見出し画像

九州の夢かなえた人工雪

2016年1月30日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日の大寒波が襲ってきた時、父と僕は大分県玖珠郡の九重(ここのえ)町の九重(くじゅう)森林公園スキー場にいた。例年だと九重高原一帯は枯れた草原で茶色くなっているが、今年は北海道の雪原地帯を思わせるほど一面、雪景色だった。

 本来、九重森林公園スキー場の雪は99%人工雪だ。外気が0度以上でも雪が作れる「アイスクラシャー」や「空気除湿冷却装置」(実用新案取得)付きの「スノーガン」、ピンポイントで雪付けをする「スノーマシン」等を駆使する。大寒波の前に既に1㍍以上の人工積雪が九重スキー場にはあった。
 しかし、九重森林公園スキー場の支配人、高橋裕二郎氏は「九州地方ではほとんどの人がスノータイヤを持っていない。雪が降ると反対に人の足が遠のいてしまう」。皮肉にもスキー場を訪れたのはスキー場の開業20周年を祝うためだ。最初の挨拶で代表取締役の安部武己氏と支配人の高橋氏がこのスキー場ができるまでのいきさつを話してくれた。

 彼らがここまで雪を作れるのは、九州ウインターフェスティバルで行っていた「九重氷の祭典」によるものだという。20年続いたこの祭典は2008年が最後となった。ここで得た雪つくりのノウハウをスキー場経営に生かせないかと彼らは考えた。しかし、現在の猟師山の麓は阿蘇くじゅう国立公園の中。何度も環境庁や県庁に通うが、スキー場の許可が下りなかった。ただ観光用索道許可なら下りるという。スキーリフトは索道開発、観光の一環で作られた。

 12月から3月の間に11万人もの観光客がスキーや雪を求めてくる。九重町の大きな産業に発展した。
 「フィールド・オブ・ドリームス」という映画がある。米国俳優ケビン・コスナーが演じるのは貧乏農家のオーナー。彼はトウモロコシ畑で「そこに作れば彼らは来る」という啓示を受ける。この啓示をもとにアイオワ州のトウモロコシ畑の真ん中に立派な野球場を作った。すると夜な夜な野球界のレジェンドたちがここを訪れ、それを見に来る観客が大勢訪れるというストーリーである。
 九重スキー場は、雪を作ることによってスキー場を作るという逆転の発想で成功した、本物の「フィールド・オブ・ドリームス」ではないかと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?