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三浦豪太の探検学校

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冒険心や探究心溢れる三浦豪太が世の中について語った日本経済新聞の連載記事「三浦豪太の探検学校」(2019年3月に最終章)の、リバイバル版。わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリ…
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2022年12月の記事一覧

安全な登山、余裕持って

 東京都内で「登山の安全と健康」(産経新聞社主催)をテーマにしたシンポジウムに、スピーカーとして参加した。登山は理想的な有酸素運動、山の新鮮な空気を吸いながら行えば、これほどリフレッシュできる活動はない。半面、今年のゴールデンウイークでは山岳事故のニュースが相次いだ。健康な登山は、事故を防ぎ安全を確保することから生まれる。   スピーカーは3人。最初は山岳ガイドとして国内外で活躍、中高年の登山愛好者と年間200日登山を行う「歩きにすと倶楽部」主宰太田昭彦さん。  太田ガイド

ハンディを超え挑戦

 5月24日、田村聡さんはろう者(聴覚障害者)として初めてエベレストの山頂に立った。登山で聴覚に障害を持つということは多くの危険をはらむ。落石や雪崩の音、第三者から発せられた注意喚起の声が届かないため事故につながりやすい。また遭難した時、捜索者に気がつきにくく、さらに声をあげることができず発見の機会も低くなってしまう。  田村氏は出発前、僕たちの低酸素室でトレーニングを行っていたこともあり筆談することができた。彼は聴覚障害により僕が懸念していたのと同様のアドバイスを過去にも多

チョオユー滑降へ始動

 先日、父雄一郎とのヒマラヤトレッキングから帰ってきた。父にとって3年前エベレストに登って以来の長期にわたっての山行だ。トレッキング序盤こそ調子があまり良くなかったが、少しずつ体調が良くなり高度順化に加え体力もついてきた。  今回のトレッキングの主な目的は次のプロジェクト、2018年チョオユー(8201㍍)スキー滑降にむけての体調コントロールにある。チョオユーは世界6番目に高い山だ。   チョオユーは8000㍍峰ではあるが技術的にはそれほど難しくない。そのためエベレストを登

自然の中で安全に遊ぶ

 神奈川・逗子の子供向けアウトドアプログラム「黒門とびうおクラブ」の活動はユニークなことが多い。僕自身も海や山の子供プログラムを行うことから、クラブを主宰するライフセーバーの永井巧さんと話すと大いに盛り上がった。   永井さんは海への憧れからライフセーバーとなった。現在の日本のライフセーバーはオーストラリア発祥のサーフ・ライフセービングが元となっているという。もともとオーストラリア国民の多くは海を渡り移住してきた。今でもそのほとんどが沿岸部に住んでいる。彼らの中で海を遊び場

逗子の自然 楽しみ学ぶ

 神奈川県逗子市に引っ越してきて13年になる。息子も地元の小学校に昨年入り、せっかくなので逗子の自然を生かした活動に参加させようと見つけたのが「黒門とびうおクラブ」だった。  同クラブの代表、永井巧さんはほかのアウトドアプログラムを通じて面識はあった。とびうおクラブは7年前から行っている子供達を対象としたアウトドアプログラムである。  息子の様子を見に時々顔を出すと毎回面白いプログラムを行っている。ライフセービングに使うパドルボードで海を散歩したり、10人用の巨大なスタンド

低酸素室と登山家の夢

 現在、「エヴェレスト 神々の山嶺」が上映中だ。昨年12月試写会でこの映画を見た。この映画は同タイトルの夢枕獏氏が手がけた小説がベースになっている。この本をモーグル選手の現役時代に読んで、山への憧れを強くしたのを鮮明に覚えている。  映画ではカメラマンの深町役を岡田准一さんが、孤高のクライマーの羽生役は阿部寛さんが演じた。この映画のために実際のエベレストのベースキャンプ(5200㍍)まで行って撮影した。ミウラ・ドルフィンズの低酸素室に事前のトレーニングのため役者さんら撮影スタ

八甲田山事故 重い教訓

 先日、八甲田山(1584㍍)で父と次のチョ・オユー(8201㍍)挑戦に向けてトレーニングを行ってきた。八甲田山に向かう途中、青森市幸畑にある雪中行軍遭難資料館に立ち寄った。   1900年代初期、ロシアの脅威が高まっていた。日本陸軍はロシア兵が青森に上陸することを想定し、八甲田山系内で寒冷地訓練を計画した。1902年1月23日、日本陸軍第8師団の歩兵第5連隊は青森市街から田代親湯を目指し1泊、翌日青森市内に戻る雪中訓練を開始した。しかし、訓練の途中、記録的な寒波に見舞われ

