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『LIFE!』 今いる場所から見える景色は、本当に見たい景色なのか


当たり前だが世界は広い。

だけど、日々の生活に追われ狭い世界で日常を生きている。

未知の世界へのことを考えるとワクワクするが、つい行動は後回しになる。
そうしているうちに無為に日々が過ぎていく。


最近、巣ごもり生活が続くせいか少しエネルギーが低下しているので、元気がでる映画をと思い「LIFE」を観た。そして思いの他心を揺さぶられた。

映画を観て感じた気持ちを忘れないためにも、熱が冷めないうちに書いておきたいと思う。


『LIFE』2013年/アメリカ
原題:The Secret Life of Walter Mitty
監督:ベン・スティラー
出演:ベン・スティラー/ショーン・ペン/クリスティン・ウィグ


主人公ウォルターは写真雑誌として名高い「LIFE」の写真管理部門でネガフィルムを管理する仕事をしている。

ウォルターは若くして父を亡くし、自分のやりたいことを諦めて生きてきた。仕事には真摯に取り組んでいるが代わり映えのしない毎日。口下手で自分に自信もなく、気になっている同僚をデートに誘うこともできない。

そんな彼を自由に解放するのは空想の中。
空想の中でウォルターは、現実の自分とは全く違う行動的で冒険心のある理想の男になれる。

ある日、伝説の写真雑誌「LIFE」がオンラインへの移行により休刊が決定する。

そして、その最終号の表紙を飾る写真のネガフィルムが、写真家のショーンからウォルター宛に送られてくる。ショーンはウォルターの仕事を信頼し尊敬しており、雑誌最後となる表紙のネガをウォルターに託したのだ。

ショーンが「自分の最高傑作」「これがLIFEの真髄」というその写真のネガフィルムはNo.25。

しかし、そのNo.25だけが見当たらない。
ウォルターはNo.25を捜すため、ショーンの行方を追うことになる。
これが彼の人生を変える壮大な旅になる。


ところで、安全な場所から、安全かどうかわからない場所に飛び降りるのは勇気がいる。誰でもそうだ。冒険心旺盛だったり冒険を生きがとしている人でもなければ、皆怖いと感じるはずだ。

でも、この映画の主人公ウォルターは自分を奮い立たせ、安全な場所から飛び降りる。というか、映画ではショーンに会うために酔っ払いが運転するヘリコプターに、命がけで飛び乗るのだが。

そして、このはじめの一歩が彼の人生を変える。
ウォルターに限らずだが、思い切って飛び降りてしまえば腹をくくって前に進むしかない。

***

話はそれるが、私も安全な場所から安全かどうかわからない場所に飛び降りたことがある。

私は長く会社員として生きてきた。
安定した生活。
実際、収入も悪くなかったし社会的信用もあった。

何度か転職を経験しながら順調にキャリアを築き、昇進して管理職にもなり、はたから見れば安泰だと思われていた。

でも私の心はいつもざわついていた。
毎日会社行き、同じような価値観を持った同じような人々と、同じような仕事を繰り返す生活にほとほとウンザリしていた。

生き方を変えたいと思っていたが、変える勇気がなかった。
安全な場所から飛び降りるのが怖かった。

しかしある時、「限界だ」と悟り、会社を辞めた。

自分としてはかなり勇気を振り絞ったつもり。
でも、飛び降りてみるとなんてことはなかった。
いや、正確に言えばそうじゃない。

自分が安全地帯だと思っていた場所は、実は安全地帯なんかじゃなかったと気づいた。

飛び降りる前の場所も飛び降りた後の場所も、ただの「場所」であり私は場所を変えただけ。
でも、そのことを理解したこと、そして今まで知らなかった世界と景色が見えたことは大きな収穫だった。

会社を辞めた後はフリーランスとして仕事をするために試行錯誤。
飛び降りてしまったからには腹をくくって前に進むしかない。
それなりに大変だったけど、経験すること全てが新鮮だったし、何より学びが多かった。

今でも仕事が安定してるとは言えないけど、精神的には爽やかだし会社員だった頃と違い、希望を持って生きている。

そして、この映画を見て思い出した。
新しい世界に飛び降りる時の不安と葛藤、そしていざ実行した時に見えた別の景色。


でも、今の私はどうだろう。
場所を変えたものの、またかつてと同じようにただ日常を繰り返しているだけなのではないか?

違う景色を見るために飛び降りたのに、飛び降りたその周辺をうろうろしているだけなのではないか?

本当の意味での旅に出ていないのではないか?

***


話を映画に戻すと、ウォルターはヒマラヤでショーンを見つけるが、No.25はショーンの手元にはなかった。

ショーンはNo.25を滅多に姿を見せないユキヒョウにたとえて「幽霊ネコ」と表現する。

そして、「美しいものは注目を嫌う」とも。

このセリフはラストシーンの伏線のひとつなのだが、それでなくても奥が深い一言だ。

そして迂用曲折を経て、幽霊ネコのように姿を表さないNo.25が、ウォルターの手に渡る。冴えない男だったウォルターは、この旅を経て彼は別人のごとく自信を身にまとった男に変化する。


ところで、映画では所々にLIFE社のスローガンがスパイスとして投入されている。
LIFE社のスローガンはこうだ。

To see the world, things dangerous to come to, to see behind walls, to draw closer, to find each other and to feel. That is the purpose of life.

世界を見ろ。危険に立ち向かえ。壁の裏側を見ろ。もっと近づいて、お互いを知れ。それが人生の目的だ。

ウォルターはこのスローガンを信じて行動した。
結果、探していたフィルム「No.25」 以上の価値がある経験を得たのだ。

そして、LIFEの最終号はNo.25の写真が表紙を飾る。

「Dedicated to the People Who Made it    これを作った人々に捧げる」

このメッセージと共に。


写真で表現されているのは、「LIFE」という幾人もが魂を込めて作り上げた雑誌の真髄であり、また人生の真髄だ。

このラストシーンに自然と涙が流れた。

***


最近は自粛生活で、家にじっと引きこもっているのですっかり忘れてたけど、世界は広いのだ。

見たい景色を見にいく。
それが人生の目的だ。


写真 ニュージーランドにて

(day22)

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