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秋の夜空に恋をして_7薄れていく記憶

相変わらず、あの日を最後に彗斗からの連絡が来ることはなく、
七々星はひたすらに仕事に打ち込み、
必死になって彗斗との思い出を、彼との出会いを、
彼と過ごした時間を、彼がくれた彩りも温もりも、
全部全部忘れようと努めていた。
日常の彩りはあせて、
だんだんと温もりが恋しくなることもなくなっていくーー

あれから何度もひとりっきりの夜を過ごし、
ついに世間はクリスマスを迎えた。

星蘭にはサンタさんがやって来て、
欲しかったプレゼントをもらって大はしゃぎだった。
私にはサンタさんは来てくれなかったけれど、
毎晩月を眺めることをやめなかったからか、
不思議とひとりっきりのクリスマスだけど
ひとりぼっちじゃない気がした。

彼との出会いを、
彼と過ごした時間を、
彼がくれた彩りも温もりも、
ぜんぶぜんぶ肯定するために、
記憶に残しておくために、
七々星は毎晩月を見上げ続けるのだった。

こんなことをしても無駄だったのかもしれない。
ただの自己満足だったのかもしれない。
けれど、月を眺めているだけで、月はどこか懐かしい気持ちにしてくれた。
ひとりぼっちじゃないって思わせてくれた。
だから七々星は毎晩月を見上げ続けるのだった。





ーあの日、
彗斗に何があったのだろう。
そう思い返さない日は1日たりともなかった。

だけど、過ぎ行く時間が
だんだんと彼を肯定したい気持ちや彼と過ごした記憶を
消し始めていた。

忘れたくないのに、
忘れちゃいけないのに、
過ぎていく時間がだんだんと七々星を不安にした。

世間はクリスマスを終えて、
すぐにやって来る新しい年に希望や愛やたくさんの夢を馳せている。
そんな世間の雰囲気が七々星の不安を一層大きくした。



(もう、彼の中に私はきっといない...)



世間の雰囲気と過ぎ行く時間が七々星を不安にして
彼を肯定したい気持ちや彼と過ごした記憶を消していく。

それでも、
月を眺めていると、なんだか懐かしい感じがして
毎晩月を眺めることだけはやめなかった。



たしかあの丘の上であなたと一緒に月を見上げた。
それに、あの丘の上で見つけた「春を呼ぶ」って言われてる花は、
ふたりの大好きな花。



どんどんと消えていく記憶とともに、
ふといつかの記憶が頭の中に鮮明に思い出された。
あなたは思い出してくれるだろうか。



七々星は、
月を見上げると懐かしい気持ちになる理由が少しだけわかったのだった。







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