氷野深霧(ヒノミギリ)

海の向こうの幻想文学に根ざし、日常に潜むあちら側を書き続けている。アンチ・センチメンタ…

氷野深霧(ヒノミギリ)

海の向こうの幻想文学に根ざし、日常に潜むあちら側を書き続けている。アンチ・センチメンタリズム、不条理でも無機質で、陰気ではなく、むしろ陽気に、寓意的かつ普遍的な、私小説ではない詩小説を書いてゆきたい。

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  • 有料マガジン 日仏対訳「水の迷宮」

    小説「水の迷宮」全5章の日仏対訳版です。まとめてマガジンとして購入いただくとトータル半額となり、もれなくフランス語(翻訳者Rudy BLANCHOT)が付いて来ます!日本語のみ、またはフランス語のみ必要な方は、どうぞバラ売りをご利用下さいませ。

  • 小説

    過去、現在、未来これから書く小説をご紹介していきます。より古いものは、冴生いずみ名義で以下のサイトでも読むことが出来ます。 http://tranquilizer.biz/self/novel-m.html

  • こんな映画を観た

  • こんな本を読んだ

    趣味嗜好に極めて偏りのある私が読んだ本について書いていきます。

  • 別の扉

    日々の生活のために商業的に書いたり、依頼されたりしている仕事の紹介と備忘録など。

最近の記事

カルト味の強いDUNE

博多でも上映されること、しかも本日(8/2)公開であることを昨晩夜中に知り、さらに毎日1回くらいしか単館上映されず、時間帯もまちまちという、なかなかのスケジュールで、もうこれは今日行くしかないでしょうということで、デヴィッド・リンチ監督の84年作「デューン 砂の惑星」4Kリマスター版を観にいそいそと出掛けた。 当時、劇場で見そびれていたため残念でならなかったものの、心ならずも不評を買っていたので、それを見れなかったことの慰めにしたりしていたが、最近ヴィルヌーブ監督の新しいD

    • 軽妙洒脱な本

      普段はあまり読まない類の、軽く読み流せるものを手に取った。ラブコメほどではないが、多少のユーモアもあり、映画化しやすい若干ミステリ仕立ての恋愛もの。帯にもしっかり「大人のためのおとぎ話」とある。シャラランと魔法の杖を振る効果音さえ耳に聞こえて来そうだ。 書店に見ず知らずの五十代くらいの男性客が『可能性のノスタルジー』はありますか? とたずねて来るくだりが、やはり特に効いていた。詩人ペソアに惹かれ探究し続けることになるアントニオ・タブッキ作品の一つ。書店主である主人公ローラン

      • 感知する本

        Jon Fosse(ヨン・フォッセ)と言って、どのくらい聞き馴染みがあるだろうか? 私はやはり、2023年ノーベル文学賞発表の際、ながらで聞いていたラジオから流れて来たニュースで聞きかじったのが最初だ。  1959年9月29日、ノルウェー西部ハウゲスン生まれ。同国のベルゲン大で哲学と比較文学を学び、83年小説『赤、黒』で作家デビュー。詩や児童文学なども手掛け、90年代に本劇曲『だれか、 来る』を発表。世界的な劇作家としての地位を確立し、「欧州で最も多く上演された現代劇作家」

        • 不穏な本

          アンナ・カヴァンの亡くなる前年の遺作 Ice(1967)『氷』。約四半世紀ぶり(2008)に復刊し単行本化され、“忘れられた作家”は不死鳥のごとく甦り、さらに、ちくま文庫より再復刊(2015)の機会を得て、今21世紀にこそ注目に価すると、まるで地球の終末を予見するかのようなビジョンに再発見・高評価の動きを見せているという。ようやく時代が追いついた感ひとしお、作家の最大最良の理解者である翻訳者・編集者・紹介者の喜びが大いに伝わって来る作品と言える。 まさに現代、目下いよいよ危

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          37本

        記事

          こみあげる本

          The Gifts of the Body (1994) 『体の贈り物』連作短篇(本書)は、2001年に当初雑誌始動でマガジンハウスから刊行され、2004年に新潮より文庫化。2020年にはその版を5刷重ねている。ほとんど無名の海外文学作家が雑誌にいきなり周年記念号などの特集で起用登場することは珍しく、それは一重に高い信頼と人気を集める日本においてはもはや別格の翻訳家、柴田元幸氏の審美眼と熱量に負うところは多い。 淡々とした情景描写と簡単な会話のみで書き進められていく、書き過

          既視感のある本

          1924年カフカがこの世を去り、奇しくも安部公房が生を受けた。カフカ没後100年、安部公房生誕100年にあたる今年2024年、その4月に、あのポール・オースターが亡くなった。カフカの魂は何度も衝撃と共に姿形を変え国境を越えてこの世界に現れる。 The Invention of Solitude (1982) 『孤独の発明』の出現。その言葉、表現に私たちは打ちのめされた。カフカの再来と騒がれ、アメリカ文壇はもちろん、海を越え、本人が望むか否かに関わらず、いわゆるニューヨーク三

          物理脳に触れる本

          1905年、26歳のアインシュタインがまさに次々と論文を発表した輝かしい年、その「時間」の概念に取り憑かれていた彼が見たであろう30通りの時間軸の異なる不可思議な夢。 夜明け6時あたりのプロローグから始まり幕間の間奏寸劇のように挿まれる、ほっと現実に戻る親友ベッソーとのひと時からなるインタールード、そして出勤時間を迎える午前8時頃のエピローグで幕を閉じる。 実際アインシュタインが勤務していたというベルンのスイス特許局が舞台。徹夜明けなのか、たった2時間の間に約2ヶ月半もの

