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連載小説「みつばち奇想曲(カプリース)」

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note創作大賞2023応募作品。中間選考通過。 初のミステリー中編小説。 不思議な美少女・薫に出会った美憂は、彼女に憧れ名門・私立クレール女学院高等学校に入学するが、不思議な噂…
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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第一話(創作大賞2023・ミステリー小説部門応募作品)

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第一話(創作大賞2023・ミステリー小説部門応募作品)

※この小説は、創作大賞2023「ミステリー小説部門」応募作品です。

(本文・第一話)



 春。春。待ちに待った、春。
 早めに開花した桜が散り始め、空から降り注いで来る様は、いよいよ入学式を迎えた少女たちを祝福しているようだ。私立クレール女学院高等学校の校門をくぐり、高校一年生となった本村美憂の心は浮き立っている。
 新しい制服、新しい靴、新しい学生鞄。私立クレール女学院高等学校の正装に身

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第二話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第二話

 今から一年半前。中学二年の秋、美憂は母の「みのり」と駅近くのショッピングモールを訪れていた。
「美憂、あんた、本当に公立高校の受験一本でいくの? せめて、私立も併願で受けたら?」
 ショッピングモールの地下一階にあるファストフード店で食事をしていると、ハンバーガーにかぶりついていた母が突然、中学卒業後の進路の話をし始めた。
「いいよ。安全圏の公立受けるから、滑り止めなんて必要ないよ」
「でもさぁ

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第三話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第三話

「ラ・トゥールの絵みたい……」
 口から零れた言葉を掬って戻すように、美憂は口元を覆う。
 またやってしまった。思っていることをつい口走ってしまう癖が、母の機嫌を損ねてしまうと気づいてからは一層気を付けていたのに。特に、絵画や美術の話は……。
「ラ・トゥールって、画家のジョルジュ・ド・ラ・トゥールのことかしら?」
 まさか彼女が画家の名を言い当てるとは思ってもいなかった。思わずその美しい顔をじっと

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第四話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第四話

「ルーヴル」。その名前を聞いて、父の顔が浮かぶ。
 絵画を観ることも、油絵を描くことも好きだった父は、「絵の勉強がしたい」と単身パリへと旅立った。どうやら、その頃には既にあちらにガールフレンドがいたというから、「単身」といえるかは微妙なところだが。
 そんな父のことを、母は離婚後も「勝手だ」とも「無責任だ」とも「気持ち悪い」とも罵ったが、美憂は身体一つでどこへでも飛び立てる自由気ままな父の姿に憧れ

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第五話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第五話

「ただ、お母様。まだ先の話ですが、もし合格した場合、美憂さんは三年間、学院内の寮に入ることになります。生徒は夏休みなどの期間や年末年始も学内行事準備やそれぞれの課題を担うため、基本的には自宅へ戻ることができません。たとえ家族であっても、会いに行ったり、電話をしたりということも出来ず、月に一度、手紙でやり取りができるだけだと聞きました。本校の生徒がクレール女学院からお話を頂くことが初めてなので、正直

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第六話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第六話

「松永さんは、嘘つきね。私のために雑誌をプレゼントしてくれるって約束したじゃない。それができないなら、こんな紙、あってもなくても同じよ」
「……ごめんなさい、ごめんなさい……」
 白雪がうずくまって泣き始めると、クララは「ふん」と鼻で笑ってから「なにが『白雪』よ」と言って、跡形もない「外出希望届」を白雪の頭上に浴びせながら奈那と愛果を連れて教室へと帰っていった。
「好きで『白雪』なんて名になったわ

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第七話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第七話

「美憂。白雪って、やっぱいじめられてるんじゃないかな」
 クレール女学院高等学校女子寮のひとつ、「アルエット寮」の同室でもある美憂と友梨は、ルームウェアに着替え、夜十時までの自習時間を使って家族に向けた手紙を書いていた。ふと筆を止めた友梨は、今日の午前中の出来事を思い返しながら美憂に話を振ってみる。
「友梨もそう思った? 私もそう思う。でも、白雪は聞いても何も言わないし……、誰にいじめられてるのか

