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掌編小説

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しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。ミナミガワ(@minami_gawa)となしころもサクサク(@jupiter_00270)のふたりで言葉を繋いでいきます。ふ…
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#小説

一緒に行きませんか?

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、キャンセル待ち に続き 「チケット」 です。

わたしはライターの仕事をしている。
いわゆる駆け出しの頃は、誰が見るのか分からないような便利グッズのモニター記事や、健康食品のレビュー記事を書いて、本当にわずかなお金を得て暮らしていた。

そんな仕事も長く長く続けているとだんだん信頼されるようになってきて、
今はやっと、たくさんの人が目に

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キャンセル待ち

キャンセル待ち

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、軍艦巻き に続き 「キャンセル待ち」 です。

待つことが、私の価値だ。
どこかの歌じゃないけれど。

そのひとは、取引で月に一度私の会社にやってきた。
背が高く白い歯をしていて、いつもさっぱりとした香りがした。
毎度の会食の後、二人でバーに行き、そのまま朝まで過ごした。
月に一度だけ、でも必ず。

そのひとには恋人がいた。
遠い外国に

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軍艦巻き

軍艦巻き

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、ウインドウショッピング に続き 「軍艦巻き」 です。

別れた恋人同士が、時間も距離も離れて思い出すこともなくなった頃、あるものを見たり聞いたりしたきっかけで、相手のことをふと思い出す、なんてことはよくあることだ。
お気に入りのキャラクターや、一緒に歌った時代外れの音楽、人それぞれ色々あると思う。

僕は思ったことをすぐに口に出してし

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ウィンドウショッピング・パラレルワールド(私の成功秘話)

ウィンドウショッピング・パラレルワールド(私の成功秘話)

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、手数料 に続き 「ウィンドウショッピング」 です。

「見て、あのワンちゃん。かわいい〜!」
当時住んでいた家の近所のペットショップ。
通りすがる人たちが、つぶらな瞳をした仔犬や仔猫たちを愛でる。しょっちゅうお気に入りの子を見に来ている人も見かける。
とはいえほとんどの人は、高級品の彼らを実際に買って帰ることはない。眺めて楽しむだけの、

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ザッハトルテは口実に過ぎない

ザッハトルテは口実に過ぎない

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、インフルエンザ に続き 「ザッハトルテ」 です。

正直、ザッハトルテじゃなくていい。

彼はわたしのことをチョコレートが大好きな女の子だと思っているから、
わたしは今日もツヤツヤした表面が美しいこのケーキを頼むけど、
ザッハトルテだろうがシュークリームだろうが、
レジ横のナンバーキャンドルだろうが、なんでもいいのだ。

わたしにとって

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インフルエンザ唯一のデメリット

インフルエンザ唯一のデメリット

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、数量限定 に続き 「インフルエンザ」 です。

メリット
・あなたがお見舞いに来てくれる
・キッチンに立つ後ろ姿を見られる
・心配そうにわたしの顔を覗き込んでくれる
・手を握ってくれる
・心配してくれる
・優しく頭を撫でてくれる
・いい夢を見られる

デメリット
・盛れない

次回は
インフルエンザ → 「ザッハトルテ」です。
またもわ

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数量限定

数量限定

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、留守(るす) に続き 数量限定(すうりょうげんてい) です。

「こちら数量限定商品! 50個限定、しっとり濃厚チーズケーキですー!」

東京駅のきらびやかな地下街。
SNSで評判を見かけたこのチーズケーキをぜひとも食べてみたいと思い、早起きして開店前から並びに来た。

昨日の朝、出張で東京に来た。
日帰りでもよかったのだが、東京でしか

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留守と恋

留守と恋

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、ターンテーブル に続き 「留守」 です。

まただ。
またいない。
この時間ならいるよ、ってそっちが指定してきたんじゃないか。
不在配達票に記す宛名も、思わず殴り書きになってしまう。

配達のアルバイトを始めて4ヶ月弱。
就活も終わり、単位もほぼ取り終わり、卒論も書き終えた。
私大文系の大学四年生はこんなに暇なものなのか。
卒業旅行のた

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ターンテーブル

ターンテーブル

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、ダークマター に続き 「ターンテーブル」 です。

疲れ果てて家に帰る。
ビールの缶を開け、最近気に入っているレコードをかける。

仕事に追われている。
家のソファーでひとり音楽を聴きながらビールを飲むこの時間がなければ、
わたしの暮らしはもうわたしのものとは言えなくなるだろう。
仕事のために起き、仕事のために着替え、
仕事のために

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ダークマターと恋愛マスター

ダークマターと恋愛マスター

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。
テーマは、スレンダー に続き 「ダークマター」 です。

ダークマターとは、
「質量は持つが、光学的に直接観測できない」仮説上の物質らしい。
間接的にその存在を示唆する観測事実は増えているものの、正体は未だ不明とのこと。

要するに、そこにあるって感じはすっごい分かるんだけど、なんだこりゃ見えねぇな、ってものだ。(と、わたしは解釈した。)

わた

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スレンダーライン

スレンダーライン

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、ダイス に続き 「スレンダー」 です。

「スレンダーライン、っていうのがあるんですね」彼女は言った。気に入ったのだろうか。
わずか7、8畳の小部屋の中で、僕らは四方をずらりと純白のドレスに取り囲まれていた。細かな刺繍が入ったもの、網のようなもの、さらさらしたもの、つるつるしたもの――布にこれほど無限とも思えるバリエーションがありう

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ダイス

ダイス

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、 レモンソーダ に続き 「ダイス」

人生ゲームが出てきた。
二年付き合っている彼との同棲が決まり、
さて断捨離するか、と部屋を片付けていたら見つけたのだ。
1年出番がなかったものは捨てなさい、という言葉をどこかで見たことがあるから、これはもうとうの昔に捨てられるべきものだろう。
細かい埃を散らしながらゆっくりと箱を開けると、赤

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レモンソーダは逃げ出さない

レモンソーダは逃げ出さない

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、クリームブリュレ に続き 「レモンソーダ」 です。

 昼過ぎの喫茶店で、僕はレモンソーダを見つめていた。テーブルの向こうにいる彼女の目を見ることは、今の僕にはあまりに難しい。
 口を開いては、言うべき言葉を飲み込んで、閉じる。無数の泡が、爽やかな香りで弾けていく。言わなくちゃ、と思うほど喉はからからに乾ききり、僕は声を失った。
 

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永遠にクリームブリュレ

永遠にクリームブリュレ

しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です
初回テーマは、「クリームブリュレ」

 このカフェに来るのは、もう何度目だろう。すっかり僕らの行きつけとなったこの店で、彼女は今日も注文が決められない。
「週替りで新作が出るって悩ましすぎると思わない? ああ、モンブランクレープ期間限定だってよ! でもやっぱりクリームブリュレが一番おいしいか……?」
 うーむ、とひとしきりメニューを見つめた後、

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