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#アート
新潟県立近代美術館2023年度第1期コレクション展「没後50年 横山操展」レビュー 志田康宏
横山操(1920-1973)は、新潟県西蒲原郡吉田村(現・燕市)生まれの日本画家である。代表作とされる《塔》(1957年、東京国立近代美術館蔵)に表れているように、1950年代当時流行していた前衛書道やアクション・ペインティングに通じる荒々しい線を用いる日本画家という評価が定番であり、力強い筆線をダイナミックに用いる画家として認識されていると言えよう。新潟県立近代美術館常設展示室にて2023年4月
もっとみる常設展レビュー番外編② 対話もポリフォニーも同じ声である―『トライアローグ』と『絵画の見かた』― 志田康宏
序論
「コレクションを使った企画展(=コレクション展)」を取材対象とする常設展レビュー連載番外編の第2弾として、横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館の3館で共同開催されている『トライアローグ』展[1]を取り上げたい。日本の主要な地方公立美術館3館のコレクションを結集した企画で、日本の美術館のコレクションの強さを存分に生かした展覧会となっている。今回は横浜会場での展覧会を取材した。
また比較対
常設展レビュー執筆への提言 ―埼玉県立近代美術館MOMASコレクションの事例―
志田康宏(栃木県立美術館学芸員)
このような事例がある。
A県美術館で、B県美術館の所蔵品から選りすぐった作品を大量に借用し『B県美術館所蔵作品展』と題して、企画展や特別展として開催する展覧会。多くの場合、普段見に行くことのない他県の美術館の名品を一挙に見られるというお得感から、近隣住民を中心に客足を伸ばす。しかし、全く同じラインナップの作品群を、所蔵館であるB県美術館の常設展で並べても、A県美
「プランB」としての常設展―パープルームギャラリー『常設展』『常設展Ⅱ』
志田康宏(栃木県立美術館学芸員)
非常時の常設展
常設展のレビューをしていくと意気込んだ矢先、常設展はおろかほぼ全ての展覧会を見に行くことができない時勢になってしまった。新型コロナウイルス感染拡大防止のため緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、全国の美術館・博物館も臨時休館を余儀なくされた。中止となってしまった展覧会、作品はすでに展示されているのに見に行くことができない展覧会が大量に生まれてし
常設展示作品の名を冠した美術館―原爆の図丸木美術館―
志田康宏(栃木県立美術館学芸員)
1. 常設展示作品の名を冠した美術館 常設展レビュー連載という前例のない試みをしようとすると、どの館を取り上げるべきか非常に難儀する。ひとくちに常設展と言っても規模や内容、想定しているターゲットなど、各館によって多様なアプローチがあるためだ。そもそも常設展を行っていない館も少なくない。
そんな中で、この企画に最適な美術館に思い至った。埼玉県東松山市にある原爆の
優等生の反抗心 あるいは 優等生であり続けるために ー 郡山市立美術館2020年度第2期常設展レビュー
志田康宏(栃木県立美術館学芸員)
1.優等生の凡庸と悲哀
地方公立美術館の常設展は、目立たない。これは美術館学芸員としての率直な実感である。美術館に足繁く通う美術愛好家の中には常設展が好きだという声も少なくないが、その声は多くの場合、規模が大きく所蔵品も豊富な中央の国立館の常設展を想定しているだろう。〇〇県美術館、□□市美術館の常設展が好きで足繁く通うという人はどのくらい存在するだろうか
指定文化財とは誰のために存在するのか? ―天童市美術館「市指定文化財収蔵品展」― 志田康宏
1 「市指定文化財収蔵品展」とは
変わったタイトルの常設展を発見した。
地方の中心的な美術館や博物館が自治体の指定に基づく指定文化財を収蔵していることは珍しいことではなく、むしろ正しく喜ばしいことであるが、その指定文化財を中心に据え「市指定文化財収蔵品展」として開催される展覧会はなかなか耳にしないので、取材したいと思い立った。
山形県天童市は、山形県の中心部に位置し、天童温泉や日本一の生産地