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【短編小説】贖罪の目【怪奇ショートストーリー】

僕は今日もいつも通りに仕事に行って、
いつも通りの時間の電車に乗って、
いつも通りの時間に自宅に帰った。

僕の妻はだらしがない。
今日も家の中はぐちゃぐちゃで掃除されてないだろうし、ご飯も作ってないだろう。
仕事もせずに毎日「辛い辛い」と言って現実から逃げるダメな女で、今日もいつものように布団にくるまって真っ暗な部屋で寝ているはずだ。
子どもさえいなければさっさと別れて、あんな女を捨てれるのに。

自宅まであと10分で着くくらいの距離のところで1通のラインが届いた。
差出人はあいつ。僕の妻からだった。

一ごめんね。一

ただ一言だけメッセージが届いていた。
どうせいつもの体調が悪いアピールだろう。相手にするのも面倒くさい。
既読にだけして家に帰る時間をわざと遅くするために近くのコンビニに用もないのに寄って時間を潰した。
夜中に1人で晩酌するための酒とつまみを買って、わざとゆっくり歩いて家に帰った。

自宅のドアを開けるとまだ幼い我が子が明るく
「パパ、おかえり〜っ!」
と出迎えてくれた。
妻はいつものように寝室で寝ているのだろう。
イラつきながら寝室のドアを開けた。暗闇の中で妻のシルエットが見えた。電気をパチンとつけたら、妻は青い顔をして天井を見つめていた。
僕はイラッとして脚で妻の膝を軽く蹴った。
いつもなら「やめて。痛い。」と悲しそうな声をあげる妻だが、今日は違った。
妻の膝の部分がまるで薄い陶器の表面のようにヒビがびりびりと入った。僕はびっくりして後退りをした。
「どうして蹴るの?」
妻の脚のヒビが入ったところの内側からギョロリと血走った目が出てきて、膝のヒビの中から声が発せられ、僕に質問を投げかけてきた。妻の顔を確認すると、妻はさっきと変わらず青い顔をして天井を見つめたままだった。僕は恐怖で足が震えてその場から動けなくなった。
「あんたが蹴るから大事な身体にヒビが入っただろう?」
妻の脚のヒビの目が血走り怒りを露わにしている。僕は部屋から逃げようとヒビの目に背中を向けて部屋を出ようとした。
すると妻の身体から触手が5本ほど伸びて、僕の身体を縛り身動きが取れないようにした。
「逃げるな!」
血走った目が怒号をあげ、僕を縛る触手の力がどんどん強くなっていった。

1本目の触手は僕の手を締め付け、腕がひきちぎられそうな凄まじい力でギギギギギッと巻き付いてきた。そして妻の膝のヒビから出現した血走った目が僕を睨みながらドス黒い罵声を浴びせてきた。
「膝をいつもあんたが蹴るせいでアザになって長ズボンしか履けなくなったよ!」

2本目の触手は僕の足を締め付け、僕の身体を空中に宙吊りにして上下にブンブンっと揺さぶった。触手は怒鳴って目から血の涙を流した。
「あんたは私が高熱を出して身体を壊した時、肩をわざと強く揺さぶって身体を壊したことを酷く責めて首を捻挫させたね。」

3本目の触手は僕の胴体にぐるぐると巻きついて思いっきり僕を壁にドンっと叩きつけ罵声を浴びせてきた。
「あんたの浮気相手からSNS 経由でメッセージが来るの。私なんかいなくなればいいって言ってるらしいじゃない?」

寝室の外からノックをする音が聞こえる。
「パパ〜?ママ〜?ねぇ、どうしたの?ねぇ?お部屋を開けてよ。ねぇ?」
僕は子どもに助けを求めようとしたが、4本目の触手に口を塞がれ声が出せないようにされた。そして5本目の触手が寝室のドアが開かないようにドアノブに巻きつき外から開けられないようにした。

豹変した妻。顔は青白く天井を見つめていた。
僕は泣きながら助けを懇願した。
口を塞がれていたので声に出ていたのかは不確かだったけれど「僕が悪かった。許してくれ。」と何度も何度も謝った。
僕は途中で気を失ってしまったので、この悪夢のような出来事が何分間くらい続いたのか定かではない。

一一翌日一一

「あなた、おはよう。」
目を覚ますと、寝ていた僕の顔を僕の妻が微笑んでのぞきこんでいた。
「朝ご飯作ったよ。あなたの好きな目玉焼きとウインナー。冷める前に食べちゃおう?」
妻が鬱になる前の優しい姿がそこにはあった。

僕は昨日の出来事を思い出して、今朝の妻の変化に戸惑いを覚えた。
「ねぇ、今日はネクタイどれにする?これなんてどうかな?素敵だと思うんだけど…」
妻が背中を向けてネクタイの入ったクローゼットを探っている時の妻の首の後ろに気付いてギョッとした。
妻の首の後ろには血走った目がついていたのだ。
「パパ、ママのお誕生。昨日なの知ってた?」
子どもが僕の背後から抱きついて僕を見上げてきた。
「ああ…誕生日か。知っていたよ…。」
僕は咄嗟に子どもに返事をしたが、正直な話、忘れていた。
「パパぁ。ダメじゃない。誕生日の日はおめでとうって言ってあげないと、ママ寂しがっちゃうよ。」
子どもは僕を諭すかのように幼く甘い声を出し微笑んだ。
「そんなパパにママからお手紙を預かっているの。はい、どうぞ。」
僕は子ども伝いに妻からの手紙を受け取った。
手紙の中身を開けると、そこには…
血を流す目のイラストが描かれていた。

僕はその日以来、鬱っぽくなり夜もあまり眠れないようになった。鬱のせいで浮気相手とも会う気力がなくなり、不貞行為は途絶えた。交友関係も狭まり、家族以外とはあまり関わらないようになった。

極めつけは、僕の中でだけ、家の中での家族が増えた。それは妻の首の後ろの血走った目だ。この目は妻が寝ている時にだけおしゃべりをする。
不眠症になった僕だが、鬱が治りスヤスヤ穏やかに眠る妻をよそに、妻の首の後ろの目と眠くなるまで朝まで会話をしている。妻の首の後ろの目はキレると触手を出してきて僕を攻撃するので会話は慎重にしないといけない。

僕は恐怖からか、妻を蹴ったり、酷く罵ったり、バカにすることは一切しなくなった。

妻は明るくなり仕事も始めイキイキと生活をするようになったが首の後ろの血走った目が無くなることはなかった。

僕は妻の首の後ろの目を、ぼくのした妻へのハラスメントの贖罪だと思っている。
その血走った目で毎晩見つめられることで、愛する妻の側にいられるのならば…僕は我慢できるよ。墓場でも一緒だ。

【短篇小説】贖罪の目【怪奇ショートストーリー】作:前川咲紀 写真:稲垣純也
(おしまい)

見出し画像は稲垣純也様にお借りしました。目が描かれた壁のお写真ですね。主人公の妻の首にもこんな風な目が取り憑いちゃいましたね。女性が怒ると本当に怖いですね。

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