見出し画像

ニセコ守る雪崩予測

2016年1月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、毎年恒例となっている北海道、ニセコモイワスキー場での「2016K2スキーモイワ試乗会」に行ってきた。来期のスキーモデルをニセコの深雪で試す絶好の機会で、今年も連日大雪が降り続けた。

 近年、スキー場のコース以外の未整備な箇所を滑る「バックカントリー」への関心が高まり、ニセコは年々海外からのスキーヤー、スノーボーダーが増え続けている。キャンプを訪れたニセコ花園スキー場の代表取締役、コリン・リチャード・ハクワース氏によると、昨季は過去最高の来場者数を記録したが、今季は既にクリスマス、お正月時期は昨季同時期の来場者数を30%ほど上回っているという。
 こうしたニセコの人気はニセコの登山家、スキーヤー、カヤッカーであるアウトドアマン、新谷暁生氏が組織している「ニセコ雪崩調査所」によるところが大きい。新谷さんは毎日、雪崩発生リスク情報を近隣のスキー場に伝えている。

 僕は新谷さんの取り組みに興味を持ち、朝の見回りに同行させてもらった。新谷さんは現在、モイワスキー場、アンヌプリスキー場、そして五色温泉をつなげる「見返林道」の整備に力を注いでいる。もともとこの林道は硫黄採掘のために使われていたが、現在廃道になっている。これが再開発できればバックカントリーを楽しむスキーヤーやスノーボーダーがスキー場に戻ることができ、未然に多くの事故を防ぐことができると考えている。
 朝5時、まだ暗い中、モイワスキー場の見返林道の入口がある山頂にむかって雪上車に乗り込む。途中、雪庇(せっぴ)の状況や風速計の記録をつぶさに調べ、記録をとる。新谷さんによると、ニセコでは風速18㍍以上の風が吹き続けると、不安定な雪庇が発達するという。こうして風に吹き付けられて発達した雪庇の雪は重く、それが上部で崩れ落ちるとその衝撃で雪崩を引き起こす。実際、雪崩の80%は吹雪の間に起きているという。
 こうした形で起こる雪崩は断面観察(ピットチェック)だけでは予測しにくい。そのため新谷さんは毎日、天気図と高層天気図、衛星写真、気象レーダー画像等を分析、さらに、こうして日が出る前に現場に足を運び、その日の雪崩の危険度を予測して情報を提供している。世界有数のバックカントリーの聖地であるニセコの安全はこうして守られている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?