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第八話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第八話

 翌日の昼休み、美憂は友梨と(友梨が賄賂を渡したひとりである)クラスメイトの加納さくらと共に食堂へとやって来た。
 クレール女学院高等部には校舎の東棟と西棟、それぞれにひとつずつ学食があり、一年生のクラスがある西棟には「夢見鳥」という意味の食堂「カフェ・パピヨン」がある。そこには、クロワッサンにスクランブルエッグなどの軽食から、シェフの作る本格カレー、何だか難しい名前のトマトソースパスタや生ハムの

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第九話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第九話

「先ほどから申し上げているでしょう。彼女は『特別』なの。どんなことをしても、大抵のことは教師にさえ許されるのよ」
「私たちは、そんなやわじゃない。先生に怒られても構わないよ!」
 美憂はさくらの言葉に反論する。
「そういう問題ではないの。あなたたちは知らないでしょうけれど……、この学院では毎年、誰かがいなくなっている」
「……え?」
「ある年は教師が、ある年は生徒が。誰かが突然姿を消しても、誰も何

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十話

 同じ頃、「美化委員の仕事がある」と美憂たちに嘘をついていた白雪は、高等部西棟の外れにある旧校舎に潜り込んでいた。
 旧校舎は、現在の校舎とは比べものにならないほど古くこじんまりした木造建てで、閉ざされた窓と壁の一面にはアイビーが蔦を張り巡らせている。壁が朽ちて崩れ落ちて来ないのも、ひとえに粛々と手を伸ばし続けてきたこの植物のおかげかもしれない。ここは校舎として使われなくなった後も、十年ほど前まで

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十一話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十一話

 隣の「保健室」は、「職員室」よりも一回り小さな部屋で、ベッドが二台置かれていたようだ。手前にあっただろうベッドは、元「職員室」で宿直のために使用されたのだろう。ベッドがあった場所の床には日焼けをしていない部分が長方形の跡を残し、天井にはカーテンレールだけが張り付いていた。その奥にもベッドが置かれていたと推測されるが、その場所をぐるりと囲むように長いカーテンが端まで引かれていて、中の様子は確認でき

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十二話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十二話



 七月下旬に差し掛かり、夏休みを迎えた。
 夏休みといっても、普段から遊びや行楽とは無縁のクレール女学院の生徒たちの生活が、特別大きく変わるわけではない。
 夏休み中も各自が選んだ教科の膨大な量の課題があるし、ピアノ、バイオリン、フルートなどの楽器レッスンや、テニス、乗馬などのスポーツ競技の演習など、学院専属の講師たちからレッスンを受ける時間も大幅に増える。そして、十月に行われる「演劇祭」に

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十三話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十三話

 この学院に入ってすぐに分かったことがある。それは、薫が学院の生徒の中でも「格別」ということだ。入学する前は、彼女と同じ学校に入りさえすれば、学年は違っていても自由に話せると思っていたのだが、生徒会長の彼女は、ただの一生徒が気軽に話しかけられるような存在ではなかった。
 生徒会は、何もかもが「特別」だった。生徒会メンバーは全員が金刺繍の校章を左胸に持ち、寮も教室も他の生徒とは区別され、「ランテルヌ

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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十四話

【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第十四話

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【舞台『オズの魔法使い』出演者】
 ※()は学年または所属。

 ドロシー 本村 美憂(一年)
 かかし  鈴巻 明依(一年) 
 ライオン 柳 梨花(二年)
 ブリキの木こり 檜崎クララ(一年)
 おばさん 川瀬 奈那(一年)
 おじさん 箕田 彩華(二年)
 
 マンチキンたち 中等部の生徒たち(有志)
 兵士たち    高等部の生徒たち(有志)
 
 東の悪い魔女 安

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