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自然の中で安全に遊ぶ

2016年5月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 神奈川・逗子の子供向けアウトドアプログラム「黒門とびうおクラブ」の活動はユニークなことが多い。僕自身も海や山の子供プログラムを行うことから、クラブを主宰するライフセーバーの永井巧さんと話すと大いに盛り上がった。 

 永井さんは海への憧れからライフセーバーとなった。現在の日本のライフセーバーはオーストラリア発祥のサーフ・ライフセービングが元となっているという。もともとオーストラリア国民の多くは海を渡り移住してきた。今でもそのほとんどが沿岸部に住んでいる。彼らの中で海を遊び場とするマリンスポーツが盛んになり、それとともにサーフ・ライフセービングが生まれた。
 永井さんは学生時代にオーストラリアでトレーニングをした。そこには「ライフセービングクラブ」というものがあり、子供から大人まで海でのお互いの安全を守るコミュニティーの中心となっている。海を遊び場として、子供の頃から触れることのできる市民文化がそこにはある。 
 ライフセービングというと日本では海を中心とした活動が頭に浮かぶが、この語源と活動はヨーロッパに求められる。海に限らず山岳地帯、川、湖で起きた事故に対する一時救命処置のことを指す。そしてヨーロッパで始まった近代の山岳登山、すなわち登る、滑る等の文化が発展したのも欧州の国々である。それに伴い、その人命救助の技術が向上したのも自然の成り行きだろう。

 日本では、山岳事故、海難事故が起きるたびに登山、スノー、マリンスポーツが危険視される傾向がある。確かに自然と向き合うスポーツには一定の不確実性が付きまとう。ここで問題なのは危険なことと、危険にあう可能性(リスク)を同一視してしまうことだ。危険は避けなければいけないが、リスクはスキルによって受け入れることができるのである。
 山や海で遊ぶ楽しさが自然の中に入りこむ大きなモチベーションだが、子供は遊びのエネルギーに満ちていて柔軟な学習能力がある。子供の頃から遊びの中で自然に触れることによってスキルが上がり、リスクについても敏感になる。

 海や山を敬いながら、そこで遊び、安全を守るコミュニティーの重要性について永井さんと気持ちが重なった。

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