでお礼を言わせて頂きます。

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最近の記事

まだ若かった頃

下りの電車が駅のホームを通過すると、若い父親と子供が二人、見送るようにトンネルのほうへ視線を投げかけていた。10時45分。ひび割れたアスファルトの上には、既にミミズの乾燥した死骸がある。こうした光景は田舎にはありふれているが、六月にその死骸を見つけたことは、今年の夏が早く来ることを予感させる。すでに首筋に汗玉がジワジワと滲むのを感じている。 それに、今時珍しい跨線橋の木造階段は、この街がいかに寂れているかを表しているようだ。 「今頃、自分にもあのくらいの子供がいる年齢か」 美

    • 飲酒論

       ​​お酒を飲むという行為を自分の中で定義する必要があると感じ始めたのは、ここ1、2ヶ月のことだ。学業や私生活の忙しさ、口に出せない鬱憤が溜まっており酒に逃げたという、よくある頽落した大学生ストーリーではない。 酒を酌み交わす友人ができ、お酒を飲む行為が自分にとって何をもたらすのか、改めて定義することで合理的な理由に基づく積極的飲酒が捗るという意図でも決してなく、ただの行為が思想の実践という高尚なものに昇華し、日常行為をまた一つ明晰に叙述するのに役立つのではないかと思ったから

      • リズミカルな散文(短歌?)

        今まで作った短歌なのかリズミカルな散文なのかよくわからないものの一部をまとめてみました。時系列は適当です。笑ってください。 (大学入学当初) 偶然を装い君と帰るため わざと解いた赤い靴ひも 朝ぼらけ鳥も車も寝る街で 誰を貫く今の銃声 来年の4月6日に×印 死ぬ日さだめて湧く力かな 次の語を用いて人を作図せよ。〈鋤、初夜、死別、出産、帰郷〉 この家の二人の沈黙破るのは きっと夕食前のナイフだけ 笑いながら母が夜通し電話した 画面に映る117番 今日までの人を忘れ

        • 美穂

          3年ぶりに美穂から連絡が来た。美穂と私は高校の同級生だった。 彼女からくる連絡は珍しい。 昼休みになっても机をくっつけず、いつも一人でフランスの小説を読んでいるような、妙に大人びた同級生だった。寡黙でいつも一人の彼女は、本を読んでいるか、煉瓦作りの旧校舎の裏庭に座りながら、じっと空を眺めている印象だ。彼女にはどこか退廃的な影が付き纏っていた。 両親はともに医者をやっているらしく、昔テレビドラマで見た、医者家系の病室のようなモノトーンで厳粛な家の空気感が、彼女の横顔からも伝

        まだ若かった頃

          口ずさみの標本箱

          気づけば一日中、暇があれば何か歌を口ずさんでいる。 断片的に覚えた歌詞やリズムに節をつけて歌うのが好きだ。 オペラから歌謡曲、童謡までジャンルを問わない音楽祭を毎日一人で開催している。 誰のためでもない、ただ自分が高揚するための歌を唄うのが好きだ。 今日は、初めて歌詞を書いてみた。 何気なく口を継いで出たリズムを、パソコンに急いで連打してみた。 歌は言葉の中でも、最も生命力の高い霊感らしく、真面目な理性で捉えようとすれば、スルリとキーボードの隙間から飛び去ってしま

          口ずさみの標本箱

          今日まで生きてしまった。

          二十歳になった朝、まず口をついで出たのはこの言葉だった。 昨日はこの呟きから数回目の成人式である。僕の誕生日は幸か不幸か、成人の日にとても近い。 それもあって、二十歳になった日、成人するという事実が、様々な観念を纏った不定形の、途方もない重力を持った現実で迫ってきたのを今でもハッキリ覚えている。 僕は夭逝するはずだった。 いや天の御意志に絡め取られないにしても、せめて自分の意志で自殺しようと思っていた。だから、二十歳の誕生日を迎えた朝、こう呟いたのだ。 青年の苦悩は隠される

          今日まで生きてしまった。

          モノがたり

          年末の大掃除でかなりモノが減った。45Lのゴミ袋にして4つ分。これだけのモノが長い期間持ち主に指一本触れられず、突然光が差し込んだと思ったら、すぐにゴミ箱に送られてしまうだなんて、少しいたたまれない感じがしてくる。モノを粗末に扱うなと育てられても、小金が手に入れば、割引されていれば、ついつい買ってしまうモノ。いつの間にか若さで優先順位をつけられ、押入れに収納されるモノ。そして気づくと捨てられてしまうモノ。 モノを捨てることは価値観のアップデートであり、今の自分に合わないモノ

          モノがたり

          書くことと生きること

          あけましておめでとうございます。本年も不定期ではありますが、細々と更新していきたいと思います。さて、新年を迎える当たって、一作目にはやはり、今年の抱負でも書き散らしていこうかなと思ったんですが、その前にちょっと書き留めておきたいを思い出したので、放言しておきましょう。言ってしまえば、昨年の反省のようなものです。 最後に文章らしき文章を書いたのが、昨年の9月のはじめ、当時はまだ夏季休暇だったこともあり、友人と飲み歩き、青臭い思索に耽りっては時々文章に型取り、まさに蜜月ともい

