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創作大賞2024 参加作品

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創作大賞参加の短編作品です
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記事一覧

天空の標 第一話

天空の標 第一話

あらすじ

 森に守られたシレア国では先王と妃が相次いで逝去した。王位継承者第一王子カエルムは即位を控え側近のロスと近隣諸国訪問中である。海に面した強国テハイザは陸の資源を欲し、シレアと緊張関係にあった。カエルムは強固な友好条約を目指して外遊の最後にテハイザを訪れる。
 しかし止まることなく天体の動きを示すテハイザ国の宝、「天球儀」が訪問とほぼ同時に停止し、隣国の王子は災禍の種だと王との謁見を阻ま

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時の迷い路 第一話

時の迷い路 第一話

あらすじ

 森に囲まれた平和なシレア国の中で唯一時を刻むのは、王都シューザリーンの城下街に立つ時計台のみ。他に時計はないこの鐘楼の時計に異変が起こる。
 頼りになる兄王子は南の大国テハイザとの緊張関係を解消すべく外遊中である。兄と共に次代の統治者として国の安寧を守るため、王女アウロラが奔走する。
 そんな非常事態に王女と瓜二つの少女が別世界からシレアに迷い込んだ。二人は運命を感じ手を取り合う。し

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美味しければいいってもんじゃない! 短編小説で簡単おしゃれレシピ! ベーグル・サンドイッチ2種

美味しければいいってもんじゃない! 短編小説で簡単おしゃれレシピ! ベーグル・サンドイッチ2種


レシピなお話⭐︎ カフェ風ベーグル・サンドの魅惑

 お昼のお弁当の定番はサンドイッチである。
 嘉穂は、初めは「楽だから」という理由から作り始めたサンドイッチという魅力的なお弁当にすっかり取り憑かれてしまった。
 はじまりはベーグルサンドだった。もともとパン好きの嘉穂は、複数の有名デパートの地下に店舗を構えているベーグルのチェーン店で六つセット売りされていたベーグルを買い込んだ。
 朝食に食べ

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齢八十八、指揮者にないもの

齢八十八、指揮者にないもの

 身を包む空気には、風もなく、濁りもなく、熱もなく、湿気もなく。
 無駄なもののない空間だ。
 壁越しに耳に入ってくるのは一定の振動数を保つ長い弦の音、遊び吹かれる木管の音階、弾むような金管の鼓笛。それらが雑多に入り混じる、「まだ」混沌状態のものたち。

「マエストロ、そろそろです」

 瞼を開ける。
 私の前の鏡には、顔に深い皺が刻まれた老人が一人座って映っている。同じく皺だらけの手が、台の上に

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帰るために、旅立つ夏

帰るために、旅立つ夏

チューリヒ国際空港

「当機はただいまより、着陸態勢に入ります。お席をお立ちのお客様はお座席にお戻りになり、シートベルトをしっかりとお締めください」
 耳に感じる圧に変化が起こり、喉元が圧迫されるような気分がする。さっきまで外を隠す濃紺色だったサイド・ウィンドウがゆっくりと無色透明に変わる。眼下に広がる雲海の合間に頂を出すアルプス。盛夏だというのに銀白に包まれて雄壮に聳え立つ姿を照らすのは、雲の向

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曇り空の下で、熱いフォカッチャを

曇り空の下で、熱いフォカッチャを

『海外留学』と聞くと、充実した素晴らしい思い出のできるキラキラしたイメージを思い浮かべるのかもしれない。
 ことに行き先が観光名所も多いヨーロッパとなれば、学業以外の文化歴史に触れ、友人たちと日本では不可能な現地ならではの余暇を楽しみ、第二の故郷とも呼べる場所を得て帰ってくる——少なくとも、巷にある留学プログラム紹介や体験者の声にはそういうものが多いのではないだろうか。広報にある写真を見ても画面か

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