次世代育むコーチング

 先週、韓国のスポットコーチとして田沢湖で行われたフリースタイルスキー・モーグルのワールドカップ(W杯)に参加した。  韓国のモーグルチームは平昌(ピョンチャン)五輪に向け強化している。特にトリノ五輪銅メダリスト、韓国系米国人、トビー・ドーソンがコーチに就任して以来、複数の韓国選手がW杯の決勝に度々姿を現すようになった。彼らはトビーの専門的なコーチングを少数の選手に集中し、エリートチームとして平昌への強化を図っている。  僕の役割はそのエリートチームの次世代選手であるジュニア

「ヒトココ」への期待

 先日、志賀高原・焼額山スキー場で小型の広域電波捜索機器{ヒトココ」の実施試験を行った。迷子や高齢者の徘徊対策を目的に開発されたが、その利便性から山岳地帯での活用が注目されている。  山岳地帯ではこれまでも「ビーコン」という電波発信・受信装置がある。これは主に冬山で雪崩に遭遇したとき、埋没者を捜索するために使われる。しかしヒトココの使用はこれとは全く異なる。  ヒトココの特徴は小型、広域電波、省電力そしてデジタル信号により複数の個別捜索が可能なことだ。そのため用途は雪崩時だ

モーグルはライフワーク

 僕が最初にコブの中をスキーで滑る「モーグル」に出会ったのは11歳のときである。当時ミウラスノードルフィンズにいた五十嵐和哉さんはモーグルの日本チャンピオン、コブだらけの斜面を水が流れるように滑る、その姿に憧れてモーグルを始めた。  あれから35年。若い頃はナショナルチームの一員として国内外のライバルたちと戦った。競技引退後もモーグルの奥深さに魅せられ、行く先々のスキー場にコブ斜面があれば必ず挑んでいる。  モーグルにはスキーのあらゆる難しさが含まれているのではないかと思う

九州の夢かなえた人工雪

 先日の大寒波が襲ってきた時、父と僕は大分県玖珠郡の九重(ここのえ)町の九重(くじゅう)森林公園スキー場にいた。例年だと九重高原一帯は枯れた草原で茶色くなっているが、今年は北海道の雪原地帯を思わせるほど一面、雪景色だった。  本来、九重森林公園スキー場の雪は99%人工雪だ。外気が0度以上でも雪が作れる「アイスクラシャー」や「空気除湿冷却装置」(実用新案取得)付きの「スノーガン」、ピンポイントで雪付けをする「スノーマシン」等を駆使する。大寒波の前に既に1㍍以上の人工積雪が九重

光電子繊維は「着る温泉」

 エベレスト登山のような高所登山では、いかに登山の合間に体を休めるかということが、登山の成否の鍵を握る。どれだけ効率よく体を温められるかも大事だ。  体の冷えは筋肉を細かく震わせ、エネルギーを消費する。低酸素環境下では貴重な酸素をさらに消費し、大きなストレスとなる。また、冷えること自体が血中のヘモグロビンと酸素の親和性を低くして高山病にかかりやすくしてしまう。  僕たちは2003年からザ・ノース・フェイス社の光電子繊維を織り込んだインナーダウンをベースキャンプで着ている。イ

ニセコ守る雪崩予測

 先日、毎年恒例となっている北海道、ニセコモイワスキー場での「2016K2スキーモイワ試乗会」に行ってきた。来期のスキーモデルをニセコの深雪で試す絶好の機会で、今年も連日大雪が降り続けた。  近年、スキー場のコース以外の未整備な箇所を滑る「バックカントリー」への関心が高まり、ニセコは年々海外からのスキーヤー、スノーボーダーが増え続けている。キャンプを訪れたニセコ花園スキー場の代表取締役、コリン・リチャード・ハクワース氏によると、昨季は過去最高の来場者数を記録したが、今季は既

気候変動とガラパゴス

 年末から年始にかけて僕たちは札幌テイネ山で過ごしている。テイネ山は昨年12月25日から雪が降り始め、今現在でも毎日雪が降っている。しかし、日本のあちこちでは1月現在でも雪不足により多くのスキー場が全面オープンとはなっていない。特徴的なのは雪が降らないだけでなく、温度が高いこと。降雪機を使っても大気が十分に冷えていないため人工雪も作ることができない。  これは数年に一度、ペルーやエクアドルの沖の海水温が異常に上がってしまう「エルニーニョ現象」によるものだといわれている。