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FBI交渉官とタモリは喋らない:トーク市場のミスマッチ

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第19回)。

1.PodcastのまずいMC(とスミさん)

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーもしもし。

こんにちはー。
おお、コワーキングスペースですか?

ーそうだよ。飲み物もフリーで落ち着いてて、良いよ。
料金もリーズナブル。

お洒落な所ですね~。しゃべってもいいんですか?

ーうん。ここは談話スペースだから大丈夫。

それは良かった。
最近、私のほうはべらべら喋り過ぎだなって反省してて。

ーどういうこと?笑

いや、コイさんの話を聞いてると、すぐ関連すること思いついて私が話しちゃうというか。
もっと話を聞こうと思ったのにって、いつも電話切ってから反省してる。

ー笑。

たまにちゃんと口をつぐむと、話を盛り上げられず難しいですねえ。
コイさんって話を私から引き出すのが上手いよね?

ーそう?まあ、どちらかといえば話すより聞く方が好きだね。

ふむむむ。
最近聞いたPodcastでね、トピックは面白いのにイマイチだなーって思うのがあって。

ーほう。どんな。

ゲストが歴史学者とかで、すごく面白いイキイキした話をしてくれるんだけど、MCがよく「それってつまり、○○っていうことですか?」って返すのよ。

ーふむふむ。

一見、知的な返しに聞こえるんだけどさ。
せっかく学者先生が面白い話してるのに、そのMCの考え方の枠に整理しちゃうから、話の可能性が半減してる感じがして。

ーなるほどね。
しかも、そう言われたら大抵は、否定せずに「そうですね」って返すよね。

そうなの。
”ん~、ちょっとニュアンス的には違うけど、まあそう言えなくもないか…”みたいな。

ー相手の話を引き出すんじゃなくて、整理しちゃってるうよね。
既存の枠にカテゴライズしちゃうと、それ以上話も広がらない。

2.FBIもタモリも松本人志も、喋らない

図23

逆に、最近、なるほど思ったこともあるんですよ。
元FBI交渉官のChris Vossのオンライン授業を受けたんですけどね。

ーほう?

Chris Voss:アメリカの実業家、作家、学者。元FBI人質交渉人、ブラック・スワン・グループ・リミテッドのCEOであり、『Never Split the Difference(邦訳:逆転交渉術 まずは「ノー」を引き出せ)』の共著者。ジョージタウン大学MBAの非常勤教授、南カリフォルニア大学MBAの講師を務める。(Wikipediaより筆者和訳)

いわく、相手の話の「最後の3 words」をおうむ返しに聞くと、相手が自然に喋ってくれるって。
3wordsってのは英語だから、日本語だと相手の「文章の目的語」になるかな。

ーどういうこと?

たとえば極端に言うと、こんな感じ。

<例>
Aさん「昨日、駅前のカフェに行ってきたんだけどめっちゃ良かったよ。」
B君 「おー。あの駅前のカフェ?
Aさん「そうそう、カロリー半分で栄養はめっちゃ摂れるっていうケーキが目玉なの。わたし健康生活続かないから、ここなら続けられるかも笑」
B君 「そんなケーキがあるのか笑。健康生活、続けるの難しいよねー。
Aさん「そうだよー。最近Youtubeのワークアウト動画見てたんだけど、全然続かなくてさー…」
B君 「へえ。Youtubeの動画?
 ・・・続く

ーなるほどね。
「と、言いますと?」みたいな効果に近いね。相手の話を引き出す。

そうかもしれない。
コイさんよく「ほう?」とか言うし笑。

ー俺も20代の時、お笑いのMCについて研究したなあ。
タモリとか松本人志とか明石家さんまとか、相手の話を引き出すのが上手いんだよね。

みんな、自分で面白い話なんていくらでもできるだろうに。

ーこの「喋らない」ってのが人間、意外に難しい。
こんなこと知ってる、こういう話がある、って「自分が自分が」とマウントしたり自己顕示してしまう。

やっぱり無意識に、”相手に認めてもらいたい”っていう感情が先立っちゃうもん。

ーそうだよね。
聞き上手な人が話すときって、自分の話のためじゃなくて、相手の話を引き出すために、別の視点やインサイトを「添える」くらいだよね。

うん。確かに、コイさんが「こんな話もあるよ」って言ってくれると、私もそれにインスパイアされる。

ーそれで、もっとぺらぺら喋ってしまうと。笑

そういうことだあ。笑
独白じゃなくて対談の良いところって、お互いのフュージョン(※)だもんね。私も喋ってばっかじゃなくて、そうなりたい。笑

3.トーク市場、需給のミスマッチ

図24

ーしかしそう考えると、現代はなかなか、自分の話を聞いてもらう機会がないね。

そうですねえ。
仕事だと「簡潔にポイントを話せ!」って言われるばっかりだし。

ー友達でも、「自分の話つまんなくないか?」とか思ったりするもんね。
圧倒的に信頼できて、しかも自分に興味持ってくれる相手じゃないと、安心して話が出来ない。

それ、私の最初の話はそれですよ!
私がコイさんに対して抱いた反省です。

ー笑。

根本的には、やっぱり人間、自分の話を聞いてもらいたいニーズが圧倒的に大きいと思うんですよ。

ーそれはそうだね。
話を聞いてくれる人がいないから、どうにもマーケットがバランスしない。笑

カウンセラーさんとか心理士さんって一見そういう職業だけど、本質的にはまたちょっと目的が違うんだよね。
一回カウンセリング受けたことあるんだけど、「広げてくれる」というより「整理してくれる」という感じ。

ーそうなんだ。
確かに、”私の考えを聞いて、パフォーマンスを見て!”っていうのは受け皿がなかなか無いかも。

noteとかSNSとか、”発信する方”のプラットフォームは結構整備されてきたけど、言いっぱなしじゃなくて”聞いてもらう方”は、場があればいいわけじゃないか。
テクノロジーにはなかなか頼れないなあ笑

ーそうだね。
まあ結局、聞き上手で相手に面白いインサイトを与えられる人は、話が聞いてもらえるんじゃない。笑

ぐぬぬ。やっぱり精進しよう。
まずはコイさんと話すスタイルを意識しよう。

ースミさん聞き上手だとは思うけど、はい。笑

じゃあ今日はこのへんで!今日も楽しかったです。
そろそろ寝ます!

ーはーい。俺はおやつ買ってこよ。

いいな~!ではでは、また。

(…Facetime終了)

★参考文献★
『Chris Voss Teaches The Art of Negotiation』(Masterclass) https://www.masterclass.com/
『タモリと明石家さんまの神がかった会話術の裏には1つの共通点があった!』https://u-note.me/note/47486456

※「話のフュージョン」については、6月のFacetimeで関連したトークをしていますので、こちらもよければどうぞ!
参考:対話型メディアの優位:書道とパネルディスカッション



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