OR ELSE (I CRY)

 「変なこと、聞いてもいいかな。一人のとき、私のこと考えたりする?」

 声の震えは、抑えきれなかった。

 会話の前フリも問いかけの一字一句も、全て頭の中で何度も予行練習を行ったものだったが、それでも竦む心を完全に隠すことはできない。

 「なんでもない一瞬とか、息苦しい瞬間に。私のこと、思い浮かべたりする?」

 返ってきた沈黙は、何よりも雄弁な答えだった。失意がくっと頭を軽くする。奏は目を伏せ、深い息を漏らした。

 予想はしていた。自分がおおよそそういった目で見られるような女ではないこと、彼に胸の高鳴りを与えることはできていても、心地よさを与えることはできていないということ。しかしその事実の針が胸に刺した一突きは、奏が構えていたよりも遥かに大きな痛みを伴った。

 けど、今日は特別な日だから。泣くなら、ずっと後。

 唇を噛んだ一瞬、自分にそう言い聞かせ、奏は妖しい笑顔を作った。

 「映画だったら、ここで俳優が肩を抱いてくれたり、頬を撫でてくれて愛おしげに見つめあったりするんだけど。そういうクリスマスプレゼントは、無い?」

 用意していた通りの文句。どんな時でも柔らかい内側を守ってくれる、仮面の表側の速水奏の言葉。一縷の希望に伸ばした問いをいつも通りの誘惑遊びに変えるスイッチを、奏は躊躇なく押す。

 だから次の瞬間、堪えた涙が頬を伝い、けど冷たい筋が優しく自分のものでない手によって頬の上で遮られたとき、いとも容易くその仮面は割れた。

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