#蝉
『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(4)
男の子の姿を確認すると、
私は、「アイスありがとうー!」と、彼に届くように、お腹に力を入れて声を出した。
少し先にいる彼は、その声が聞こえたらしく、手を振って応えた。
駆け足で私の元に来た彼は、
一本の木の棒を右手に持っていた。
私が、「それ、どうしたの?」と聞くと、
彼は、「これ、探してきた。使うの。」と、
ニヤリと笑った。
それは、まっすぐ細い木の枝で、30cmほどはありそうだ。
先が
『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(2)
ビーチサンダルを脱ぎ、裸足でベンチに体育座りをする。
描くのは、ここから見上げた、クヌギの木のあるの風景。
私は、膝の上にスケッチブックを抱えるように持ち、
ベンチの空いたスペースに、色鉛筆のケースを広げた。
青色の色鉛筆を手に取り、木の輪郭を書き始める。
木だからといって、茶色で書き始める必要はない。
今年の私の夏は、涼しいこの場所。
だから、青色がいい。
私は、クヌギの木の肌のゴツゴツ
『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(1)
8月も終わりに差し掛かった頃、
秋めいた空を見ながら、蝉の声を聞く。
思い出すのは、あの夏のこと。
私が、中学一年生の夏休み。
「夏の風景を描く」という宿題があった。
両親は忙しく働いており、家族でどこかに出掛けるという予定がなかった私は、
家から行ける範囲で、描く対象を探していた。
夏休みに、区民プールへ一緒に行ったクラスメイトは、
祖父母宅へ帰省した際に、絵の宿題を済ませてしまったと言