河野通裕

JAZZを中心にほぼあらゆるジャンルの音楽を嗜好しており、読書も濫読で経済・哲学・文学…

河野通裕

JAZZを中心にほぼあらゆるジャンルの音楽を嗜好しており、読書も濫読で経済・哲学・文学と興に惹かれて手にしています。最近は、猫の魅力にとりつかれています。

最近の記事

DOG MAN

 リュック・ベッソン監督作品は「レオン」と「グランブルー」しか観ていない事をこの作品を観た後に気付いた位でどうして足を運んだかというと上映中の作品の中で見てみたいと感じたのがこの作品しかなかったからだった。  冒頭のシーンからは全くどの様な物語が転嫁するのか想像もつかなかったけれど、こういう形で犬との共生が描かれているアイデアには感心させられた。  前半の主人公がここに至るまでのプロセスが凄まじかった。父親が一見狂気を体現している様に思えるがむじろわかり易く、それに対して兄の

    • 「点・線・面」

      建築家が書く文章というとすぐに思い浮かぶには磯崎新で彼のそれは哲学者の記すものの様にも読めてその作品との比較で興味深いものであった。 それ以降ではそんなに気もしていない中、書店で隈研吾の書籍を目にする事が多い事に気づいた。彼は新書も数冊上梓しているし題名も「負ける建築」など耳目を引くものも多く、書く事で伝えたいものがあるのだろうなと感じ、その中から選んだのが「点・線・面」だった。 隈研吾といえば今や世界中でも最もオファーが多い建築家の一人であるが、その彼が世に出るきっかけがバ

      • Casteを読んで

        Timeで紹介されていたのに興味を持って手にした著作。 Casteというとすぐに頭に浮かぶのはインドの階級制度であるが、この著作ではアメリカ社会に根付くアフリカンアメリカンに対しての差別について、 自身の体験を踏まえて書かれたものである。 インドでのそれがある意味明示的な階級を示しているのに対して、アメリカのそれは表面的には示されていないだけに差別される側にとっては差別されていること自体を問題にすることさえ難しいという複雑かつ根深いものがあり、それがこの時代に至るまで続いて

        • 資本主義だけ残った

          フランコ・ミラノヴィッチの新しい著作。Aloneのニュアンスが民主主義を語ったチャーチルの言葉を思わせるがまさに選択肢がない中で求めうる資本主義とはどういうものなのだろうかという考察。 著者はこの中で資本主義をリベラル能力資本主義と政治的資本主義とに分けて各々の特徴を詳らかにしながら議論を進めている。 リベラル資本主義については、リベラルな思考が持つ妥当性や蓋然性を許容せざるを得なさにより不平等が容認されてしまう事により社会的な課題を加速させてしまうと同時にコンセンサスが求め

          矢野顕子〜「さとがえる」コンサート

          ここ何年かNY在住の矢野顕子の日本でのライブは夏のBlue Noteでのトリオと冬の「さとがえる」コンサートというパターンで進められており、夏はスケジュールが合わずにいけないこともあったが、冬についてはほぼ我が家の恒例行事となっていた。しかしながら、コロナの影響で夏のライブは中止、冬のコンサートも開催が危ぶまれていたが、人数の制限と様々な対策を講じることで開催が決まり、幸運にもチケットを手にできたので今年初めてのホールコンサートに赴いた。 座席は一人おきに座るようになってお

          矢野顕子〜「さとがえる」コンサート

          「空っぽ」没後50年の三島由紀夫について

          今年は三島由紀夫没後50年ということで彼に関する著作が多く刊行されている。その中の代表的な2冊を手にして改めて三島由紀夫について思いを馳せた。三島由紀夫を語る時にしばしば引用されるのが<このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう>という言葉であり、まさに今のこの国を言い表している。 三島はこうし

          「空っぽ」没後50年の三島由紀夫について

          この国の政事〜TAMA CINEMA FORUM

          大島新監督による「君はなぜ総理大臣になれないのか」については、このドキュメントの主人公が民進党(当時)の小川淳也氏を題材にしていることから興味はあったが、結果的には足を運ぶ機会を逸していた。そして、この作品についてより興味をそそる情報として、井出英策氏の応援演説が素晴らしかったというものがあり、いつかは観たいと思っていたところ、TAMA CINEMA FORUMにおいてこの作品を上映するだけでなく、大島監督と井出氏によるトークセッションが行われると知り、足を運ぶ機会を得た。

          この国の政事〜TAMA CINEMA FORUM

          言葉はどこからやってくるのか

          80年代半ばに浅田彰の「構造と力」が大学生を中心に読まれることで拡がったニューアカデミズムの動きの中で重石のように君臨していた蓮實重彦。 フランス文学の批評家としてだけでなく映画評論においても世界的に有名を馳せている氏のどの書物にも発表されていないテクストを集めた著作が刊行された。氏の映画評論は私自身が映画を観る際の道標ともいえるものでダニエル=シュミットやビクトル=エリセなどは氏を通じて知ることとなったし、ゴダールやトリュフォーなどもその作品に深くのめり込むきっかけはやはり

