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好きだった世界をみんな連れてゆく


好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ(東直子)

 「環境が人を作る」という言葉をわたしは信じている。
 住む場所、学ぶ場所、働く場所。関わる人。そして、読んだ本や見た映画。
そういった環境が、遺伝以上に人を作り上げていくのだと思っている。

 2年前あの人に振られて、わたしは自分のことが大嫌いになった。
 というかそもそも自己肯定感の低かったわたしを肯定してくれたのは彼だったので、元に戻ったというのが正確かもしれない。魔法のように自分を認めることができるようになったその前提を失い、わたしは途方に暮れてしまった。ああもう自分を全て変えないといけないな、と思った。

 そうして考えた時、一番自分を構成しているものといえば、やはり本だと思った。
 これまでずっと、本を読むことで自分を守ってきた。自分の価値観を形成してきたのも読書だと思うし、本のおかげで自分の意見を持っていた。
 けれどその価値観がダメだと思った。それに小難しい新書を読んで何かをわかった振りをしたり、小説を読んで感受性を磨いた気分になったりと、自分の邪悪さを形成しているのもまた読書なのだと知っていた。
 だから、持っていた本の多くを売り払った。

 映画も見られなくなった。
 これに関しては自業自得なのだけど、わたしは好きな人に自分の好きなものを勧めがちである(というか自分にとってコンテンツは大事なものなので、それを勧めることはかなり相手に愛がないとしない)。その結果、お気に入りの映画にはほとんど彼と一緒に見た思い出がある。だからわたしは大好きだったLA LA LANDがもう見られない。

 そして、持っていた服をほとんど捨てた。
 かつてわたしにはなりたい自分像が明確にあって、前髪ぱっつんに腰近くまである黒髪ウェーブにし、古着のワンピースなどを合わせていた。ミューズは小松菜奈やマンナミユカ。全くもてない服装だったと思うし、自分に似合っていたかもわからない。でも、だから何? と思っていた。この格好だとわたし自身が楽しいのだから、何にも問題はないでしょう? と。
 だけど全部捨てた。髪も切って染めて、前髪を伸ばした。

 無難な格好をして、無難な化粧をして、本を読まなくなって。
 だけど、それで何になったと言うのだろう。

 最近ではもう彼に固執する感情はほとんどない(2年弱前のことなのだからそうであってくれないと困る)。そしていざ己を省みると、明らかに空っぽになった自分に愕然としてしまうのだ。

 「眞野さんは絶対に嫌われないよね」
 就職してから同期にも先輩にもこうやって言ってもらうことが多い。自分の毒気を形成するようなものを排除していった結果だろうか。なら2年前にわたしが狙ったことは達成できたことになる。
 だけどわたしは今の自分が、やっぱり好きではない。

 たしかにあの頃のわたしはダメな人間だったかもしれないけれど、彼の好みではなくなっていたかもしれないかもしれないけれど、だけど明確に自分なりの価値観があり、好きなものも持っていた。わたしの良いところを作り上げてくれていたのもまた、わたしの好きだった本や洋服や物語だったはずだ。
 だって振られる直前まで、わたしは自分のことを好きだった

 というわけで、最近では自分が好きなものをもう一度思い出したいと思っている。思っているんだけど、何が好きなのかもうよくわからなくなってしまっていて困る。特に容姿に関してはもう無理だ。綺麗だな、と思う人はいるけれど、なりたい人はいない。悲しいな。またわたしにとってのミューズが見つかるといいな。


P.S.
写真はモネの睡蓮です。フランスに行った時に撮影したもの。
夢みたいにきれいな絵画だったな。
海外旅行も以前ほど行かなくなってしまったけれど、パリにはまた行きたいな。





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