見出し画像

安全な登山、余裕持って

2016年6月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 東京都内で「登山の安全と健康」(産経新聞社主催)をテーマにしたシンポジウムに、スピーカーとして参加した。登山は理想的な有酸素運動、山の新鮮な空気を吸いながら行えば、これほどリフレッシュできる活動はない。半面、今年のゴールデンウイークでは山岳事故のニュースが相次いだ。健康な登山は、事故を防ぎ安全を確保することから生まれる。 

 スピーカーは3人。最初は山岳ガイドとして国内外で活躍、中高年の登山愛好者と年間200日登山を行う「歩きにすと倶楽部」主宰太田昭彦さん。
 太田ガイドは自身の登山、ガイド経験を通じて多くの事故は山岳条件と技量が合わずに起きると断言する。特に初めての人や長いブランクがあり、体力に自信がないと思ったらコースタイムを1.5倍に見積もること。また百名山クラスの山に登るのなら1日多く予備日を作るとよいという。予備日を設けることによって余裕が生まれ、無理な気象条件での山行リスクを減らせる。

 次のスピーカーは国際山岳医の大城和恵先生。国際山岳医は医師自身が山岳活動を行いながら世界各地の山岳環境で同じ質の医療を行えることを目的としている。大城先生は日本人初の国際山岳医で、三浦雄一郎の80歳エベレストにも同行してくれた。大城先生は山岳事故の統計から一般登山の死亡事故三大要因は外傷、心臓死、寒冷障害(低体温症、雪崩)であるという。
 外傷には救急ばんそうこうやテーピングエイドと言った一般的なファーストエイドの携帯、寒冷障害には事前にしっかりと体のエネルギーとなる炭水化物を取るなどの実践的な助言があった。ハイキング中の高齢者の場合、心臓死(心筋梗塞)は普段の約4倍の確率で発生する。これを減らすには「心臓に優しいペース」で歩くこと。大城先生はこれを「会話ができるペース」「平地の半分のペース」とした。

 僕の話した内容は、三浦雄一郎が80歳でエベレストに登れたその要因を明かすことだ。その一つは「年寄り半日仕事」ということがある。これは午前中だけ登山活動を行い、午後は休むというもの。おかげで体力に負担をかけず高所での順応もうまくいった。三講師三様の視点からの山岳事故防止であったが、共通していたのは「ゆっくり余裕をもって登山をする」ということであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?