          書くことと生きること

          届かない手紙

          拝啓 あなたへ お元気ですか。暑中見舞いでも書こうかなと思い、あっという間に三年近く経ってしまいました。三年間、書いては捨てての繰り返しでした。書こうとすれば、書かなかった言葉から、思いが零れるような気がして嫌だったんです。私は文章も上手ではありませんし、きっと何が言いたいかわからない、そんなお手紙になってしまうことをあらかじめご了承くださいね。 仕事もだいぶ落ち着き、ようやく近況を綴れそうなので、こうしてペンを取っています。 私は元気で暮らしています。母も、妹も、相変わ

          届かない手紙

          新しい友人

          「あんた、そんな顔してどうしたの?」 彼に告白された。突然だった。彼とは友達のつもりだった。確かに最近、一人で考え込んでいることが多かったけれど。まさか私のことだったなんて夢にも思わなかった。だから気晴らしがてら彼を誘ったのに。そんな時期もあると励ますつもりが、告白された。 「ごめん。帰る」 次の瞬間には目を潤ませながら、今来た道を走っていた。それなのになんで泣いているのかわからなかった。嬉し涙、悔し涙、紅涙…名前のない涙がひたすら頬を伝う。 彼とは友人を伝に知り

          新しい友人

          モノクロの秘密

          「秘密が欲しいんだ」 「えっ?」 開口一番、自分の耳を疑った。放課後よく通っていた例の喫茶店で会わないかと、唐突に連絡が来たと思ったらこれだ。狐につままれた感覚に陥るのも当然だろう。 彼とは小学生来の付き合いだった。ある日、彼は両親を火事で亡くした。彼は何ら変わるところなく、気丈に振る舞った。悲しみをおくびにも出さなかったけれど、かえってそれが痛々しく見えた。以来、彼の孤独を塞ぐことが自分の使命だと思うようになった。彼の背中をいつも見守っている自分がいた。一瞬でも目を離し

          モノクロの秘密

          帰国途上

          最後の投稿から早ふた月以上たってしまった。街を覆い尽くした冬の面影はほとんどなくなり、建物の影には太陽の目を盗みながら気息奄々と春を待つ残雪の様子が日常の風景となっている。少し可哀想である。僕はというと案の定、今年の目標であるひと月に10本以上の文章を書くという目標は早くも崩れ去ってしまった(年間で辻褄を合わせる姑息な手段に出るしかない)。 文章を書けなかった主な理由は、文章で考えを整理するほどの余裕を心に持てなかったからだ。学期末テストに加え、海外研修のための準備等もあ

          帰国途上

          年初めの蹉跌

          あけましておめでとうございます。今年もご愛顧のほど、どうぞよろしくおねがいいたします。 さて、新年早々ヘマをしでかしました。お年玉や初売りに浮かれた上機嫌で思わぬことを口走ってしまいました。これが問題のツイートです。 ③で恋をし、恋文を送り、振られると口走ってしまいました!別の機会に言えば言えば良いものをよりによって新年の抱負でいうなんて…。 たかがツイッターです。投稿ミスだと言って削除してしまいましょう。たかが目標じゃないですか。そうやって簡単に割り切れればいいんです

          年初めの蹉跌

          内面の浄化槽

          前回、5つのベストバイという駄文を綴りましたが、やはり物だけを綴って年納めをするのはあまりにも狡猾すぎるのではないかなと思いまして、この文章を書いた次第です。 つまり物の紹介にわずかなエピソードでも添えて小話を拵えれば、自分の内面を振り返ることなく今年を終えれたように錯覚できるからであり、これは極めて卑怯者の所業なのです。 ここで積もりに積もった内面の浄化槽の蓋を抉じ開け、そのメンテナンスがてら僕の内面世界がどう変化したのか一緒に付き合ってくださいませ。 1 対人関係

          内面の浄化槽

          5つのベストバイ

          今年も暮れです。一年を振り返るとき、その指標として何が良いだろうかと悩みました。人との邂逅物語?大した変化を遂げなかった筋肉量?TOEICのスコア?変化を見るには数量化された文章が一番簡明でよろしいのですが、あいにく一年を通した記録というものを持ち合わせておりません。 かといって出会った人物でランキングを作るにも、匿名の有効性の問題であったり、いささか道徳的配慮を欠いた文章になることは目に見えています。あれこれ悩んだ結果、今年のベストバイ5を綴ろうかと思います。 稚拙な文章で

          5つのベストバイ

          ユキとの思い出2

          そんな僕でも最近、雪を良いと思えたことがあったんです。たとえば何をやっても中途半端に終わり、弁明の言葉はどこか芯がなく、見知った友人の顔をすり抜けて空回りする日なんてのが月に2、3度あったりします。友人という幻想を信じたのが馬鹿だったと、人に信頼を寄せるなんて馬鹿のすることだとーもちろんそれは信頼という名の期待通りの諂いを受け取れなかった時の子供じみた失望感なのですがー人間への信頼を撤回しようとする心持ちでつく帰路での出来事でした。寒空は街を覆う未亡人のベールのような薄雲と共

          ユキとの思い出2