          夢もの本

          イタロ・カルヴィーノ、ウンベルト・エーコと並んで、20世紀イタリアを代表する作家であるアントニオ・タブッキの『夢のなかの夢』を読んだ。2012年3月25日の朝、リスボンでその68年と6ヵ月の生涯を閉じたと訳者の言にあるから、ほんの十数年前まで同じこの時代に息をしものを書いていたわけで、どうもその作風からか偉大さからか現代ではなく、もっと以前に生きた作家のように感じられてならない。 愛娘から贈られたという手帖に、20の夢を綴った連作断章短篇から成る本書、Antonio Tab

          再生

          真実とは?

          偏向報道によらない正しい情報の希少価値を知る。どちら側からも公平に聞くことが大事と悠長に構える暇さえないほど、時は一刻を争う惨憺たる状況。

          視点が思考の始点なり

          胸が痛い、思わず手を当てる 音が割れるように身体に響き渡る、 体内からブワッと破裂するような感覚  耳がキーンと鳴る、無音、ホワイトアウト 息を飲む、秒読みで原爆を浴びる擬似体験  実際はこんなに甘くないと知りつつも ワナワナと震えが止まらない ドーンと重い、疲労感に包まれる 知は罪と識る 人は賢くなるほど愚かになってゆく矛盾 賞賛と許しは与えられた側のものではなく、 与える側が恩恵または容赦を受けるもの。 観賞直後、脳がうず巻く、 ヒンドゥー教の神「クリシュナ」の言葉

          視点が思考の始点なり

          味方かどうかは見方次第

          今SFを撮らせたら随一と称賛されるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が手掛けた、昔から映画化が難しいと言われ続けている、待望の「DUNE/デューン砂の惑星」part2を雨の中ひとり見に行った。コロナ禍に加えハリウッドのストもあり、約半年ほど公開が遅れ、なかなか出掛けてまで見たい映画も少なかったので、久々期待を裏切らない内容で安堵した。エンタメや商業性を超越する思想と世界観、美術・デザイン性で続編が限りなく続こうとも格調高く、牽引して行って欲しい。 モノクロームで映し出される敵陣ハルコ

          味方かどうかは見方次第

          癖の強い名翻訳本

          驚くばかりの博識で知られたというマルセル・シュオッブ(1869〜1905/享年37歳)は十九世紀末のフランスの作家。 礒崎純一氏の解題によると、シュオッブは死後、とりわけ戦後(第二次世界大戦後)の長らくは、ほとんど忘れ去られていた存在。それが、今世紀のあたま頃から実に目覚ましい復活を遂げたのだという。 目立たないながらも、大正期からこの名文家の誉れ高いシュオッブの作品には、日本の名だたる仏文学者や詩人、作家たちが、腕をふるってまさに「彫心縷骨」、洗練の極みを凝らして翻訳を

          奇跡の退院

          先月の中旬、脳梗塞で倒れた92歳の母が約3週間でめでたく退院となった。具合が悪くなるのは、決まって土日だったり、夜中から朝方だったり、急で突然なことが多い。 今回も金曜日までピンピンしていて、本人も食欲もあり、私に豆乳鍋まで作ってくれていて、翌日終日起き上がれないのがまるで嘘のようだった。 日曜の朝、また、起きようと頭を動かしただけで何も食べていないのに吐き気があり、身体の平衡感覚が無く動きが止まってしまう、本人は平気だと言い張るが、どうも怪しい普通じゃない、兄と私でなんとか

          ギフト/通販「かぜとゆき」会報誌

          今年1月中旬くらいに初めて企画ご依頼いただいていた、新しい通販「かぜとゆき」の会報誌(vol.2)が運営会社 大和心の編集部より届きました。暮らし特集ページ内で「暮らしを豊かにする実用名品」について、ギフトコーディネーター冨田いずみとして取材いただいた内容が写真やイメージイラストと共に掲載されています。

          ギフト/通販「かぜとゆき」会報誌

          神性ゴジラ

          見ようか見まいか悩んでいたけれど、 ようやく8日(金)の夕方ひとりで出掛けた。 前日に以下の対談を見て、やはり観ておこうかという気になったので、養老先生の言う、能における「祟り神」としてのゴジラを自分も感じられるか見てみたくなった。 山崎監督は核や戦争、天災などそういった「禍」の象徴としてゴジラを描くため、あえて終戦直後に時代設定したとのこと、良心の呵責に自分をせめ病む特攻青年の幻が肥大化し「怪物」となって眼前に現れる。非常に日本的な精神性が流れていて、静的な美しさが漂って

          植物に学ぶ本

          思考・嗜好とは不思議なもので、単に表紙やタイトルに惹かれて手にしたものでも、書かれている内容が前後に読むものとびっくりするほどリンクしていることが多い。それは私が学者の本を好んで選ぶことに起因するせいかも知れないが、全く前知識なく、初めて訪れた書店やWEBサイトでも起こり得るので面白い。 この新しい出版社「生きのびるブックス」から2022年11月に初版発行され、2023年2月既に第4刷りとなる藤原辰史の『植物考』。カバーを飾る美しい強さのみなぎる薔薇は自宅に着いてから石内都