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東京大学超域文化研究科文化人類学コース合格体験記

初めに

先日、修士課程を受験した東京大学より合格通知をいただきました。ようやく受験勉強が終わったので、自分の経験を整理するためにこれを執筆していこうと思います。ご笑覧くだされば幸いです。 

執筆者の背景

まず、執筆者である私の背景から説明します。私はもともと地方国立大の理工系学部で入学し、3年次へ上がる段階で人文系へ転学しました。したがって、それまで人文系の授業は趣味で履修した程度で、基礎がそこまであるわけではなく、今も必死に勉強中です。
3年次からのゼミはジェンダー・アメリカ史でした。学部時代に英語圏への複数回の留学(最長で4週間)経験があり、英語は日常会話レベルでした。ゼミで山ほど英語文献を読まされたので語学勉強に関しては割愛します。ただ一つ付言しておくとすれば、語学科目は共通科目、専門科目ともに得意であった英語を選択しました。自分の得意分野で勝負するのが吉です。英語の勉強に関しては旺文社から出てるパス単1級のみ単語の復習に使用しました。
文化人類学の授業は学部時代に受講経験はありません。大学卒業後、院生向けに開講されている入門授業に特別に参加させてもらいましたが、仕事の都合でレジュメの作成や発表経験なく聴講のみでした(計5回程度の出席?)。
大学卒業後は半年ほど就業しておりました。仕事は11月末で退職。8月末からボチボチ本を読んでいましたが、本格的に受験勉強を開始したのは11月からです。
ちなみに試験勉強はものすごく苦手で、センター試験の数ⅡBは30点代でした(理系なのに…)

勉強時間

こんな感じ。8月9月はお盆休みの旅行等でほとんど勉強しておらず、この時は英単語をメインに勉強しておりました。専門科目である文化人類学に関しては10月から始めたと記憶しております。

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受験勉強の手順

以下では具体的な院試の勉強(専門科目)の手順を紹介します。

①過去問の傾向把握
・過去問を5年分入手(平成27〜30年、令和2年)
※メルカリで買いましたが、最近は生協のHPでも購入が可能なようです。

・問題構成として5年分を見た感じ以下のように形式化されています
第一問目:研究関心を広く人文社会諸学問と結びつけながら論じる問題
第二問目:選択キーワード論述(例:儀式、宗教、エスニシティなど)

・具体的な対策順:第二問目→第一問目
※第一問目は自分の研究関心について論述する問題であり、研究計画を会場で答案に再現するようなものなので、研究計画が大まかに固まってきてから解答を作った方が効率的です

(第二問目)9月くらいからスタート
・論述キーワード(第二問目に相当)をスプシ(Excelでも可)に抽出します

・キーワードを分野ごとに色分け
 ※1 例えば贈与とポランニーは経済で緑、自然と人間中心主義は青というような形でマーキングし、あくまでも自分の得意な分野でそのキーワードが論じられるか否かが基準です
 ※2 このマーキングは学習が進んでいくとキーワードと色が一対一の対応関係で整理できなくなっていきます。それこそがあなたの学習の成果なのです(!)

こんな感じで最初は適当に

・色分けしたキーワードで自分が特に気になる分野を3〜4つくらい選ぶ(僕の場合は経済人類学、マテリアリティ、宗教人類学、構造主義人類学でした)
★大事なのは興味関心に基づいてキーワードを選び集中的に文献を読んでいくことです!逆に全部のキーワードを適切に論述できるようになろうと完璧主義に陥ってしまうと時間が足りなくなります。

(第一問目)12月からスタート
・まずは研究計画の完成を第一に考えます
※この際、人にとにかく読んでもらってください。その分野を知らない人であればあるほど自信があるいはその分野に詳しい人が見落としがちな部分や曖昧な部分にクリティカルなコメントをくれることが多いです。

・研究計画が大まかにできたら、それが人類学のみならず他の近接分野といかに関係しながら述べられるか肉付けしてみます
※第一問の問題文は大体近接分野との関連で述べるよう指示がされているため、幅広い人文科学系の知識を問う意図があると思われます
→例えば、先住民女性を研究するのであればインターセクショナリティや入植者植民地主義について論じた文献を読み、解答に反映していくなど

②読書
読書の順番は基本的に以下の通り
⑴人類学入門書的な大枠をつかむやつ2、3冊(とりあえず全部の◯◯人類学に触れてみる)

⑵興味のある分野について絞っていく(大体似たような名前の人が特定の分野を執筆しているので、上記⑴の参考文献リストを参照)

読む、読む、読む
※この段階ではまだノートを作る必要はないです。何回も読んでください。次第に用語や説明が場所記憶として、つまりページの左上に書いてたなとか、A本とB本は似たことが書いてるなとか、情報が徐々に頭の中でリンクするまで読み返したら次の段階です!
この教科書を何遍も読む勉強法は、弁護士である山口真由氏の書いた『東大主席が教える7回読み勉強法』を参考にしました。

読んだ本(◎オススメ ◯普通 △参考程度)

