5つのベストバイ

今年も暮れです。一年を振り返るとき、その指標として何が良いだろうかと悩みました。人との邂逅物語?大した変化を遂げなかった筋肉量?TOEICのスコア?変化を見るには数量化された文章が一番簡明でよろしいのですが、あいにく一年を通した記録というものを持ち合わせておりません。
かといって出会った人物でランキングを作るにも、匿名の有効性の問題であったり、いささか道徳的配慮を欠いた文章になることは目に見えています。あれこれ悩んだ結果、今年のベストバイ5を綴ろうかと思います。
稚拙な文章ですが、これを読んでくださった読者の方々がそれを買ってくださり、生活の豊かさに寸毫にでも寄与できたならこれほどの幸せはないでしょう。

5 BOSE Soundlink micro bluetooth スピーカー

BOSEから発売されている小型ワイヤレススピーカーです。このおにぎり大のスピーカは見た目に反した強靭さとパワフルさを持ち合わせているのです。そう、ちょうど第二次性徴期を終え、あどけなさだけが今もなお顔に残っている青年のような!
彼が家に来てから僕の生活は一変しました。家のどこにいてもこの小柄なスピーカーは希望した通りの歌を、音源から2m以内であればどこでも音割れなく優雅な響きを持って部屋を満たしてくれます。それがたとえお風呂だとしても。水回りを疎ましがるのが電化製品の習いですが、この子は違うんです。公式サイトによりますと1mのプールに30分沈めたとしても水が浸水しないとのこと。なんたる堅牢性!このスピーカの優れたところはただそれだけではありません。さらに連続再生時間が6時間以上とまあ息の長いこと。これならワグナーのオペラを3回も視聴できてしまいます。

4サンタマリアノヴェッラ フリージア

サンタマリアノヴェッラは僕のお気に入りのブランドの一つです。値段が少々高く2万近くしますが、それを出すだけの価値が大いにあります。サンタマリアノヴェッラ は17世紀ごろに起源を持つイタリアの香水ブランドです。他にも化粧水やバスソルト、石鹸など蠱惑な商品ばかりが並んでおり、お店に来店されるときはなるべく財布を薄くして入るのが賢明です。
この香りはなんと言ったら良いのでしょう、まるでフラゴナールの描いた「ブランコ」の中でブランコの女性が一往復するときに生じる風です。この風はきっと世界中の花々の調和した耽美な薫香で、鼻腔を妖しくくすぐるに違いありません。
香水はお守りのようなものです。お気に入りの香水をつけるだけで、香りのベールが不思議と世の害悪から身を守ってくれるようで、なんだか心強くなります。きっと香水は、確たる唯物的な視点でしか物事を見れず、信仰心を持ち得なかった信仰者の発明した肉体的な護身符なのかもしれませんね。あっ、ちなみにこの製品はオーデコロンですので、香水ほどの刺激や持続性を欲しないという方には是非ともオススメです。

3Paperblanks 2019スケジュール帳(失われた時を求めて)

スケジュール帳!紙面に事前に印刷された予定にはどこか鼻を背けたくなる嫌悪感を禁じ得ません。それは、僕の齢がすでに実生活にあるいは世間の動きに根ざすことを要求されており、その軛を印刷された予定と同一視してしまう穿った見方を無意識にしてしまうからに他なりません。地に足をつけて生きていく難渋へ一歩踏み入れるため、例年通り無地の手帳か、印刷されたスケジュール帳を買うかでまる一月逡巡しました。が、結局この製品を購入しました。理由は、ズバリ装丁です。それ以外ありません。(印刷された軛など自分のペンで塗りつぶせば良いだけのこと!)
この装丁のテーマはマルセルプルーストの『失われた時を求めて』だそうです。プルーストは読んだことがないのですが、彼の原稿を一度ネットで拝見したことがあります。恐ろしいほど長大な文字列、二重線を引かれては書き直され、波打ち際のように余白を許さぬ文字が所狭しと貫入しては、次々と挿入されていくセンテンス、それはもはや一つの作品と化し、僕は深い感銘を覚えた記憶があります。その紙面がそっくりそのまま装丁となったこの製品を誰が買わないわけがあるでしょうか。
『失われた時を求めて』は極めて長い小説です。先日読んだ『プルーストと過ごす夏』というプルーストの入門本の冒頭にこんな感じのことが書かれていました「失われた時には1つだけ欠点がある。それは長いことだ。夏季休暇か、骨折し入院でもしないととても読めやしない」思わず笑ってしまいましたが、一度岩波文庫の赤コーナーで探してみてください。これほど分厚く長い小説はなかなか見当たらないと思います。
来年はこのプルーストに限らず世界文学の中でも雄偉でページを開くことを躊躇うほどの壮大な物語群を一気果敢に読破していこうという決意の表れでもあります。これに何か記すたび、僕はあの魔術的魅力を放射するプルーストの原稿の一頁を執筆している気がしてなりません。これなら一年飽きずに付き合っていけそうです。

2Macbook air

パソコンについてはよくわからないので客観的説明はあまり長く述べられませんが、現行のMacbook air では最高峰のスペックにカスタマイズしたものを購入しました。ノートパソコンのいいところは何よりどこでも執筆ができるということです。ワープロ機能(僕はまだ若いです)があるだけで、所構わず文章が展開できるというのは、物書きなら誰しも共感してくれるところではないでしょうか。パワーポイントやレポートを作る以外にも、例えばプログラミングなどにも興じて見たいと思うのですが、なかなか腰が重くて…。来年はまだ持ち運びタイプライターでしか機能していないこの製品をMacbookとして活用したいです。勉強します。

1オイディプス王 

人生の悲劇はある日突然起こるものもありますが、多くの場合、それは過去のある一点のボタンのかけ違いから連綿と続いた作用によって生じてしまうものです。これはそんなどうにも取り消せない過去の一点の過ち(この場合過ちとは未来に判明するものであるが)から身の破滅を招くオイディプス王の悲劇です。カタルシスの原義はアリストテレスの『詩学』によると「観客の心に怖れと憐れみで精神を浄化する」だそうですが、まさにこのページの最後を閉じたとき、不思議な、ずぶ濡れになったあとに見る初秋の空のような清涼感を覚えます。これはぜひ読んで欲しいです。

以上今年手に入れたものを基準に今年を振り返ろうとしましたが、なんだか失敗に終わってしまいましたね。ただの商品レビューじゃないですかこれ。一応最後に締めておきます。
ものには人と同じくらい不思議な巡り合わせがあります。あるものに出会ってしまったことで、人生が大きく左右してしまうことも多々あるのです。小金を手にした大人が心に留めておくべきこととは、いかに人生を害するものと出会わず、出会ったとしてもうまくやり過ごす術を身につけておくべきなのではないでしょうか。
みなさま、良いお年を。

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