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この国の政事〜TAMA CINEMA FORUM

大島新監督による「君はなぜ総理大臣になれないのか」については、このドキュメントの主人公が民進党(当時)の小川淳也氏を題材にしていることから興味はあったが、結果的には足を運ぶ機会を逸していた。そして、この作品についてより興味をそそる情報として、井出英策氏の応援演説が素晴らしかったというものがあり、いつかは観たいと思っていたところ、TAMA CINEMA FORUMにおいてこの作品を上映するだけでなく、大島監督と井出氏によるトークセッションが行われると知り、足を運ぶ機会を得た。

井出氏については、民進党が前原党首の時の政策アドバイザーとして“ALL for ALL”というスローガンを掲げた際に知ることとなり、それ以降氏の著作に接し、その主張に大きく共感し、氏の著作だけでなく、NET放送での主張なども見聞し続けていた学者であった。特に近著の「いまこそ税と社会保障の話をしよう」では、氏の生い立ちを含めて詳細に今に至る過程を知るに及び、益々興味をそそられていた。

映画については、小川淳也氏の日常を追いながら、政治を志すことの厳しさや氏の一見政治家には向かないのではないかと思わせる様な振舞いがストレートに描かれていた。しかし、やはりハイライトは井出氏の演説であった。従来より氏の政策提言は学者の机上論を超えた妥当性を持っており、かつその発信力の強さは自らが政治の舞台に立つに十分な力量を備えていた方だと思っていたが、まさにこの演説での人の心をうつ言葉の力は氏の政策を広く民衆に知らしめるには氏の言葉を持ってするのが最適だと感じさせられた。

この点については氏がトークセッションで自ら触れていたが、政治家を志すことはないと。むしろ、学者として氏の思想を通じて社会を変革する方法を取りたいということであった。現実に自民党は氏が主張していた幼稚園・保育園の無償化を実施し、また氏の唱えるベーシックサービスについても世間に認知され始めている。このことからも氏の主張が実現されつつあるのだが、社会を変革させるにはこれでは弱いし、今の自民党にとっては個々の政策に反映させることでポピュリスティクな指示を拡げる方便にもなり得る可能性がある。個々の施策は大きな社会像がある上での枝葉であるので、この社会像が共有されていないところではむしろマイナスになってしまう懸念が強い。

井出氏は社会を良くしたいと思う人たちが身近なところから少しづつ出来ることを行うことで社会は変えられると語っていた。確かにそうだと思うが、今の社会を良いと思っている人もいるし、それ以外のaltenativeが描けない人もいる中で、目指すべく社会像を提示しながらその方向に歩みを進める上でのleadershipこそが求められており、それを実践するに足る人物であると今でも思っている。これからもその動向に注視したい。

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