あくまでも僕が読んだ本のリストで上記の区分は「受験勉強」に関してオススメか否かです。他にいい本があったら教えてください。一緒に勉強しましょう。

△シュルツ『文化人類学--人間状況への視角Ⅰ・Ⅱ』古今書院
◎桑山敬己&綾部真雄『詳論文化人類学:基本と最新トピックを深く学ぶ』ミネルヴァ書房
◎綾部恒雄『文化人類学20の理論』弘文堂
◎竹沢尚一郎『人類学的思考の歴史』世界思想社
◎岸上伸啓『はじめて学ぶ文化人類学ーー人物・古典・名著からの誘い』ミネルヴァ書房
△内堀基光、本多俊和『文化人類学』放送大学、2008
◎小田亮『レヴィ=ストロース入門』ちくま新書
◯アネマリー・モル『多としての身体』水声社
◎前川啓治『21世紀の文化人類学』新曜社
◎本橋哲也『ポストコロニアリズム』岩波新書
△山下晋司『文化人類学キーワード』有斐閣
◯栗本慎一郎『経済人類学』講談社学術文庫
◯メアリ・ダグラス『汚穢と禁忌』ちくま学芸文庫
◯波平恵美子『病気と治療の文化人類学』ちくま学芸文庫
△橋爪大三郎『はじめての構造主義』講談社現代新書
△平野千果子『人種主義の歴史』岩波新書
◎新ヶ江章友『日本の「ゲイ」とエイズ:コミュニティ・国家・アイデンティティ』青弓社
◯兼子歩『「ヘイト」の時代のアメリカ史』彩流社
◎竹村和子『思考のフロンティア フェミニズム』岩波書店

③まとめノート作成
・僕はGoogleドキュメントで作成しました。手書きがめんどいのと検索ができるからです

・色分けしたカテゴリー別にドキュメントを作成
例えば構造主義や経済人類学といった大きな枠でまずは作り、キーワードを羅列していきます

・キーワード1つのみで解答を埋めることは難しいので、過去問のキーワードからいかに派生した論述ができるかを想定して解答を作っていくと良いです
例)観光人類学の文脈で「グローバリゼーション」を論じるとき、同時に「移動」「国家」「モダニティ」が論じられてかつ解答の流れが自然な論述を作成する
→仮に「国家」に関する論述を忘れたとしても残りのキーワードで解答を埋められる

・過去問は出題されるジャンルに明確な一貫性がなく、どの分野で出されてもその場で答案を作る必要があるため、ノートに作ったキーワードの論述を適宜その場で組み合わせる必要があります。
例)出題が「国家」の場合で、グローバリゼーション→移動→国家→モダニティの流れでまとめノートを作成していた場合、国家→モダニティ→グローバリゼーション→移動のようにキーワード間を並べ変えても成り立つような柔軟性(レヴィ=ストロースのいう「変換」)が成立するようなノート作成を意識することがとても大事です

・僕は最終的に大体10冊程度、1冊のノートで5〜7ページ分作成しました

④紙に書き出す
・デジタル機器で書くことに慣れきった現代人の我々ですが、本番はアナログにペンを持って解答するため、真っ新な白紙にまとめノートで作成した解答を再現できるような練習が必要です(ペンの再身体化が重要なのです!)

・僕は「婚姻」の「姻」の字がわからず、当日もド忘れして冷や汗をかいた経験があります、なので積極的に手で書きましょう

・はじめはまとめたはずの知識が全く書き出せず焦るかもしれませんが、とりあえず写経していくのが吉です!本番にはある程度まとめノートを再現できるようになってます

最後に

これを読んで下さっている大半の方は、おそらく東京大学の受験を考えているけれども卒業研究やゼミ等で追われている大学生や、日々の仕事などでなかなか受験勉強に時間が割けない方だと思います。僕が受験勉強を始めた時はまだ十分な体験記が見当たらず、僕自身地方にいながら手探りで、時に友人の院試勉強を参考になんとか乗り越えました。なので、この体験記は未来の受験生に向けて書いた経験談でもあり、当時の自分が読みたかった受験指南でもあります。
上記で示した一体験記が皆様の参考になったら幸いです。そして、見事合格を勝ち取って、これを読んでくださっている方と一緒に人類学を研究できるのを楽しみにしております!もし記事が参考になったら末尾の購入の部分からぜひご支援いただけると嬉しいです。書籍購入代及びコーヒー代として大切に使わせていただきます。


追記:2024/07/17


この受験勉強の成果というほど大袈裟なものではないですが、先月東京大学から大学院卓越大学院GSI-WINGS 卓越リサーチアシスタントに採用されました。これは僕が所属する総合文化研究科の支援制度で、修士課程は2年の期間で月15万円、博士課程であれば3年で月18万円の給与が支払われるものです。
提出書類等はコースによって異なりますが、文化人類学コースに絞って言えば、入試の成績のみで判断されるため、受験勉強をしっかりこなしておくと博士までの金銭的な不安をそこまで考えずに研究に専念できる環境が手に入ります。
参考までに先日開示した僕の大学院入試の成績を載せておきます。


これも受験勉強のモチベになるかと思います!
以下に卓越リサーチアシスタントの詳しい概要も貼っておきますので各自ご確認いただけたら幸いです。


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