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「もの」たちの気配に耳を澄ませる〜「民藝 MINGEI 美は暮らしの中にある」展から日枝神社・神幸祭へ

「民藝 MINGEI 美は暮らしの中にある」展(世田谷美術館)へ。

「美しさ」に対する価値観が引っくり返るような、素晴らしい経験でした。
このレポートが、これから訪れる方の参考になればうれしいです。

帰りに立ち寄った銀座でラッキーなことが起こったので、その出来事についても書きました。


百人一首が刻まれた「いらかみち」をたどり世田谷美術館へ


会場は、用賀駅からゆっくり歩いて20分弱、砧公園の中にある世田谷美術館。
バスも出ているようですが、気候もいいので、歩くことにしました。

用賀駅から美術館までは、「用賀プロムナード(いらかみち)」という散歩道が整備されています。
街路樹や花が植えられた小径には瓦が敷き詰められていて、よく見ると、百人一首が刻まれているんです。なんと心にくい演出!

和歌をたどりながら楽しく歩いているうち、あっという間に砧公園へ着きました。

着物で出かけると、入館料が割引に


「民藝」とは「民衆的工藝」のこと。
展覧会のタイトルにもある通り、日々の生活の中にあるモノたちに美しさを見出すという考え方です。

展覧会にも着物がたくさん出品されるようなので、民藝の作り手の方々に敬意を表して、着物で出かけることにします。

単衣の着物にしじら織の帯、帯締めは夏を先取りしてみました。
着物も、帯も、帯締めまで全部家で洗える素材を選んだので、暑い時期のお出かけにも、ワンピース感覚で気楽に着られます。

美術館の入り口で当日券を購入しようとしたら、「着物でご来場の方は『きもの割』で100円割引になります」と。
今日のうれしい驚き、2つめです。

民藝って、こんなにかっこいいの!?


会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのは、大きなダイニングテーブルと、座り心地の良さそうな椅子が置かれた空間。
民藝の提唱者である柳宗悦が、駒場にある日本民藝館の中に作り上げた「ライフスタイル提案」の展示だそう。

すみずみまで見ごたえのある、魅力的なしつらえです。
この部屋で暮らす家族の談笑する声が聞こえてきそう。
(このコーナーは写真撮影ができます)

展覧会のメインである第2章「暮らしの中の民藝」では、「衣・食・住」の3パートに分けて、民藝の品々が展示されています。

「衣」のコーナーでまず目を惹かれたのは、青森で作られた刺子の着物。
紺地の布に白い木綿糸で細かな模様が刺繍されていて、いったいどれだけの時間をかけて刺したんだろう……と思いを馳せずにはいられません。

山形で作られた刺子の足袋は、いつまでも、ずっと眺めていたい見事さ。
白地に紺の糸で細かい刺繍がなされているのですが、装飾ではなく保温機能を高めるための細工だったというところがまた、ぐっときます。
実用性を追求したところに巧まない美しさが生まれるって、素敵すぎる。

樹木の繊維で織られた布に、木綿で装飾をしたアイヌの衣装は、ダイナミックな文様に心奪われました。

民藝に対して、勝手に「おばあちゃんの家」みたいな先入観を持っていたのですが、「え、こんなにかっこいいの!?」とこのあたりで目の色が変わってきます。

「食」のパートでは、福岡で作られたという「いっちん行平」にきゅんとしました。
ころんとまあるい形で、眺めているうちに、何だかタヌキを思い出します。かわいい。
解説文に、駅弁のお茶を入れる「汽車土瓶」の産地で作られたものだとあります。
言われてみれば、確かに愛らしい雰囲気が似ているかも。

民藝の台所道具は、どれも作った人の手のぬくもりが感じられるものばかり。
素朴で個性的で、一つひとつに物語が宿っているみたい。

一度見たら虜になる、琉球紅型


沖縄の工芸品や、暮らしの道具を紹介するコーナーもありました。
鮮やかな文様を型染めした紅型(びんがた)の着物がただただ美しく、展示ケースの前で立ち尽くします。

美しさに酔ったようになって、通路でぽーっとしていたら、粋な着物姿のお姉さんが、「見ましたか、あの紅型の小紋」と声をかけてくれました。
「ええ。もう、あまりにも綺麗すぎて……」と深く頷きあいます。
職人の方々が手間暇かけた芸術品を身に纏うことができる、着物の素晴らしさを再認識して、ますます大好きになりました。
琉球紅型、着物好きにはたまらない永遠の憧れです。

パンフレット左下、青い着物が紅型です

人間国宝の芹沢銈介は、琉球紅型に衝撃を受け、染色家になったそう。
秋には、日本民藝館で芹沢銈介の展覧会があるそうなので、ぜひ見に行かなければ。

手漉きの型染め和紙カバーのついた図録(特装版)


ミュージアムショップには、日本各地の工房で作られた陶器や布製品がずらりと並んでいて、あれもこれも欲しくなります。

展覧会の図録は、通常版と特装版がありました。
特装版は会場限定販売で、富山の薬売りの包み紙として発展した「八尾和紙」の手漉き和紙カバーがついています。

あたたかみのある和紙の手ざわりと、型染めされたアイヌ文様に吸い寄せられて、迷わず特装版を手に入れました。
巻末に、現代の民藝を担う職人の方々のインタビューが収録されていて、じっくり読むのがとても楽しみ!

この展覧会を見るまで、「美しさ」ってどこか遠くにある、選ばれた人のためのもので、私たちの日常生活とはかけ離れていると思っていました。
だけど人の手によって生み出された道具たちの中には、それぞれ固有の美しさが宿っているのだと、目をひらかれたような気がします。

新しい便利なものがだめで、古い不便なものがいいというような単純なことではなく、ものたちが発する微かな気配に耳を澄ませる注意深さを持つということ。
そうやって一つひとつの道具や衣類を選び、長く大切に関係を築いていけたら、毎日がどれだけ豊かになるだろうと思うのです。

すぐに全部を変えることは難しいかもしれないけれど、身近なところから、ひとつずつ。

日枝神社・神幸祭の王朝行列を特等席から見物


美術館を出たあと、再び百人一首の道をたどり、所用のため銀座へ向かいます。

用事を済ませ、冷たいお茶が飲みたくなって、教文館の4階にあるカフェへ。
最近はどこのお店も国際色ゆたかなお客さんで大にぎわいですが、この小じんまりしたお店は、平日なら並ばずに入れることが多いのです。

たまたま空いていたカウンター席に座り、窓から銀座三丁目の交差点を見下ろすと、中央通り沿いに人だかりが。
どうやら、何かのお祭りがある様子。
調べると、徳川家の守り神として知られる永田町・日枝神社の山王祭。日本三大祭のひとつです。
その初日に行われる「神幸祭」の王朝行列が、間もなく銀座を通過するのだそう。

6年ぶりに行われるという豪華絢爛なパレードが、ちょうど銀座を通る時刻に、たまたま中央通りを見下ろすカフェのカウンター席に座っているなんて、なんという幸運!

涼しいお店の中で、おいしいお茶を飲みながら、王朝装束の人びとや豪華絢爛なお神輿、象の形の山車や色とりどりのお花で飾られた山車などを、じっくり見物させてもらいました。


今日はどこへ行っても、うれしいサプライズが待っている素敵な1日だったなあ。

この長い記事を最後まで読んでくださったあなたにも、ラッキーなことがたくさん起こりますように。

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