          言葉はどこからやってくるのか

          ロッキード疑獄

          高校生の頃、政治に対して興味を持ち始めた時に魅力的な政治家として映っていたのが田中角栄であった。そして、その田中が政界を追われることとなった収賄事件がロッキード事件であった。国会での証人喚問も初めて見たし、当時の流行語にもなった「記憶にございません」という台詞や丸紅の面々に比べて国際興業の小佐野賢治の泰然として姿勢にエリートにはない強さを感じたものであった。この事件は田中角栄がアメリカに対して好ましくない首相として認識され、彼を外したくてアメリカ政府が企図したという陰謀説がま

          ロッキード疑獄

          『不愉快な本の続編』

          著者の作品は相当数、それも刊行をほぼ同じくらいの時期に読んでいたのだが、この作品は何故か手にしていなかった。それが、ふとしたことから手にすることとなったのだが、著者の関係性を描く想像力の巧みさは相変わらずで面白かった。 冒頭で自身を芋虫と断じ、自らの歩みを不愉快な本の続編と称している雰囲気はシニカルだけれど、そもそも芋虫はともかく“不愉快な本の続篇”という喩えがどんなものかを探しながら読むこととなった。          主人公は厭世感を漂わせて入るものの、実は金貸しができ

          『不愉快な本の続編』

          RADICAL MARKETS         エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル

          少し前に刊行された著作であるが、ようやく読み終えた。未来に対する提言としてはとても興味深い物であった。冷戦後、フランシス・フクヤマではないがイデオロギーとしての右派・左派の対立は事実上、終焉しまさにグローバルな環境下での経済的なパフォーマンスが新自由主義として喧伝される中、この動きが格差と分断を助長し、政治的にはポピュリズムが台頭してきたいる。こうした状況下で、著者らは社会をラディカルに再構成する試みを提言する。そして、そのベースを市場においているのである。但し、その手段とし

          RADICAL MARKETS         エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル

          SCALE〜ジェフリー・ウェスト

          私は邦訳された書籍を選ぶ際の基準として翻訳者が大きく作用している。文学だと柴田元幸さん、経済や社会関連だと山形浩生さんと村井章子さんが翻訳されている書籍は手にする事が多い。その中でも圧倒的に多いのが山形浩生さんのものである。彼の翻訳したものの最初はおそらくローレンス=レッシグの「CODE」でそれ以降は殆どの翻訳本は手にしていると言いたいが、何と言っても氏は非常に広範かつ多様な著者の作品を翻訳しているのでそれでも一部という状態なのだと思う。 氏の翻訳に対する姿勢はおそらく他の

          SCALE〜ジェフリー・ウェスト

          Without the Piano〜Keith Jarrett

          10月30日にrelease 予定の『Budapest Concert』についてこのnoteに書いた時点でKeith Jarrettの復活を懸念していたが、昨日New York Timesに事実上、彼がpianoを再び弾く事がないとの記事が出た。予想していたとは言え、事実として突き付けられると喪失感が大きい。   この記事によると最後のLiveは2017年のCarnegie Hallでの演奏だったという事で2018年に脳卒中にかかって以来、リハビリを含め回復に努めてきたよう

          Without the Piano〜Keith Jarrett

          Prince plays with Miles Davis

          PrinceとMiles Davisが共演したことはすでに事実として流布されており、その作品がいつ日の目を見るのかはreleaseする側の問題であり、ひたすらその権利を持つ人がその気になってくれることを願いばかりであった。    そんな折、Princeのsign of the timesがremasterでCD9枚、DVD1枚のdelax editionとしてreleaseされた。この中には未発表曲63曲が収録され、DVDは1987年のPaisley ParkでのLiveでま

          Prince plays with Miles Davis

          TENET

          9月18日に公開されておよそ1ヶ月。少し遅ればせながら話題のクリストファーノーラン監督作の「TENET」を観てきた。           SNSでもこの作品の話題が多く、何となく時間の逆行がテーマとなっていることとそれが物語とどうLINKするか1度観ただけでは中々理解に苦しみそうだという前情報を持ちながらスクリーンに対峙したので肩に力が入り、観ながらも内容の理解に苦慮しながらエンドロールをむかえた。 まさに予想通りで誰が何の目的で何を為そうとし、何が為されなかったのかという

          Godardの贈り物       Elie Faure Histoire de l'art

          大学生の頃にGodardの「勝手にしやがれ」と「気狂いピエロ」がリバイバルで有楽町の映画館(名前は失念してしまったが、近くにパチンコ屋があったような)で上映されていた。何となくフランスにかぶれかけていた当時の自分にとってGodardは名前しか知らなかったけれど、であるが故にこの企画は是非とも押さえておかなくてはならない作品として劇場に足を運んだ。 「勝手にしやがれ」はすでに名前とある程度の情報はあったが「気狂いピエロ」は全く知らなかったし、その題名からもあまり期待はせずにス

          Godardの贈り物       Elie Faure Histoire de l'art