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SUGAR COATED
36歳。
背中が痛むようになった。原因はわかっている。姿勢が悪いからだ。腹筋が目も当てられないほどに落ち、首周りの筋肉も弱くなったせいで、猫背がちになっている。直そうと意識したところで、まずは頭が重くて首が諦め始め、次に体幹が諦め、気が付けばまた萎れた花のような姿勢になってしまうのだ。
そうなると必然、今度は首が痛くなって肩も痛いし腰も痛い、なんとかしないとと思いながら姿勢を正せば猫背に
宮フレちゃんにとってのアイドルってなに
宮本フレデリカにとってのアイドルとは何なのか?
なぜ宮本フレデリカはアイドルをしているのか?
アイドルにとしてこうしたい、これを成し遂げるためにアイドルをやりたい、という意思が宮本フレデリカさんから語られたことは基本的になかった。
[シンデレラドリーム]宮本フレデリカが登場するまでは。テキスト読んだか?
・宮本フレデリカさんにとっての「アイドル」は自分のアイデンティティの延長線アイドルプ
Late Night (with you)
『奏? どうしたの、大丈夫?』
帰宅早々、親を驚かせてしまった。モノに当たるのは悪癖だと自分でもわかっている。これくらいなら大丈夫だろうと思って壁に投げつけた枕は想定よりも何倍も大きな音を立てて、沢山のホコリと、親の心配と、罪悪感を掻き立てた。
『……ごめんなさい。頭冷やしてくる。帰り、遅くなるかも』
着ていた服を脱ぎ捨てて、タートルネックニット、ジャケット、コート、ジーンズ。マスクとニ
OR ELSE (I CRY)
「変なこと、聞いてもいいかな。一人のとき、私のこと考えたりする?」
声の震えは、抑えきれなかった。
会話の前フリも問いかけの一字一句も、全て頭の中で何度も予行練習を行ったものだったが、それでも竦む心を完全に隠すことはできない。
「なんでもない一瞬とか、息苦しい瞬間に。私のこと、思い浮かべたりする?」
返ってきた沈黙は、何よりも雄弁な答えだった。失意がくっと頭を軽くする。奏は目を伏
ONCE WAS LOST
親父の言いつけは、たくさん破ってきた。けど、守ってきたものが一つだけある。
『迷子になったら動き回るんじゃない。その場にいろ』
小さい頃、あたしはよく迷子になる子だった。何かに興味が湧くとふらーっとそれを追いかけていってしまうせいで、両親を困らせたことは一度や二度ではとても済まない。
その性分は、高校3年になり、人生の岐路に立たされたときもやはり変わらなかった。だから、あたしは動き回ら
THE NIGHTS
爺っちゃんは、夜にギターを弾くことを日課にしていた。私は、それが好きだった。
だから連休で爺っちゃんの家に遊びに行くと、夜にはベランダに出て一緒に弾き語りをするのが、私が5つの時からのお決まりの行事だった。
夕食を摂り、私がお風呂から出て客室のベッドの上で祖母譲りの大ボリュームの癖毛を乾かすことに苦戦していると、爺っちゃんは決まって「おーい柑奈、やるぞお」とガラガラ声をベランダから張り上げ
シオミー・シューコとお狐さまの祟り[2]
[2]
七五三の写真というやつは面白い。二年刻みでちんちくりんが少しずつ、少しずつ大人の姿に近づいていく様を並べてみると、何かと発見に満ち溢れている。
3歳のときは親がいないと何もできない洟垂れの幼児だから、写真では口の周りがベトベトだったり、愚図った直後で目元が腫れていたり。でも、人格の根っこの部分はきっちり形を為しはじめている。
5歳になれば、少しは一人の人間として確立した生き物に
シオミー・シューコとお狐さまの祟り[1]
[1]
「ステーキプレート、カリマリフリッター、シーザーサラダ、白身魚のマリネ、ベイクドポテト、食後は渋柿のガレットとジャスミンのシャーベット、うん、はい、決まり」
大きなウィンドウガラスの外では都会人たちがキリキリと人波を作っていた。快晴にもかかわらず高層ビルに遮られて陽光の入ってこないレストランの奥、人の目を忍んだ二人席。よく効いた冷房と心地よい間接照明、さらりと手触りのよいオフホワイト
シオミー・シューコとお狐さまの祟り[0]
「過去についての夢を見るのは、脳が記憶の引き出しを整理しようとしているからですよ、塩見さん」
「そっかーそうなんだー。じゃああたしが同じ夢ばっかり見るのは脳みそが引き出しにひっかかっちゃってるからかなー」
「あっはは、そうかもしれませんねぇ」
「何笑てんの」
「…………」
あ。今のは流石に感じ悪すぎか。
時計の針は13時20分を刺していた。
事務所に入ったばかりの頃、壁でも腕で