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『キューティー&ボクサー』 愛と憎 そして戦いは続く

2013年/アメリカ
原題:Cutie and the Boxer
監督:ザッカリー・ハインザーリング
(トップ画像:by  篠原乃り子)


NY生活40年の前衛芸術家「篠原有司男」と、その妻「篠原乃り子」の日常生活を4年に渡り密着したドキュメンタリー映画。

この映画は、芸術家夫婦の風変わりなLOVE Storyと銘打っているけど、個人的には妻乃り子の苦難に満ちた人生を表現した、彼女のためのドキュメンタリーだと思っている。

愛すべきキャラクターとして登場する夫の有司男は、なんていうか、簡潔に言うとすごく勝手気ままな男なのだ。
根拠なくポジティブ。夢と情熱を持ち続け、自由を愛し、貧乏なんてなんのその。ありがちだけどお酒大好き。そして売れない芸術家。

これ、つかまっちゃヤバイ男でしょ。

と思ってしまうが、40年も一緒にいるのだから通じ合うものもあるにはあるのだろう。あるいは積み重ねた時間が二人を離れ難くしているのかも。


ところで、妻乃り子の人生は忙しい。
芸術家としてだけでなく、妻として母として瑣末な日常のルーティンをこなし、時には嫌々ながらも有司男の制作の手伝いをする。

I'm not his assistant.     私は彼のアシスタントじゃない。

そう言いながらの夫を見捨てない。
芸術家でありながら、現実を生きる一人の女・妻でもあるのだ。

そんな乃り子は有司男にとってなくてはならない最強の支えだ。
乃り子はそれをよくわかっている。
彼女は自分に与えられた、あるいは自ら望んだ役目を精一杯こなし、この生活で生まれた感情を「キューティー」という自身の分身に託し描き芸術として表現している。

彼女は言う。

「もっと生活能力のある男と結婚していれば」


それはごもっとも。

でも、有司男に出会わなければ「キューティー」は存在しなかった。
有司男の並外れた芸術に対する情熱とNYでの貧乏生活が、彼女の表現をここまで連れて来たことは紛れもない事実。

さて、この苦難に満ちた乃り子の人生を夫婦愛などと言うちゃちな言葉で片付けてはならない。
そもそも愛と憎しみは表裏一体。時に判別不能な感情だ。

そういう意味でこの映画は2人の愛の記録ではなく戦いの記録なのだと思う。
愛と憎しみ、夢と現実、対比するそれらを全力で闘わせた記録。

ラストのボクシングシーンはその象徴だ。
夫と妻でお互いを打ちのめし合う。そして、刺激し合っている。


人はヨキ人生を歩みたいと願う。
しかしヨキ人生の基準なんてこの世に存在しない。
本人が良いと思えばそれはヨキ人生だし、不満だらけなら不幸な人生ということだ。

さて、乃り子の人生は彼女にとってどちらなのだろう。

有司男81歳、乃り子60歳。
そして戦いは続く。

rewrite of 2014
写真: Kiss

(day17)


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