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【最近は、こんな感じ】 恋は花火みたいなこと。

上海で生活する女の子たちの日常って?
ファッション、メイク、食べもの、よく行くお店。あと、普段考えていること。悩んでいること。そして目標。
そんなあれこれを、同じ目線で聞いてみた。
@mie_shanghai

16 陸詩琪

<Profile>
陸詩琪(りく・しき)
生まれ年:1992年
出身:広東省茂名市
職業:小説家
小紅書 @不再調音的Shiqi
微博 @不再調音的Shiqi
Ins @shiqisikei

陸詩琪さんは、『瘋狂談恋愛』で
今年文壇にデビューした小説家。
恋愛小説を書く作家にとって、
恋愛って何?
憧れ物件「黒石公寓」に、
保護犬と住む彼女を訪ねてみた。


――「黒石公寓」(※)に住んでいるんですね。
陸詩琪 3年前から仕事場として使っています。縁あって、ですね。もともと借り手が見つかっていたと聞いていたのですが、あきらめられなくて確認に来たら契約できたんです。もうすぐ築100年だそうです。下の階には有名なバイオリン修理師、上海交響楽団の指揮者、チェリストなども。昔からここに住んでいる人も多いです。

※:復興中路エリアを代表する文化財建築(1924年竣工)。現在もアパートとして使われている。建物を囲む『黒石M+』には、カフェやホテル、話題のレストランが集まっている。

――犬を飼っているんですね。
陸詩琪 名前は「にに」。数字の「22」です。生まれたばかりの状態で路上に捨てられていたそうです。私、道枝駿佑が大好きなのですが、ちょっと似てますよね。それがうれしくて。

――学生時代は日本に留学していたとのこと。
陸詩琪 はい。立命館大学で行動文化情報学を専攻していました。特に調べず、日本文学や歴史ではないことを勉強しようと思って専攻したのですが、いざ入ってみたら先輩や先生にとてもめぐまれた。研究していたのは、中国の出版業界の現状についてです。1年だけの交換留学だったのですが、その1年で単位を全部とって、論文2本を書いて……、という生活が、貴重な経験になったと思います。この生活があったから本を書き上げることができた。

“試してみたらいいと思う”

――1作目の小説『瘋狂談恋愛』(上海文芸出版社)を書き始めたきっかけを教えてください。
陸詩琪 2020年から3年かけて書きました。コロナがあって、当時参加していた小説の講座なども中止になって、会いたい人にも会えない状況に陥ってしまいました。心の叫びとしてまず思ったことが「あの人に会いたい! 恋したい! 何があっても! 狂ったように恋したい!」だったんです。

ペンネームは西藤(サイタン)※広東語の発音

――詩琪さんにとって、恋とは何ですか?
陸詩琪 「雰囲気」です。好きな人がいれば、時間も空間もまるで別の世界にいる感じ。そして、ドキドキする人って自分へのプレゼントみたいなもの。恋をしない長いお休み期間もありましたが、その間は「私、透明人間なのかも」と思うほど何もない日々だった。あと、恋は結婚という実につながらなくてもいいと思う。まさに恋なので、花火のようなもの。花火は消えていく。だからこそ捕まえなくては。花火みたいな体験だった。そういう相手に出会うだけで十分に幸せだと思うんです。

――中国の20代くらいの子としゃべっていると、恋愛は苦しいからしないという声を聞くことがあります。
陸詩琪 本を書こうと思ったときも、そういう子たちに何かを喚起できたらと思いました。苦しみの反面が幸せで、愛があるからこそ苦しむ。でも、愛があるから苦しいのではなくて、もともとの人生にも苦しいことがいっぱいあります。で、愛も苦しみも自分のエゴです。でも、それを感じると、「私は生きている」と思うことができる。苦しみも自分の一部分だからです。それと、恋愛は儚くて不確定なもので、そこに落ちるのはとても不安。だからこそ魅力的。つかんでみるべきなのでは、と思います。毎日順調だと、何の思い出もない日々になってしまいます。スマホもあるから時間が過ぎるのがすごく速い。でも、人生を無駄にしている気がしないですか。

――なるほど……。
陸詩琪 だから、恋愛の甘さや辛さをみんな試してみたらいいのにな、と思うんです。

――ところで、小説家になるのは中国ではすごく難しいですよね。それだけでもすごいと思います。
陸詩琪 難しいです。宣伝して、売れないと(笑)。

――難しいですか……。
陸詩琪 日本のような文学賞もなく、新人の発掘をほとんどやっていないのでとても難しいです。出版社に持ち込みをしても、「新人の作品は扱いません」と言われてしまう。投稿できる機会もないし、出版社側は作品の内容よりも作家のSNSのフォロワー数を基準にしたりする。しかも、いま出版されている文学系の本の80%が外国のタイトル。売れる保証がありますから。残りの20%はイデオロギー色の強いものや、学界に推されたもの、賞を獲る前提になっているもの。でも、才能があって頑張っている若い作家はたくさんいます。そういう人のデビューを一般の中国人は熱望していると思います。

