見出し画像

北村早樹子のたのしい喫茶店 第22回「渋谷 人間関係 cafe de copain」

文◎北村早樹子

 渋谷には、ちょうどいい喫茶店があまりない。昔は色々あったけれど、近年潰れてしまったりで、渋谷と言って思いつく喫茶店は、名曲喫茶ライオンくらい。しかしライオンは厳かすぎて間違ってもパソコンなんか開けない。なので今回限り、喫茶店ではなくカフェを紹介することをどうかお許しください。
 スペイン坂の中腹にある、人間関係 カフェ・ド・コパン。ここは夕方まではカフェ、夜はバーになるキャッシュオン式のお店なのだけど、店内色んな椅子や机があり、わたしは行ったことないけど、海外のパブのような席から、純喫茶のような席まであって、ひとりでも入りやすいし、友人とおしゃべりするのにも楽しく使える、そんなお店だ。わたしは家だとあまり原稿が捗らない人間で、ちょっと雑音があるぐらいの方が集中して書き物が出来るのだけど、ここ人間関係はちょうどよい騒々しさで居心地がいいので、重宝させていただいている。

 だけどそれだけじゃなくって、わたしが人間関係で原稿をやる理由、それは店長さんが応援してくれているからだ。
 ある日、いつものように人間関係でコーヒーを飲んで原稿をやって、さて帰ろうと外に出たら、急なにわか雨が降っていた。わたしは傘を持っておらず、外を見ながら唖然としていた。すると、入口の席でパソコンを開いて仕事していたおじさんが「傘、貸してあげようか?」と声をかけてくれた。そのときはそれが店長さんだとわからなかった。しかし私服姿のそのおじさんは店の奥の方から傘を持ってきて、渡してくれた。あ、お店の人なんだ。「ありがとうございます」とお礼を言って、その日は店を出た。
 その翌週も、いつものように人間関係でパソコンを開いて小説とにらめっこしていた。すると、この間傘を貸してくれたおじさんが、
「もしかして、小説書いてるの?」
 と、話しかけてくれた。今日は制服を着ていて、名札に「店長」と書いてあった。
「はい、実はそうなんです」
小声で答えた。すると、
「頑張ってね」
 と言って、クッキーを渡してくれた。
 わたしは今まで誰かに執筆を応援されることなんてなかったので、なんか、すごくうれしかった。喫茶店やカフェでパソコンを開く行為って、実は結構危険な行為で、お店によっては露骨に嫌な顔をして注意されたり、注意されないまでも、苦々しい顔をされたりする。そら飲食店で、飲食以外のことをされるのは、お店としてはあまりうれしくないのはわかる。だからわたしは実はいつもびくびくしながらパソコンを開いている。なのだけど、人間関係の店長さんは、応援してくれたのだ。
 それからは、お店で顔を合わせる度に、
「頑張ってるね」
 と声をかけてくださり、それを励みに小説を書かせてもらっていた。ちなみにこのとき書いていた小説が、扶桑社から出る予定の実録小説『ちんぺろ』。『ちんぺろ』の半分くらいはここ人間関係で書いた。これは出版出来た暁には、店長さんに渡しに行かなくっちゃだな、と思っていた。それが先日、衝撃の事実を聞かされた。
「実は僕、秋葉原のお店に異動になっちゃって。今月いっぱいなんだよね」
 ええええーーーー! ショーック! でも、それは仕方がないことだ。つらいけれど受け入れるしかない。
 中島店長、いつも本当によくしていただき、ありがとうございました。人間関係があったから、中島店長がいたから、書き上げることが出来た気がしています。
 そんな、個人的なエピソードを差し置いても、人間関係はとてもいいお店です。

