見出し画像

SCALE〜ジェフリー・ウェスト

私は邦訳された書籍を選ぶ際の基準として翻訳者が大きく作用している。文学だと柴田元幸さん、経済や社会関連だと山形浩生さんと村井章子さんが翻訳されている書籍は手にする事が多い。その中でも圧倒的に多いのが山形浩生さんのものである。彼の翻訳したものの最初はおそらくローレンス=レッシグの「CODE」でそれ以降は殆どの翻訳本は手にしていると言いたいが、何と言っても氏は非常に広範かつ多様な著者の作品を翻訳しているのでそれでも一部という状態なのだと思う。

氏の翻訳に対する姿勢はおそらく他の方には例がないもので、必ず本文の後に翻訳した内容について訳者解説が記されており、ここで氏の論考を知る事ができる。また、氏は極力、訳した内容について正確を期しているがそれでも誤訳と思われる点については自身のHPで訂正すると言ったプロフェッショナルな態度で臨まれている。こうした姿勢に共感すると共に氏の訳書を追いかける事で新たな書き手の存在を知る事ともなっている。

今回の「SCALE」もまさに山形氏が訳していなければ知ることのない著者の作品であった。読後の感想としては歴史的に総合的・俯瞰的に(どこかの首相のようであるが)事象に当たる事が正しい姿勢なのだろうという事が教えられた。山形氏が訳されたピケティの「21世紀の資本」で、経済成長率が資本のリターンよりも高い値を示したのはここ数十年のことであるが、ここ数十年しか経験していない人々にとってはそれが当たり前になっており、その錯誤が誤った施策につながるというような指摘があったが、同様な事がこの著作にも記されており、多くの物事はべき乗則に支配されているらしい。

著者のウェストは都市の効用について論じており、あとがきでもこう記している“私の知る限り、カリフォルニアのシエラ山脈の高地で働いているハイテクおたくはいない。大多数は、従来の都市生活を好む。都市は人口が減るどころか、再興、成長しているが、その理由のひとつはリアルタイムの社会的接触の社会的吸引力にある。” 今コロナで社会的接触が難しい中でこの動きがどういう方向に向かうかは非常に興味深い。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?