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『夏の終わりに思い出すのは君のこと。』(8)

9/ 1、始業式の日。
制服に袖を通す。

夏休み中は、ワンピースにビーチサンダルが私の定番だったから、久しぶりの制服は、何だか窮屈だ。
夏休みが終わったことを、思い知る。

9月になったとはいえ、まだまだ蒸し暑く、
髪をポニーテールに束ねた。


学校へ行くと、「久しぶりー!」、「元気にしてた?」と、久々の再会を喜ぶように、クラスメイト達が戯れ合っている。

私の属する 1年 2組は、学校舎の一階にあって、教室の窓に面する通路は、校舎の入口へ向かう登校生徒がぞろぞろと歩いて行く。

私は、クラスメイトとの挨拶もそこそこに、窓際の自席に着くと、窓の外を眺めていた。

クラスメイト、名前は知らないけれど顔は知っている同級生、初めて見かける上級生。
同じ制服を着た生徒達が、窓の外を流れていく。

同じ制服を着ているから、見逃さないように、それぞれの顔を見ていた。

しかし、彼を見つけることはできなかった。


体育館で行われた始業式の間も、私の目は彼を探していた。

帰りの時間まで、見つけることを諦めたくなかった。

私の長い髪は、何かの目印のためにあるんじゃない。
でも、今日はこのポニーテールが、私の目印になればいいと思った。
彼に、私を見つけてほしいと思った。


ホームルームが終わり、すぐに下駄箱に向かう。
下校する生徒は、必ずここで上履きから靴に履き替える。

時々、帰宅するクラスメイトや他のクラスの友達に、「バイバイ。」と手を振りながら、彼が下駄箱にやって来ないかと待ちわびる。

下駄箱に降りて来る生徒が、一人、二人になるまで、そこにいた。
誰かが下駄箱を開けて、閉める音がフロアに響く。
出口に向かう生徒は、知らない人だった。

私は、ここでも彼を見つけることはできなかった。


私は、そのまま帰る気になれず、自然公園へ向かった。

――あの場所で、会えますように。
そう、最後の願いをかけた。

「カナ カナ カナ」と、あの蝉が鳴いている。
もう夕方に近いのだ。


急いであのベンチに向かったが、誰もいない。

ふと、クヌギの木の足元に、何かが転がっていることに気が付いた。

それは、蝉だった。
6本の足を丁寧にしまい、腹を上に向けて、微動だにせず固まっている。
既に七日間を謳い終えて、土に還るのを待っているようだった。

よく見ると、透明色の羽があり、身体にはエメラルドグリーンの部分が見えた。
ミンミン蝉のようだ。


私は、今日もポケットに入れておいた、当たりのアイスの棒を取り出し、
クヌギの木の根元に、その棒で小さな穴を掘った。

動かなくなったミンミン蝉を、その穴に入れ、
手で土を集めて、優しく被せた。

蝉の眠る、こんもりと盛り上がった土の上に、雫が落ちる。

私の目から、涙が零れていた。

蝉の歌声は、今日も私一人の世界を作っている。

(つづく)

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