最高のサービス

優れた店は客を教育すると言う。自分も、ひとつの店に長く世話になっているうちに知識が少しずつ身に着いてきたタイプの人間なので、それは体感でわかっている……つもりである。

今日は靴屋で、新しいスニーカーを買った。店主が出てきて、以前買ったものの具合を聞いてくれる。
「前のはどうでした?」
「履きやすかったです……けど、紐周りが壊れちゃったので」
「紐周りが壊れた??靴底が傷むっていうのなら聞きますけどね──」
靴屋さんの顔は一瞬、それはどんな故障だ、と言いたげになり、それからすぐにポーカーフェイスに持ち直す。
「そうですか。故障したら、とりあえず持ってきてください。僕たちでできることはなんとかしますから」

それに、と店主は続けた。
「まともに使った人のクレームっていうのは大事なんです。どんな風に壊れるかって、メーカーも知りたいですからね。持ってきてもらえば、もし直らなくても、そうやって報告できますから」
へえ、と思った。てっきりスニーカーなんていうのは、買ったら買い切りで、その後のメンテナンスなんて望めないものだと考えていたけど……。言われてみれば、改良を重ねているメーカーにとっても、靴を作る人にとっても「その製品を実際、履き潰したらどうなるのか」は関心事に決まっている。「壊れた→もう無理」という、自分の短絡的な思考回路を反省する。

こういうことは、販売している人から直に叩き込まれないと覚わらない。少なくとも自分はそうだ。器用な人なら、ネットの評判を比較して一人でなんでも買えるのかもしれないけど、自分はそうじゃない。実際に売っている人の声を聞いて、メリット・デメリットを教えてもらって、高い物はどうしてその価格になるのか聞いて、それからじゃないと安心して買い物できない。こういうアナログな人間にとって、実店舗とプロの販売員はすごく頼りになる存在だ。

自分一人で買い物をしたら、せいぜい価格とわかりやすいスペックしか目に入らないだろう。価格が手頃でデザインがよくて、あとはサイズが合っていれば……。それくらいしか検討する材料がない。どの靴なら安定性が高くて、それにどれくらいの部品が必要で、そうなった場合の妥当な値段がいくらなのか。教えてくれる人の存在は貴重だ。おかげで、靴選びがほんのちょっとうまくなった(と思う)。

「頼りになる」って、仕事する上ですごく大事なことなんだな、と当たり前の考えが浮かぶ。何かを専門とする以上は、頼られる存在でいたい。この人に訊けば大丈夫、と言われるような。きっとそれが最高のサービスなんだろう。靴屋さんからはそんなことを教えられている。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。