なしころもサクサク
短い文章で長く考えられるものを書きたいと思います。
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。ミナミガワ（@minami_gawa）となしころもサクサク（@jupiter_00270）のふたりで言葉を繋いでいきます。ふんわりあたたかな気持ち、立ち止まって考えをめぐらせるきっかけ、そんなものをお届けしたいという想いで書いています。読んでいただけたら嬉しいです。
今日はわたしの誕生日。 家に帰って郵便受けを見ると、 父と母からのバースデーカードが届いていました。 カラフルな風船が描かれたかわいいバースデーカードです。 ママとパパはここにいるから いつもここから見守っているから 安心してどこへでも飛んで行ってね！ またひとつ大人になったはずなのに。 子どもの時から変われないくしゃくしゃ顔で、涙が止まらない誕生日の夜でした。
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、キャンセル待ち に続き 「チケット」 です。 わたしはライターの仕事をしている。 いわゆる駆け出しの頃は、誰が見るのか分からないような便利グッズのモニター記事や、健康食品のレビュー記事を書いて、本当にわずかなお金を得て暮らしていた。 そんな仕事も長く長く続けているとだんだん信頼されるようになってきて、 今はやっと、たくさんの人が目にする媒体への掲載依頼をいただけたり、 自分の書きたい内容を選べたりするようになっ
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、ウインドウショッピング に続き 「軍艦巻き」 です。 別れた恋人同士が、時間も距離も離れて思い出すこともなくなった頃、あるものを見たり聞いたりしたきっかけで、相手のことをふと思い出す、なんてことはよくあることだ。 お気に入りのキャラクターや、一緒に歌った時代外れの音楽、人それぞれ色々あると思う。 僕は思ったことをすぐに口に出してしまう性格だ。 そのうえ彼女のことが大好きだったから、 「かわいいね」「声が好き」
今年は忘年会が全部で４回あった。 部署、フロア、担当エリア、全体と細かくジャンル分けがされていたが、 ４回すべてで顔を合わせた人も多くいるから正直もっと減らせると思う。 要はお酒を飲みたいだけなのだろう。 ただわたしは今年、並々ならぬ思いで忘年会に挑んでいた。 お酒が飲めないので飲み会は好きではない。 仕事の人とは業務時間以外に会いたくない。 それでもすべてに出席の丸をつけたのだ。 わたしには忘れたいことがある。
わたしはもうその意味を 十分に理解できる年齢になっている この離れ離れっていうのは隣の駅なんかじゃなく それはもう遥か 天の川のようなものなんだろう
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、ザッハトルテ に続き 「手数料」 です。 この言葉を聞いてプラスのイメージを抱く人はいるだろうか。 自分の代わりに手続きや仲介をしてもらった際に発生する金銭であるから、何かしら誰かしらの手を煩わせているはずで、そのことに対するほんの気持ちと思えば、そこまで嫌な気持ちになることもない気がする。 それなのに、どうしても払わなくていいはずの金額を払ったかのような、マイナスなイメージを抱いてしまう人が多い気がする。
汗を拭いながら、 「今日の満員電車は、なんかアトラクションみたいで楽しかった」 と、 可笑しそうに笑った。
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、インフルエンザ に続き 「ザッハトルテ」 です。 正直、ザッハトルテじゃなくていい。 彼はわたしのことをチョコレートが大好きな女の子だと思っているから、 わたしは今日もツヤツヤした表面が美しいこのケーキを頼むけど、 ザッハトルテだろうがシュークリームだろうが、 レジ横のナンバーキャンドルだろうが、なんでもいいのだ。 わたしにとって重要なのは、今日が水曜日か土曜日のどちらかであり、 彼の出勤日である、ということ
これまでの人生、わたしはいつだって幸せだった。 周りにはいつも優しい人たちがたくさんいて、わたしのことを尊重し、愛を与えてくれた。 大変なこともあったけど努力して乗り越えてきたし、そのお陰でやりたい仕事を毎日楽しくできている。 変化が現れたのは2週間前。 ストッキングを履こうとして、足に大きなアザが出来ていることに気付いた。 わたしは以前から知らぬ間にあざが出来ていることなんてしょっちゅうあったため、いつもより派手にやらかしたな、とさほど気に留めていなかった。 しかしその
ふたつの冷たい手は 気持ちとは裏腹にあっさりと離れた 明日の今頃には いつも通りのような顔をして わたしは仕事をしているのだろう
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、数量限定 に続き 「インフルエンザ」 です。 メリット ・あなたがお見舞いに来てくれる ・キッチンに立つ後ろ姿を見られる ・心配そうにわたしの顔を覗き込んでくれる ・手を握ってくれる ・心配してくれる ・優しく頭を撫でてくれる ・いい夢を見られる デメリット ・盛れない 次回は インフルエンザ → 「ザッハトルテ」です。 またもわたし、なしころもサクサク（@jupiter_00270）が担当します。
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、ターンテーブル に続き 「留守」 です。 まただ。 またいない。 この時間ならいるよ、ってそっちが指定してきたんじゃないか。 不在配達票に記す宛名も、思わず殴り書きになってしまう。 配達のアルバイトを始めて4ヶ月弱。 就活も終わり、単位もほぼ取り終わり、卒論も書き終えた。 私大文系の大学四年生はこんなに暇なものなのか。 卒業旅行のために少しでも貯金を増やしたいところだ。 もちろん苦労も多かった。 重たい荷物の
100円ショップ。 ものすごい行列なのに、たったひとつの品物を手に並ぶ男の人。 こんなにも並んでいると、諦めちゃったり、 もしくはこんなに並ぶからには、と別に今じゃなくてもいい品物を手に取ったりしがちだと思う。 でもその男の人は、顔色一つ変えず、たったひとつの両面テープを手に、 ただじっと並んでいるのでした。
ガラガラの社内に詰めて座った知らない人。 国旗の順番。 パーマの失敗。 1枚目のティッシュ。 抜けた髪の毛。 手すりに置く指の動き。 優しくない標識案内。 ヤンキーとお守り。 くしゃみのときにあてた手の行方。 肘置きの法則性。 持ち場じゃないつり革。 混合水栓でお水を後に止めたとき。 無茶なラッキーアイテム。
『おはよう。 昨日と同じ7時25分に君を起こしているよ。 今日の天気は晴れのち曇り。 いまは暖かいけど、帰る頃には寒いから上着は忘れないようにね。 半年前までは7時に起こしていたはずだけど、 出勤時間が遅くなった、わけではないんだろうね。 朝のお弁当作りは5日と続かなかったし、 ひとつひとつの動作で生じる音が以前の倍くらいの音量になった。 僕は見えていないけど、 きっと急いでいるとそうなるんだろうね。 今日が昨日と同じなら、 君はあと8分は僕を殴ったり叩きつけたりする
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説。 テーマは、スレンダー に続き 「ダークマター」 です。 ダークマターとは、 「質量は持つが、光学的に直接観測できない」仮説上の物質らしい。 間接的にその存在を示唆する観測事実は増えているものの、正体は未だ不明とのこと。 要するに、そこにあるって感じはすっごい分かるんだけど、なんだこりゃ見えねぇな、ってものだ。（と、わたしは解釈した。） わたしが色んな話をすぐ自分の興味に引き寄せちゃう癖があるだけなのかもしれないが、これ
