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[連載]常設展レビュー 志田康宏 #レビュレポ

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レビューとレポートで連載している志田康宏さんの常設展レビューです。
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新潟県立近代美術館2023年度第1期コレクション展「没後50年 横山操展」レビュー 志田康宏

新潟県立近代美術館2023年度第1期コレクション展「没後50年 横山操展」レビュー 志田康宏

横山操(1920-1973)は、新潟県西蒲原郡吉田村(現・燕市)生まれの日本画家である。代表作とされる《塔》(1957年、東京国立近代美術館蔵)に表れているように、1950年代当時流行していた前衛書道やアクション・ペインティングに通じる荒々しい線を用いる日本画家という評価が定番であり、力強い筆線をダイナミックに用いる画家として認識されていると言えよう。新潟県立近代美術館常設展示室にて2023年4月

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美術館建築は展覧会の敵か?味方か? ― 福島県立美術館2022年度第Ⅱ期常設展レビュー 志田康宏

美術館建築は展覧会の敵か?味方か? ― 福島県立美術館2022年度第Ⅱ期常設展レビュー 志田康宏

1.借景と緑に囲まれた広大な美術館

地方公立美術館の常設展の「優等性と凡庸性」については、郡山市立美術館常設展のレビューで考察したところである。公立美術館の担うべき公共性には、古くからの歴史を守り続ける保守性だけでなく、同時代的な社会や価値観の変化も含めてその地域の歴史を受け入れるリベラル性も必要なのではないかということを考えた。
福島県立美術館の2022年度第Ⅱ期(7月16日~10月16日)の

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山形美術館常設展示 ―4つの常設コレクション 志田康宏

山形美術館常設展示 ―4つの常設コレクション 志田康宏

1.山形県の中心的美術館よく誤解されることだが、山形美術館は県立美術館ではない。1964年、当時の山形新聞・山形放送社長であった服部敬雄氏が中心となり、地元経済界、山形県、山形市が協力して財団法人を設立し開館した民営の美術館である。1968年には別館を開設、その後開館20周年記念事業として新館を建設することになり、県内鶴岡市田麦俣に残る「多層民家」をイメージした3階建ての新館が1985年にオープン

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祝い掛軸と武者幟絵に見る「美術」と「産業」―佐野市郷土博物館・葛生伝承館レポート 志田康宏

祝い掛軸と武者幟絵に見る「美術」と「産業」―佐野市郷土博物館・葛生伝承館レポート 志田康宏

1.美術館で扱えない絵画 美術館で勤務していると、「先代が集めていた掛け軸やなんかが家にあるから見てほしい」という依頼の電話を受けることがたびたびある。そこから有名作家の知られていなかった作品や知られざる作家の傑作が見つかることもあるし、美術館に収蔵する作品が発見されることもあるため、とても重要な依頼である。しかし、そこには美術作品のようでありながら「美術館では扱いにくい作品」が含まれていることが

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常設展レビュー番外編② 対話もポリフォニーも同じ声である―『トライアローグ』と『絵画の見かた』― 志田康宏

序論
 「コレクションを使った企画展(=コレクション展)」を取材対象とする常設展レビュー連載番外編の第2弾として、横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館の3館で共同開催されている『トライアローグ』展[1]を取り上げたい。日本の主要な地方公立美術館3館のコレクションを結集した企画で、日本の美術館のコレクションの強さを存分に生かした展覧会となっている。今回は横浜会場での展覧会を取材した。
 また比較対

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常設展レビュー番外編1 ワタリウム美術館『生きている東京展』 志田康宏

常設展レビュー番外編1 ワタリウム美術館『生きている東京展』 志田康宏

1.番外編の意味―「常設展」の定義に関する私見
 本連載や、ほぼ同時期に始まった南島興氏の主宰する常設展レビューサイト「これぽーと」への反響を見ていると、アート好き・美術館好きな読者層の中でも、「常設展」と「コレクションを使った企画展(=コレクション展)」の違いというものがあまり認識(重要視)されていないのではないかと感じている。

私が常設展レビューを始める上で想定していた「常設展」とは、

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常設展レビュー執筆への提言 ―埼玉県立近代美術館MOMASコレクションの事例―

志田康宏(栃木県立美術館学芸員)

このような事例がある。
A県美術館で、B県美術館の所蔵品から選りすぐった作品を大量に借用し『B県美術館所蔵作品展』と題して、企画展や特別展として開催する展覧会。多くの場合、普段見に行くことのない他県の美術館の名品を一挙に見られるというお得感から、近隣住民を中心に客足を伸ばす。しかし、全く同じラインナップの作品群を、所蔵館であるB県美術館の常設展で並べても、A県美

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「プランB」としての常設展―パープルームギャラリー『常設展』『常設展Ⅱ』

「プランB」としての常設展―パープルームギャラリー『常設展』『常設展Ⅱ』

志田康宏(栃木県立美術館学芸員)

非常時の常設展
常設展のレビューをしていくと意気込んだ矢先、常設展はおろかほぼ全ての展覧会を見に行くことができない時勢になってしまった。新型コロナウイルス感染拡大防止のため緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、全国の美術館・博物館も臨時休館を余儀なくされた。中止となってしまった展覧会、作品はすでに展示されているのに見に行くことができない展覧会が大量に生まれてし

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常設展示作品の名を冠した美術館―原爆の図丸木美術館―

常設展示作品の名を冠した美術館―原爆の図丸木美術館―

志田康宏(栃木県立美術館学芸員)

1. 常設展示作品の名を冠した美術館 常設展レビュー連載という前例のない試みをしようとすると、どの館を取り上げるべきか非常に難儀する。ひとくちに常設展と言っても規模や内容、想定しているターゲットなど、各館によって多様なアプローチがあるためだ。そもそも常設展を行っていない館も少なくない。
 そんな中で、この企画に最適な美術館に思い至った。埼玉県東松山市にある原爆の

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優等生の反抗心 あるいは 優等生であり続けるために ー 郡山市立美術館2020年度第2期常設展レビュー

優等生の反抗心 あるいは 優等生であり続けるために ー 郡山市立美術館2020年度第2期常設展レビュー

志田康宏(栃木県立美術館学芸員)

1.優等生の凡庸と悲哀
地方公立美術館の常設展は、目立たない。これは美術館学芸員としての率直な実感である。美術館に足繁く通う美術愛好家の中には常設展が好きだという声も少なくないが、その声は多くの場合、規模が大きく所蔵品も豊富な中央の国立館の常設展を想定しているだろう。〇〇県美術館、□□市美術館の常設展が好きで足繁く通うという人はどのくらい存在するだろうか

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指定文化財とは誰のために存在するのか?
―天童市美術館「市指定文化財収蔵品展」― 志田康宏

指定文化財とは誰のために存在するのか? ―天童市美術館「市指定文化財収蔵品展」― 志田康宏

1 「市指定文化財収蔵品展」とは
 変わったタイトルの常設展を発見した。
 地方の中心的な美術館や博物館が自治体の指定に基づく指定文化財を収蔵していることは珍しいことではなく、むしろ正しく喜ばしいことであるが、その指定文化財を中心に据え「市指定文化財収蔵品展」として開催される展覧会はなかなか耳にしないので、取材したいと思い立った。
 山形県天童市は、山形県の中心部に位置し、天童温泉や日本一の生産地

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