見出し画像

記録

前話|あらすじ|次話


ある日の午後、某国大統領執務室にて

「これは何だ?」
「大統領が最近あちこちで仰ったことを文章にしたリストです」
「記憶にないモノもあるな」
「記憶にないというのはもう通用しませんよ」
「そうだな。すべて記録されているのだからな」
「そうです。国民全員にチップを埋め込み、すべての会話を記録できるようにしたのはあなたですからね」

「非難するような言い方だが、そのお陰で言った言わないの論争はなくなったぞ」
「そして内密の話も出来なくなりましたよ」
「ハハ、小細工も裏工作も出来なくなったのだから、正面からぶつかるしかなくなっただろ」
「そうですね」
「いじめも誹謗中傷もなくなったようだし」
「国民全体の会話量が減りましたけどね」
「話した言葉も書いた文字もすべてが対象だからな」

「表現の自由はなくなりましたね」
「いや、表現の自由はあるぞ。ただ自由に表現すれば必ず誰かがチェックしているし、行き過ぎたり過激すぎると潰されるだけのことだ」
「そうですね。行政機関が動かなくても国民全員で監視していますからね」
「国民のための政治が花開いたということではないのか」
「それはどうでしょうか」

「それで今日はなんだ?」
「法を侵す輩が増えてまいりまして」
「どういうことだ?」
「言葉を管理されるのがイヤで勝手にチップを外す輩が増えているそうなんです。肉ごと抉り取るようで、その叫び声が最後の記録になっています」
「それほどまでか」
「書かれた記録も暗号化されつつあり解読するのに時間を要するものも出てきているようです」
「そんな状態ならこの法律はあまり意味をなさなくなったということか」
「今のところは一部の輩だけですが、これが広まればそうなります」
「国会議員だけでもこのままにしてくれると国会の運営が楽なんだがなぁ」
「そうですね。官僚や職員も質問書も答弁書も必要なくなりアジェンダ1枚になって、かなり仕事環境は改善されましたからね」
「本音をぶつけ合える方がよほど国の為になると思うのだが、また虚々実々の駆け引きが戻ってくるのか」
「各省庁から嘆き悲しむ声が聞こえてきそうです」
「とはいえ意味のないことを続けるのもなぁ」

「ではどうされますか?」
「それなりに金を掛けたのだからもう少し踏ん張ってみたいところだが、意味がなくなっていくのなら仕方ない、廃案にするか」
その時、執務室の窓から『ウオォー!!』という大歓声が聞こえてきた。

「どうやら我々の会話も筒抜けのようです」
「テラスに出て手でも振ってくるか」
「それがよろしいかと」



※冒頭の【前話|あらすじ|次話】はダミーです。
 何となく格好いいかなって。
 そのうち本物になるかもしれません。
 色々すみませんね。


#ある日の午後 #某国大統領執務室 #リスト #記憶にない #通用しません #記録 #国民全員 #チップ #会話 #言った言わない論争 #内密の話 #小細工 #裏工作 #正面からぶつかる #いじめ #誹謗中傷 #会話量 #話した言葉 #書いた文字 #表現の自由 #誰かがチェック #行政機関 #監視 #法を侵す輩 #肉ごと抉る #叫び声 #暗号化 #解読 #時間を要する #法律 #国会議員 #国会の運営 #官僚 #質問書 #答弁書 #アジェンダ #仕事環境 #改善 #本音 #虚々実々 #駆け引き #各省庁 #嘆き悲しむ声 #廃案 #大歓声 #ダミー #格好いい #本物 #すみません

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?