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デジタル時代のガバナンス:経産省の2つの報告書を読んでみた

社会システムの歴史と未来を妄想するのが好きなスミさん。新しいガバナンスに関する異なる二つの政府報告書から、ひとつのメッセージを探ります。

1.社会システムのこれからを妄想。

図22

2か月ほど前、コロナ禍を通じて、政府と私たち市民の関係について内省してみた(多くの方に読んでいただき、ありがとうございます!)。
このとき思った、こんな素朴な気持ち。

「テクノロジーの発達のおかげで、プライベートはこんなに素敵でイケてるのに、政府ってイケてないよなあ(今までそこまで困らなかったけど…)」

このときは、政府が私たちに「見える形」でもたらすサービスや政策の方針について考えました。

では、私たちを「見えない形」でとりまく、政府と私たちの関係、社会システムそのものについてはどうでしょうか?

歴史を振り返れば、社会システムは、
古代ムラ社会のコミュニティや人的な紐帯に始まり、17世紀以降いわゆる”政府”も作り上げながら、「個人の自由と安全を守るための協力スキーム」として存在してきました。

前述のとおり、日常ではあらゆることにイノベーションが起きています。

では社会システムについては、テクノロジーはどんな可能性を開いてくれるんでしょうか?

2.政府文書は、おトクな勉強道具

図23

さて、話がイキナリ逸れますが。

最近、政府文書は実は勉強資料としておトクということに気が付きました。
内容はそれなりに充実しているし、ネットで見れて無料だし、リンクフリー。

探しづらいのと読みづらいというネックを除けば、勉強の材料としてはまあまあ面白い。
いろいろ見ていると、政府の文書は、だいたい3種類に大別される気がします。

 ① 具体的政策についての資料。
 ② 国内外のファクトについての資料。
 ③ 未来予想についての資料。

今回、このうち3番目にあたりそうな報告書で、デジタル時代の社会システムを考えるヒントを見つけたのでご紹介します。

ひとつめは今夏にアップデート版がリリースされているこちら。
本文は70ページ超と結構な長編です。

GOVERNANCE INNOVATION: Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン【2020年7月 経済産業省】
 -リンクはこちら:概要本文
 (画像はHPから拝借しました)

図2

ふたつめは昨夏にリリースされたこちら。
概要がコンパクトでとっつきやすい一方、「結論は本文をお読みください」方式です。

21世紀の公共の設計図 小さくて大きいガバメントのつくりかた【2019年8月 経済産業省】
 -リンクはこちら:概要本文
 (画像はHPから拝借しました)

図1

二つともタイトルだけ読むとなんのこっちゃわからない。
ポイントは、それぞれ別の軸で、これからの社会システムを論じていること。

ひとつめ:どんどん進化する民間ビジネス・企業行動について、リスクを管理し安心安全を守る一方で、イノベーション促進とどう両立させるか

ふたつめ:公共サービスについて、財政制約が厳しくなる一方で、多様化する国民のニーズにどう応えていくか

このための仕組みを、デジタル時代の今、どう変えていくか?
というのが共通するテーマになっています。

3.さて、何が書いてあるのか。

図24

まとめると長編になるこの二つの報告書。
側面は異なるが、要は同じことをいっている(気がする)

一言(二言?)でまとめると、こうです。

「ビジネスの安全規制も、公共サービス供給も、今まで政府自身が直接実施してきたが、今の時代のビジネスの進化や財政難で、こうした従来の社会システムは限界に来ている。

なので、テクノロジーを使って、政府に限らず様々なプレイヤーがリスク管理やサービス供給に参加できるよう、システムをアップデートすべきだ。
こうして、よりサステナブルかつ、さらに安心・安全・質を高めていく。」

「ハテ???」と思った方、すみません。
もう少し中身についてまとめると、こんな感じ。
ひとつめの報告書が左のミント色、ふたつめが右のサーモンピンク色。

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・・・どうでしょうか。
この二つ、左右で全く別の報告書なのに、同じことを言ってる気がしませんか?

「今まで規制も、サービス供給も政府が請け負ってきたけど、これからは政府だけじゃなくて、”みんな”でやっていく方向を目指そう。
その方が、効率いいし、クオリティも高くできるじゃん。

ただ、丸投げしても、うまくいかない。
政府側は、
”皆でやってける環境・仕組み”(情報開示のルールやら、ビジネスのコスト削減になるデジタル公共財整備やら…)を整備するよ。」

という。

4.新しいシステム上での新しいPPP

図25

さて今回、新しい社会システムの妄想から始まりました。
2本の報告書を読みました。

ここからは私の感想です。

遡ること40年前のサッチャーの小さな政府にせよ、中曽根行革にせよ、20年前の橋本行革にせよ、「官民連携」「PPP(Public Private Partnership)」などのワードは今では陳腐化されたものになっています。

そもそもなぜ、規制や公共サービスがあるのか?
それは、「政府にしかできないから」です。

というか、「今までは政府にしかできなかった」からです。

これまでの社会システムは”情報の非対称性”や、”高いコスト”などのせいで、放っておいたらマーケットにおいて自律的に担保されないことを、「政府」の機能として持たせてきました。

ですので、単にそのままの条件で、「民営化」「官民連携」に出しても、この政府と民間の線引きは変わりようがありません。
結局、補助金での底上げや政府の積極的な確認が必要になり、実態としてはあんまり変わらないことも多いでしょう。

しかし現代では、テクノロジーをうまく活用すれば、情報の偏在やコスト構造など、従来の「市場の失敗」をつくった前提が変えられるようになってきた。

つまり、

「市場の失敗問題は、社会システムをテクノロジーを活用して組みなおせば、政府に頼らなくても、市場や色んなプレイヤーの力で、もっとうまく解決できる」。

政府は、そのために法制度やインフラなど社会基盤をアップデートする。

このような、より現実的だけどより野心的なPPPを支える社会システムを提案しているのが、この二つの報告書の共通メッセージのようにも見えました。

ふたつめの報告書のサブタイトルが「小さくて大きい政府」になっているのは、こういうことかな?(「政府が国民や企業に直接何かすることは少なくなる、でもそうした多様なプレイヤーが動けるインフラ整備という役割はより大きくなる」)と思いつつ、

スミさんのカリフォルニアの金曜深夜はふけていくのでした…。

(今回は鳥瞰的に読み解きましたが、報告書にはいろんな事例も出てくるので、興味のある方用にリンクを再掲しておきます)

GOVERNANCE INNOVATION: Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン【2020年7月 経済産業省】
 -リンクはこちら:概要本文
21世紀の公共の設計図 小さくて大きいガバメントのつくりかた【2019年8月 経済産業省】
 -リンクはこちら:概要本文

(もしよければこちらもご参考ください!)

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