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SSとSSもどき

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「ショートショート」とそのような断章など (2022.10 期間限定クリエイターフェス運営参加)
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SS『引き継いだ翼』

SS『引き継いだ翼』

有栖さんは、とても小柄で華奢な女の子で、大きな瞳がいつもキラキラ光る笑顔が素敵で、心の綺麗さが透けて見えるように美しく、しかも頭が良く控えめで、まったく、非の打ち所の無い人だった。いや、こんなに完璧な人が普通にいるわけはないし、まして、自分の一番の友達だなんて、信じられないことだった。実際、やはり僕らと同じでないことは、ようやく最近わかったのだけれど。

好きなものは恐竜と椅子だって、みんなの前で

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SS『クリスマス・イブ』

SS『クリスマス・イブ』

クリスチャンでもないのに
クリスマス・イブに生まれた私は
名前も聖書の創世記から取ったのだと
名づけ親の父はとにかくフィクションが嫌いで、ほとんどの小説は作り物だと言って退け、せいぜい実在者の伝記か事実に基づいた歴史ものしか読まない人だった。
それなのに、何故、天地創造の話は
肯定できたのだろう。神話は別だったのか。
そもそも、何故、聖書が家に私が生まれる前から普通に本棚にあったのか、今思えば不思

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SS『嫌いになれないパリ』

SS『嫌いになれないパリ』

はじめは1週間足らず
絵葉書どおり、憧れどおり、裏切らない景色
凱旋門、シャンゼリゼ、エッフェル塔
お気に入りはサン・ジェルマン・デ・プレ
日除けのあるカフェやグラシエ、ショコラティエ、傘や香水、手袋の、とにかく専門店が
素晴らしい。ベッドリネン類を扱う店や惣菜屋ですら美しく、飾り方や見せ方を知っていて暮らしの中にアートが在る、いやアートの中に暮らしが在る。
忽然と現れては消えるメリーゴーランドや

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SS『普遍の本屋』

SS『普遍の本屋』

大好きだった本屋の跡地に
図らずも新しい本屋が生まれて
また本屋になっただけでも嬉しいのに
大好きな本がたくさん仕入れられていて
他には無いような意味のある本棚の仕上がりに涙がこぼれるほど嬉しかった。
くだらない五十音順や版元や本の大きさ
などでは決してない、作家や年代別、テーマ
色や言葉や思想もしくはデザインで分類され、効率とは無縁の高い嗜好性・関連性に貫かれていて、大手でも中堅でも個人店舗のよ

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SS『着物は沼る』

SS『着物は沼る』

約2ヶ月で1000万くらいの着物を買った。
正確には、といっても厳密ではないけれど、
約20枚の着物と約10本の帯
それに和装はそもそも付属品や小物が多いから、すべて出来合いのものでなく誂えていくと大変なことになる。
襦袢やコートや草履にバッグ
半襟や帯揚げ、帯締め、足袋とそれぞれに
こだわり出したら、本当に身上を潰す。

フォーマルな正装系とカジュアルな普段着系
また生地や裏地やその染めや織り 

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SS『蝶紋』

SS『蝶紋』

うちの女紋は揚羽蝶と言われ
着物好きでもあり、
正式な染め抜き紋にしたり、染め入れたり、
また、刺繍で縫いの洒落紋にしたり、
さらには、反物を訪問着仕立てにして
職人さんに直に描いてもらい
雪輪に入れたり糸輪の中から覗かせてみたり、お茶目な対い蝶にしたり、
愛嬌たっぷり、着道楽の尽きない遊び
まるで擬態でもするような松葉や桜、扇に
なりすました蝶もいて、まさしく変幻自在。

西洋絵画や神話、文学に

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SS『記憶の欠片』

SS『記憶の欠片』

     ー旧 軽井沢プリンスホテル 南館ー

その人も謎めいた人だった。
最初は着流し姿で、みんなには書道の先生だと言っていたけれども、私は違うような気がしていた。2度目にお会いした時は、明るいブルーのジャケットを着ていた。細長い箱を小脇に抱えていて、
「これ、うちの先生が好きだったんだよ、薔薇。ここのしか描かなくてね」と
大層立派なBOXフラワーをいただいた。

