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チョオユー滑降へ始動

2016年5月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、父雄一郎とのヒマラヤトレッキングから帰ってきた。父にとって3年前エベレストに登って以来の長期にわたっての山行だ。トレッキング序盤こそ調子があまり良くなかったが、少しずつ体調が良くなり高度順化に加え体力もついてきた。
 今回のトレッキングの主な目的は次のプロジェクト、2018年チョオユー(8201㍍)スキー滑降にむけての体調コントロールにある。チョオユーは世界6番目に高い山だ。 

 チョオユーは8000㍍峰ではあるが技術的にはそれほど難しくない。そのためエベレストを登る前に多くの登山家はまずチョオユーを目指す。いわば登竜門的な山でもあるのだ。僕たちも14年前、チョオユーに登った。70歳の父がエベレストに登る前年だった。僕にとって初めての8000㍍峰で思い入れが深い。凍てつく風と希薄な空気に体が鉛のように重くなったのを鮮明に覚えている。
 チョオユー山頂はその先にエベレストが望めるなだらかな雪原地帯だ。前回の登頂時、あまりにも頂上付近の雪原地帯が長く、キャンプ2までの斜面がスキーに適していたのでスキーを持ってこなかったことを2人で悔やんだ。それが今回のプロジェクトのきっかけとも言える。

 しかし、この時は安易にスキーで降りることを思いついたが、実際にそれをやるとなると実はこれはエベレスト以上に過酷であるかもしれない。
 たとえ希薄な大気の中でも通常の下山なら、少ない酸素から得られるエネルギー代謝によって、一歩を出すタイミングを自分で決められる。しかし、スキーは違う。勢いよく滑り降りれば、スピードコントロールや障害物を避けるためのターンを行わなければいけない。ターンは自重の何倍もの負荷を筋肉で支え、その度に容赦なく酸素は消費されてしまう。そしていくら激しく呼吸しても超高所ではそれをまかなう酸素がないのだ。超高所でのスキーは毎回必死の思いをしている。登山は頂上が目的地だが、スキー滑降は頂上がスタート地点なのだ。

 過酷な8000㍍スキーを目指す父と僕であるが、2人とも前回のエベレスト以降、仕事と付き合いの飲み会が重なり体重が増えてしまった。2年後のチョオユースキー滑走を見据えて、ゆっくりとヒマラヤの山々に囲まれながらトレッキングを楽しんだ

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