【最近は、こんな感じ】 日本画に一目惚れしたから。
上海で生活する女の子たちの日常って?
ファッション、メイク、食べもの、よく行くお店。あと、普段考えていること。悩んでいること。そして目標。
そんなあれこれを、同じ目線で聞いてみた。
@mie_shanghai
36 Eiko
夏休みの番外編。
日本に留学中のEikoさんと、
中目黒を散歩しながら話を聞いた。
これまでに、日本が好きと言ってくれる人は
上海でたくさん取材したけど、
実際に住んでいるEikoさんは、どう?
――今年の春から日本の大学に通ってるんですよね。
Eiko はい。女子美術大学で国際芸術文化学を専攻しています。日本に来たのは2022年で、受験に向けて予備校に通っていました。
――女子美、いいなぁ。美大の予備校は大変ではなかったですか?
Eiko 厳しかったけど、すごく勉強になりました。最初は留学生向けの予備校に行きましたが、一回日本人向けの予備校にも行ってみて、そっちの方が自分に向いてると思ってたんですね。何というか、先生がもっと真剣に教えてくれるし、学生も闘志満々で励まされました。
――日本の美大を目指す中国人は増えていると聞きます。
Eiko 今年は去年の2倍ほどの人数だったそうで、来年はもっと増えるという噂も。中国の美大は学科の点数をものすごく求められますが、日本は語学はもちろん、画力と個性の方を重視してますね。アートを学ぶ環境の良さもあると思います。でも、目指せば誰でもというわけではなくて、たとえば多摩美の油画専攻は、受験した留学生55人中、受かったのは2人だったそうです。私の学部は中国人は3人です。
――Eikoさんは何で日本に留学しようと思ったんですか?
Eiko 日本画に一目惚れしてしまったからです。最初は日本画を専攻しようと思っていたんですが、文化や背景を研究する方が楽しくなってしまって。
“自然のなかで育ったから”
――日本画。
Eiko はい。この近く、中目黒に『郷さくら美術館』っていう日本画の美術館があって、そこに私が一目惚れした作品があり、偶然にも運命のように出会いました。牧進の桜の絵です。
――日本画、きちんと鑑賞したことないかもしれない……。
Eiko 岩絵具やにかわで描くんですよ。原料が鉱物だったり、動物の皮だったり、全部自然由来のものを使っていて、作品が全部生きてるように見えるんです。しかもとても色鮮やか。絵の具が石の粒なので、厚みを出したりできるのもおもしろい。あと、何回もベースを塗るので、下の色が薄々見えるようで見えないようで、とてもおもしろいです。
――そうなんですね。美術館、行ってみたいです。
Eiko あと、私が日本画に魅力を感じるのは雲南省出身だからかもしれません。『もののけ姫』の中のような、大自然のなかで育ったから、自然と触れ合えるとうれしくなりますし、生きているっていう実感が湧きます。日本画からは、古の力も感じられます。
――おもしろそう。将来は本を書く人とか、キュレーターとか。
Eiko まだ全然決めてないです(笑)。あと、古いものも好きで、時間があれば神保町の古本街へ画集を観に行ったりしています。着物の帯も好き。世界でいちばんきれいなんじゃないかと思う。唯一無二のものだし。日本に来た姉(※2022年に取材したMikoさん)と昨日まで京都に行っていたんですが、自分のコレクション用の帯をいろいろ見てきました。好きな柄を見つけると運命を感じますね。
――服飾系はお姉さんも詳しいですよね。
Eiko そうですね。あと、最近大学で日本舞踊の授業があって。課題で、浴衣を着て日本舞踊を踊るというのがおもしろかったです。猿若流の先生が教えてくれました。特別な体験だと思いました。
――こういう授業があるのか……。ところで、Eikoさんは高校生まで普通に昆明で暮らしていたんですよね。東京での生活はどうですか?
Eiko 日本の街や建物がきれいなので、住んでいて心地いいです。でも、生活情報は『小紅書』がいちばん詳しい(笑)。大久保とか池袋の中華もよく食べに行きます。ちゃんとした雲南料理はまだ見つけてないですね。雲南名物の過橋米線のお店はあるけど、雲南人はあんまり食べに行かないと思う(笑)。やっぱり、実家で食べる土鶏米線と雲南の巻粉がいちばんおいしいな。親戚に、すごくこだわって育てている鶏農家の人がいて、その土鶏が本当においしいんですよ。
“イベントや展覧会の企画をやりたい”
――では、Eikoさんが東京で「出身は雲南省」って言ったとき、まわりの反応はどうですか?
Eiko 誰も雲南省を知らない(笑)。なので、「南のほう。タイやベトナムの近くです」って言う。同郷の人もまわりにいなくて、ほとんど東北出身の人ですね。いっしょに食事をすると南北の違いがわかりますよ。彼らは火鍋を食べるときに花生醤(ピーナッツだれ)を使うんですけど。あれ私は無理なんです(笑)。火鍋は四川風の油だれこそ本場の味だと思います。
――日本人の友達と出かけたりすることがありますか?
Eiko ありますけど、日本語はそんなにうまくないから、自分の気持ちをうまく伝えられない場合があります。でも、いまは中国人の観光客がいっぱいいるから中国語の勉強をしてる人は多いと感じますね。
――アルバイトはしていますか?
Eiko 銀座9丁目の焼肉屋さんでバイトしています。日本の焼肉店なんですが、中国で評判が良いらしくて、お客さんの9割がほとんど中国人なんです。
――良さそう。今度行きますね。では今後、日本でやってみたいことはありますか?
Eiko イベントや展覧会の企画をやってみたいです。あとは岩絵も描いているので、作品を展覧会に出してみたい。この前参加した日本画ゼミの終了展では、魚を描いた作品を出展しました。タイトルは『10:25』。この展覧会のテーマは『対話』で、それについて思い浮かべた言葉は「距離」と「嘘」です。日本に来たばかりでまだ日本語がうまくなかったとき、ほかの人との壁を感じたことがインスピレーションになりました。異文化間の交流は時々水槽のなかの金魚と話すみたいに、透明な壁が感じれると思ってたんですよね。
(取材日:2024年8月1日 撮影地:東京・中目黒)
<彼女のお勧め> ※東京編
『Tandoor master シルクロード・ウイグル料理』(東京都新宿区新宿四谷坂町10-11)
☆すごく大きい羊の串焼きが380円。安くて、こんなおいしい羊肉は中国でも食べたことがないと思った。
『何鮮菇』(東京都台東区上野4-4-5上野C-Roadビル3階)
☆東京でおいしい雲南料理店はまだ見つけていないけど、ここのきのこ鍋は雲南の味に近いと思う。
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萩原晶子
フリーライター。上海にて2007年頃よりガイドブック、ファッション誌、機内誌、ウェブなどの記事を手がけている。カルチャー誌『ketchup.』(上海と東京で販売)など。
※2024年10月31日まで、『広島市現代美術館』内のpop-up『奥深Zine 奥深書店』にて『ketchup.』を販売しています。
ins:@hagiwara_akiko_
微博:Akiko06
photo
阿部ちづる
2006年にフォトグラファーとして独立。ファッション誌、ビューティー誌、週刊誌、写真誌等のグラビア、ポートレート写真を撮影。アイドルグループやグラビアモデルからのアーティスト写真撮影で指名されることも多く、女の子の新鮮な表情を切り取る。
佐々木希『ささきき』(集英社)、武田玲奈『Rena』(集英社)ほか多数。
ins:@chizuru0821
https://lov-able.com/photographer/chizuru-abe
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