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靴屋さんの話

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#コラム

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優れた店は客を教育すると言う。自分も、ひとつの店に長く世話になっているうちに知識が少しずつ身に着いてきたタイプの人間なので、それは体感でわかっている……つもりである。

今日は靴屋で、新しいスニーカーを買った。店主が出てきて、以前買ったものの具合を聞いてくれる。
「前のはどうでした?」
「履きやすかったです……けど、紐周りが壊れちゃったので」
「紐周りが壊れた??靴底が傷むっていうのなら聞きますけ

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ランニングシューズが普段使いによかったという話

この間、少し高い買い物をした。靴屋に勧められるまま購入したランニングシューズ。これが思いの外はきやすかった。走る速度も速くなるけれど、それ以上に脚への負担が減るので、単純に疲れない。これはいい、ということで、ついに普段の外出のときにも履くようになった。

すると不思議なことが起こる。前と同じ距離を歩いているのに、それが短く感じるのだ。仮に家からスーパーまでの距離が500mだとして、同じ道を歩いてい

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いい仕事をする人

「よく歩かれてるんですね」靴屋は言った。
「中敷きが潰れてましたよ」
修理に出した靴を取りに行ったらそうコメントされて、「ああ、あの人たちにしてみれば、靴を見ればそれくらいわかるんだな」と思う。実際、毎日1、2時間は歩いている。

その靴屋は、客の顔をほとんど見ていない。だから、自分が店に入って行ったときも誰だか理解されていなくて、「靴を引き取るときに出してください」と言われた、靴のデータと自分の

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「本当のお金持ち」について

「本当の金持ちっていうのは、メンテナンスに金がかけられるんだよ」と父が言う。そうかもしれない。

この間、靴を修理してもらいに靴屋に行った。店では靴職人が年配のご夫婦と
「いい靴ですね、何年はいておられます?」
「もう何十年も」
「まだ履けますよ、いい靴です、これ」
という会話を交わしていた。ご夫婦は、御年80と言ったところだろうか。あの歳で何十年ものの靴を持っている人は、若い頃にそれだけの物を買

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「お客様」になって考えること

お世話になっている靴屋の主人は、年の頃は四十代、接客業を続けている人らしく、片時も崩れない笑顔を誇る男性である。この人が面白い。

例えば、初めて紐靴を履くと決めたとき。彼は
「本当にいいですか~?紐靴、メンドくさいですよ?」
と、こちらの決心が揺るぎそうな質問をしてくる。ここで「メンドくさいから止めます」と答えるか否かで、意志を試されるのを感じた。そこには「どうせ靴を履くなら納得して履いてほしい

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