――詩琪さんの読者はどんな人が多いですか?
陸詩琪 20〜30歳くらいの女性が多いです。たまに男性もいます。若い人は本を読まなくなっているとも言われますが、読者とのつながりが増えるにつれて読書好きは多いと感じ始めています。読む人は読むし、読まない人は読まないし。

サイン会やトークイベントなどにも参加している

“癒せるような作品を”

――では、日常生活について。毎日どんなことをしていますか?
陸詩琪 朝起きて字の練習と、日本語の勉強も兼ねて日本のニュースチェック。世界のことがわからなくなるからです。スーダンのニュースなんかは、調べなければわからないままだった。その後、朝8時に「にに」の散歩。学生時代、京都の岡崎公園の『蔦屋書店』でアルバイトをしていたのですが、その近くを犬を連れて散歩していたおじさんがいました。そんなことを思い出しながら、私もそのおじさんと同じような生活ができるようになったんだな、とか思いながら。その後は仕事。書店や出版社とのやりとりです。私は自分の意見が多いほうなので、やりとりには時間がかかりますね。

――ファッションにこだわりはありますか?
陸詩琪 あります。なので、あまりほしいと思うものがない。父が衣装関係の業者だったので、デザインと素材を見る目はあると思います。買い物は海外ですることが多い。でもこの3年間行けていないので、今日のワンピースも4年くらい前に買ったものです。もの自体が特別であればブランドにはこだわりません。

――コスメはこだわっていそう(自宅のテーブルにスキンケア系がいっぱい)。
陸詩琪 スキンケアは『SKⅡ』、洗顔とクレンジングは『クレ・ド・ポーボーテ』。あとは、この『資生堂』のBAUMが最近のお気に入りです。

――お部屋の話に戻りますが、テラスも広いし(200平米)改めていい物件だな、と。
陸詩琪 夕方の風景が特にお気に入りです。なので、今日の取材も15:30からにしてもらったんですよ。

――チェロが弾けるんですね。
陸詩琪 テラスでたまに練習しています。チェロは学生時代に少しやっていたのですが、先生がすごく怖かったのでやめてしまった。その後、このエリア(音大や音楽ホールが近い)に住み始めてから練習を再開しました。近所に楽器屋さんがあって、そこのおばあさんが「買わなくていいから、1か月やってみたら?  気に入ったら購入を検討すればいいから」とチェロを貸してくれたんです。あれから2年経ちます。やや高いチェロだったので、いまも毎月のローンをそのおばあさんに支払い中。払いに行くたびに「頑張ってね」と言われています。でも、過去挫折したことを再開するのって、有意義だな、と。

――次回作の準備も始めているとのこと。
陸詩琪 上海について書きたいです。私は、実は小説家の仕事をしながら副業もしているのですが、そこで感じた上海のあれこれや、仕事をやりながら感じる小説家としてのアイデンティティを表現できたら。じわじわとした癒しを感じてもらえるような作品にしたい。ドラマ化されたらいいな。
(取材日:2023年4月29日 撮影地:黒石公寓)


<彼女のお勧め>

『WULU Wine&Bistro』(上海市徐匯区汾陽路77号-3)
☆家から近いのでよく行く。中華と洋食のフュージョン。あまり知られていないので静か。

『PAPAYA BAR』(上海市静安区富民路185号)
☆ユニークなオリジナルカクテルがたくさんあるバー。お気に入りは「富士山」。

『月球珈琲roof』(上海市徐匯区汾陽路64弄1号2階)
☆一戸建てのカフェ。3階まであって、フロアごとにインテリアが異なるので、好きな部屋でぼーっとできる。

『無窮珈琲館』(上海市徐匯区衡山路331号)
☆小さなカフェ。たまに閉まっていることがある。ここのダーティーコーヒーにハマり中。


text
萩原晶子
フリーライター。上海にて2007年頃よりガイドブック、ファッション誌、機内誌、ウェブなどの記事を手がけている。
カルチャー誌『Ketchup.』(上海と東京で販売)など。
ins:@hagiwara_akiko_
微博:Akiko06

photo
阿部ちづる
2006年にフォトグラファーとして独立。ファッション誌、ビューティー誌、週刊誌、写真誌等のグラビア、ポートレート写真を撮影。アイドルグループやグラビアモデルからのアーティスト写真撮影で指名されることも多く、女の子の新鮮な表情を切り取る。
佐々木希『ささきき』(集英社)、武田玲奈『Rena』(集英社)ほか多数。
ins:@chizuru0821
https://lov-able.com/photographer/chizuru-abe

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