いつも、その人は少し疲れたよ

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SS『日常の非日常』

SS『日常の非日常』

ある日、雲が遊びに来ていた。
なんか、可愛い。
人でなくたって、第一印象は大事だ。
怖さもある?それは捉え方次第、
だから、心はいつも柔軟でいたい。
何故?とか有り得ないとか騒ぎたくない。
性急に質問ぜめにしたり、
勝手に答えを出したりしたくない。
だって、素敵だから。
そっと、しておきたい。
すぐに消えてしまうのかも知れないし。
ちょっとだけでも、一緒に居てみたいから。
ほんの気まぐれで、もう、

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SS『バレエダンサー』

SS『バレエダンサー』

「愛と哀しみのボレロ」という映画の中で
踊るジョルジュ・ドンを見て
いったい、この類い稀な美しい
神がかったバレエダンサーは
何者なんだろうと強烈な印象が残り
エイズで命を落とす前に一度だけ
辛うじて直に来日舞台を見ることができて
幸いだった。

そんなことだったから「ボレロ」は
後にも先にも彼にこそふさわしく、
彼のための演目だと信じ切っていて、
他のダンサーが踊るのを見ても
あまり、しっくりと

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SS『バラの村ジェルブロワ』

SS『バラの村ジェルブロワ』

フランスはブローニュ暮らしの日本人ご夫妻とはもう20年以上のお付き合いで、奥様にフランス語を習い続けている。長いだけで一向に上達しない。

5度目のパリは2017年の6月、その時期が日本と違ってバラの見頃だと聞いて、「フランスで最も美しいバラの村」と呼ばれているジェルブロワへ、ただ、バラを眺めるだけの日帰り旅行を計画し、バガテル公園とリニューアルされたマルメゾン城の庭園もあわせて、ひたすらバラを愛

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SS『能のように』

SS『能のように』

当代九世の父で人間国宝の八世 観世銕之丞(銕之亟 静雪)の『羽衣』が忘れられない。

能に詳しいわけではなく、これまで誰かの誘いで能楽堂や薪能など5回ほど観賞した程度にすぎない。けれど、その銕仙会の青山能は、演目のあとに解説もあるとのことで学べる場でもあり、自ら行ってみたいと素直に思った。

いつもそのスクエアな建物の前を通るたび、木目がセメントに浮かび上がっていて、コンクリート打ちっ放しでありな

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SS『箱根七湯』

SS『箱根七湯』

箱根七湯(湯本・塔之沢・堂ヶ島・宮ノ下・底倉・木賀・芦之湯)すべて制覇したい、なんて思って、よく小旅行に出た。ほんとは、もっと、倍以上あるのだとか。

旅館の名前には景色があって、経営によってその名まで変わると、やはり歴史が絶たれ、かつての姿や見えなかったもてなしまでも、悲しいかな消えてしまう。営む方ばかりでなく、訪れる方にも何かすっかりと意識が変わる。だから、つくづく宿は人だと思う。
そこに集う

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SS『映画三昧』

SS『映画三昧』

ゴダールが亡くなったと、疲労困憊して
スイスでこの世から消える方を選んだと
生きている時からもう自分は過去の人さと
言っていた。インタビュアーが褒めると、
「あんなものは駄作だよ。」と言い捨てた
彼の映画『はなればなれに』が私は好きだった。

彼の人柄はひねくれていて天邪鬼そうで
難しく好きにはなれなかったけれど、
作品を観る側にとっては関係ないことだ。

フランスには良い映画監督が多い。
フラン

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SS『ホテルフリーク』

SS『ホテルフリーク』

クラシックホテル(東京ステーションホテル、ホテルニューグランド<横浜>、日光金谷ホテル、富士屋ホテル<箱根>、万平ホテル<軽井沢>、奈良ホテル、川奈ホテルなど)も新しい外資系の高級ホテルも皆、日本にあれば日本らしさをそのインテリアや調度、備品、サービスなどに絶妙に取り入れて、ホテルという洋の中に和の趣きやオリエンタルテイストをここかしこで効かせ、トータルなデザインに融合昇華し、ロイヤルカスタマーで

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