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気候変動とガラパゴス

2016年1月9日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 年末から年始にかけて僕たちは札幌テイネ山で過ごしている。テイネ山は昨年12月25日から雪が降り始め、今現在でも毎日雪が降っている。しかし、日本のあちこちでは1月現在でも雪不足により多くのスキー場が全面オープンとはなっていない。特徴的なのは雪が降らないだけでなく、温度が高いこと。降雪機を使っても大気が十分に冷えていないため人工雪も作ることができない。
 これは数年に一度、ペルーやエクアドルの沖の海水温が異常に上がってしまう「エルニーニョ現象」によるものだといわれている。

 ウェザーニューズの飯島栄一氏によると、太平洋東部(エクアドル沖)の海水温の上昇は付近の空気を暖め、上昇気流を作る。結果、その海域は低気圧になる。この上昇気流を補う形で日本の南にあたる太平洋西部(フィリピン沖)海域上空では、反対に下降気流(高気圧)が発生する。この南海上の高気圧が、本来、日本の冬型気圧配置(西高東低)の主役である大陸育ちの寒気(シベリア高気圧)が本州付近にまで南下するのを阻んでいる。

 そのエクアドル沖で発生したエルニーニョ現象、まさに発生地点とも言えるガラパゴス諸島でそれを体感した。昨年の9月、テレビの取材のためガラパゴス諸島に行った際、地元のガイドはエルニーニョにより外気温、海水温共に高く、通常ならば5月や6月に求愛行為を見せるアオアシカツオドリやグンカンドリの求愛行為が9月でも見ることができた。また本来、保護色の黒色であるウミイグアナの体色が1月の繁殖期に見られる赤や緑色に染まる「クリスマスイグアナ」となっていた。
 番組として、こうした生物の活動的なシーンを撮影できたことはとても幸運だった。しかし地元ガイドによると、今後これが深刻な問題に発展するかもしれないという。エルニーニョによる海水温上昇によってウミイグアナが食べている海草が育たなくなる。またガラパゴスペンギンやアシカのえさである魚が冷たい海水を求めて深場に逃げてしまう。ガイドは「1990年代に起きたエルニーニョは大量の餓死したウミイグアナが海岸を覆い尽くした」という。

 エルニーニョはスペイン語で「男の子」を意味する。この熱いやんちゃな男の子がスキーヤーとガラパゴス諸島の運命を大きく左右する。

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