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「ヒトココ」への期待

2016年2月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、志賀高原・焼額山スキー場で小型の広域電波捜索機器{ヒトココ」の実施試験を行った。迷子や高齢者の徘徊対策を目的に開発されたが、その利便性から山岳地帯での活用が注目されている。

 山岳地帯ではこれまでも「ビーコン」という電波発信・受信装置がある。これは主に冬山で雪崩に遭遇したとき、埋没者を捜索するために使われる。しかしヒトココの使用はこれとは全く異なる。
 ヒトココの特徴は小型、広域電波、省電力そしてデジタル信号により複数の個別捜索が可能なことだ。そのため用途は雪崩時だけではなく登山での道迷い防止や遭難者の発見に期待が寄せられる。
 大きさは送受信可能な親機でも現在普及しているスマホよりも小さく、送信専用の子機に至っては20グラムで、お守りほどの大きさだ。電池は充電式で一度充電すれば3ヵ月は持つ。

 今回は焼額山スキー場で捜索をゲーム感覚で行った。僕たち7人はスキー場の山頂でそれぞれ送受信が可能なヒトココの親機を持ちスキーを気ままに行う。一定の時間がすぎた後それぞれを捜索した。
 数本、スキーを楽しんだ後、ゴンドラに乗りヒトココのスイッチをつけるとすぐに「発見しました」と表示、矢印と距離が表示される。スキー中の発信機を捉えたようで矢印、距離ともに移動する。その後矢印はゴンドラの後ろ向きに示された。後続のゴンドラに乗ったようでゴンドラ降車後、頂上で待っているとすぐに再会できた。

 ヒトココの過去の実験ではヘリコプターを使った遮蔽物が少ない上空からの捜索では最大5キロ先の信号を捉えることができたという実績がある。そのためヒトココは日本山岳会、日本勤労者山岳連盟、日本山岳救助機構等と連携している。その中で注目しているのが日本山岳ガイド協会が中心に行うインターネットを通じた登山計画書「コンパス」での使用だ。
 この「コンパス」には「ヒトココID」という項目が加えられている。コンパスの情報は警察や自治体と共有され、遭難者捜索時に活用される。もし遭難者がヒトココを持っていて、そのIDが分れば迅速に発見される可能性が高くなる。警察庁によると2014年中の日本の山岳遭難者は2794人、そのうち311人が死者・行方不明者だ。ヒトココによって少しでも不幸な遭難が減ることを願う。

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