『線は、僕を描く』 砥上裕將 作 #感想
あらすじ(公式サイトより)
公式サイト
この物語にはかなり詳細に「水墨画」のことが描かれている。なんてったって作者の方が水墨画家だからねぇ。読み終わったときにまず感じたのは、「水墨画、描いてみたい」ということだった。
水墨画を描いているときに浸れる世界の中で1人になりたい、なんていうふうに感じた。
80ページより
才能や技術を超える何かって普通(何に対しても)あるものなのかね?センスは才能だし。能力は技術かな。
まっさらなまま、何にもまだ染まっていない状態だからこそ見える世界、なんていうものがあるのかもしれない。
西濱という水墨画かが、主人公(青山)に対して言ったことがある。
164ページより
なんか青山くんの気持ちがよく分かるなぁ、って思ってしまった。この何気ないシーンが1番印象に残っている。おそらく私もそうだから。
徐々に孤独じゃなくなっていく青山くんのことを(物語の世界の中で)眺めていられるのは、なんだか幸せなことだと感じてしまった。この本は文章の雰囲気が"優しい"から、青山くんの幸せを望みすぎて欲求過多になりそうだ。
青山くんが"自分のことを幸福だ"と思えた瞬間が最後に訪れたこと、そのことに対して私も幸福な気持ちを抱けたような気がしている。
青山くんは"生きる意味"を運命の中で探し続けている。その答えを探す術が、水墨画だったのだ。小説だから1ページも絵は描かれていないし、実際に青山くんが描いた水墨画を見ることはできない。
それでも、想像できてしまうのだから不思議だ。
湖山先生が言っていた、「心の内側にある宇宙」なんていう、空想とも言えるような世界のことを。
青山くんの心の内側には確かに、宇宙があるんだろうな。現象は外側にあるだけはなくて、内側にあるってことを、彼自身が1番体感しているのだろう。
288ページより
"生きる意味"を見出してほしい、ということを"水墨"を通して青山くんに伝えようとした湖山先生の思いが、痛いほど分かった気がする。
青山くんをずっと応援し続けたい、彼の人生をずっと見ていたい、そんな気がした。