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ロッキード疑獄

高校生の頃、政治に対して興味を持ち始めた時に魅力的な政治家として映っていたのが田中角栄であった。そして、その田中が政界を追われることとなった収賄事件がロッキード事件であった。国会での証人喚問も初めて見たし、当時の流行語にもなった「記憶にございません」という台詞や丸紅の面々に比べて国際興業の小佐野賢治の泰然として姿勢にエリートにはない強さを感じたものであった。この事件は田中角栄がアメリカに対して好ましくない首相として認識され、彼を外したくてアメリカ政府が企図したという陰謀説がまことしやかに語られ、以後もアメリカの属国としての日本という位置付けは半ば当然視されている。

著者の春名幹男氏は当時の資料に当たりながら予断を挟まずに事実を積み上げながらこの事件を詳かにしようとした著作であり、600頁弱の大著である。この著作を読むと田中がアメリカにとっては当時首相候補として認識されていなかったが故に中国との国交回復という断行をし得るだけの人物であるということを想定し得ていなかったことで田中憎しの思いがニクソン大統領、キッシンジャー国務長官、特にキッシンジャーに強かったことが根底にはあったようだ。その上で、田中自身が自身がニクソンらにそうした評価をされていたことを全く認識していなかったことが致命的であったようだ。

著者も書いているようにロッキード事件で田中に渡ったとされる賄賂は5億円。しかし、P3Cという対潜哨戒機を自衛隊が購入するという決定に寄与したとされる児玉誉士夫に渡った金額は正確にはわからないが、少なくとも契約したとされる文書によると最大で70億円に上り、かつこのスキームは購入資金が税金であることを考えると日米同盟自体の根幹を揺るがすほどのものであるが、同じロッキード社による贈賄事件であるのに扱いは全く異なるものとなっている。著者は、こうした状況から児玉誉士夫と政治家として関わったと思われる岸信介・中曽根康弘両氏を巨悪と断じている。

当時の日本が高度成長期であり、民間を含めてアメリカにとってその購買力が魅力的であったことがこうした事件の根底にはあるのであろうが、国防に当たる兵器についてはオスプレイやF15に見られるように未だにアメリカからの購入額は莫大な予算を投じているが、今に至っても児玉誉士夫のようなフィクサーが関わり、同じスキームが展開されているのであるとしたら、アメリカの51番目の州と言われている我国の位置付けは今も続いているのであろうということを感じさせるもので読み応えのある著作であった。

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