 まず、お値段がとてもリーズナブル。渋谷のど真ん中にありながら、コーヒーが280円でいただける。そして人間関係の名物と言えば、スコーン。フレーバーがとても豊富で、チョコや抹茶や黒ごまあずき、イチゴやフルーツグラノーラやチョコミントなんかもあるけれどわたしの一押しはラムレーズン。温めて生クリームを添えて出してくださるので、ほっくりしてて食べ応えもあって、コーヒーにも抜群に合うし、わたしはいつも昼ごはん代わりにいただいている。しかも、こんなにおいしくて120円! 信じられない安さ! スコーンって、専門店などに行くとひとつ300円も400円もしたりするので、人間関係のこのクオリティでこのお値段というのは奇跡。

 他にもランチタイムはホットサンドと飲み物のセットが640円でいただけて、わたしはモツァレラとベーコンのホットサンドが大好き。モツァレラがもっちもちで最高。もちろんパスタのセットや、ビールやフィッシュ&チップスなんかまで、とにかくメニューがめちゃくちゃ豊富。渋谷でお店に困ったら、とりあえず人間関係へ行けば間違いないです。中島店長はいなくなっちゃったけど、今でも定期的に人間関係で原稿しています。わたしの執筆活動に欠かせないお店です。

 

今回のお店「人間関係 cafe de copain(カフェ・ド・コパン)」

■住所:東京都渋谷区宇田川町16―12   
■電話:03―3496―5001
■営業時間:9時~23時15分 
■定休日:元旦

撮影◎じゅんじゅん

北村早樹子

1985年大阪府生まれ。
高校生の頃より歌をつくって歌いはじめ、2006年にファーストアルバム『聴心器』をリリース。
以降、『おもかげ』『明るみ』『ガール・ウォーズ』『わたしのライオン』の5枚のオリジナルアルバムと、2015年にはヒット曲なんて一曲もないくせに『グレイテスト・ヒッツ』なるベストアルバムを堂々とリリース。
白石晃士監督『殺人ワークショップ』や木村文洋監督『へばの』『息衝く』など映画の主題歌を作ったり、杉作J太郎監督の10年がかりの映画『チョコレートデリンジャー』の劇伴音楽をつとめたりもする。
また課外活動として、雑誌にエッセイや小説などを寄稿する執筆活動をしたり、劇団SWANNYや劇団サンプルのお芝居に役者として参加したりもする。
うっかり何かの間違いでフジテレビ系『アウト×デラックス』に出演したり、現在はキンチョー社のトイレの消臭剤クリーンフローのテレビCMにちょこっと出演したりしている。
2017年3月、超特殊装丁の小説『裸の村』(円盤/リクロ舎)を飯田華子さんと共著で刊行。
2019年11月公開の平山秀幸監督の映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』(笑福亭鶴瓶主演)に出演。
2019年より、女優・タレントとしてはレトル http://letre.co.jp/ に所属。

■北村早樹子日記

北村さんのストレンジな日常を知ることができるブログ日記。当然、北村さんが訪れた喫茶店の事も書いてありますよ。

■北村早樹子最新情報

①北村さんが音楽を担当したコント好演が開催!

10月22日(土)
シビレクラブ第1回単独コント公演
『ひょうたんからユリイカ』
場所:新宿ハイジアV1
時間:19時から
出演:シビレクラブ(住倉カオス/村上ロック)、BBゴロー、衣織、田中俊行、街裏ぴんく
音楽:北村早樹子
作:高田公太
演出:シビレクラブ

②10月25日(火)「東京30人弾き語り2022」出演!

1本のギターを30人で回し弾きするヨコチンレーベル企画の名物イベント「東京30人弾き語り」に北村さんが出演します。

③11月14日(火)北村早樹子ワンマン開催!

11月14日(月)
北村早樹子ワンマン第8回
場所:阿佐ヶ谷よるのひるね
時間:19時半開場19時45分開演
チャージ2000円+1D
ご予約の方はkatumelon@yahoo.co.jpまで、お名前、枚数、連絡先を明記の上、送信してください。
(完全予約制)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?