一人暮らしでも最期まで家で過ごせる!独居の在宅看取りについて訪問看護師が解説
「本当に一人暮らしでも在宅死できるの?」
「ペットがいても大丈夫?」
「家で死んだ後はどうなるの?」
お一人暮らしの方は、体調に不安を感じた時などにこのような疑問を持たれたこともあるのではないでしょうか。
覚悟と周囲の理解があれば、お一人暮らしでも住み慣れた自宅で最期を迎えることは可能です。
この記事では、訪問看護師として実際にお一人暮らしの方の看取りに関わらせていただいた経験を踏まえて、お一人暮らしの自宅での最期について解説します。
◆一人暮らしでも在宅看取りはできる
在宅死を選ぶ人は増えている
多死社会を迎え、お一人暮らしでも自宅で最期を迎えたいと希望する人は増えています。
厚生労働省の「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」が2017年末に実施した人口動態調査では、国民の63.5%が「自宅で最期を迎えたい」と希望しています。
自宅での死亡率は近年緩やかに上昇傾向していましたが、2018年の調査では13.7%、2020年には17%と増加は加速しています。
理由の1つには、依然コロナ禍の影響は病院や施設には残っており、面会制限がなかなかなくならないことも影響していると思われます。
今後はおひとりさまの増加により、お一人暮らしの方の在宅死も増えることが見込まれています。
在宅看取りとは?メリットは?
在宅看取りとは、様々な在宅サービスを利用しながら自然な死を迎えることと定義されます。
「在宅ホスピス」といった考え方も普及してきています。
在宅でも、痛みや苦しみを軽減して、QOL(生活の質)をできるだけ維持向上しながら、最期まで自分らしく生きたいという思いを支えます。
在宅看取りの最大のメリットは、人生の最終段階を住み慣れた自宅で自分らしく自由に過ごせる一言に尽きます。
病院や施設とは異なり、好きな人や物、ペットなどに囲まれ自由に時間を使えることは、生活を大きく変えずにこれまで大切にして生きてきたことを守れると言えるでしょう。
体が弱ってきても、人工栄養をせず口から食べたいものを食べられるだけ食べて楽に過ごせることも、在宅看取りならではです。
◆独居在宅看取りの3つのポイント
①本人と家族が望んでいること。
一番の鍵となるのは、周囲の方や家族の理解です。本人がいくら望んでも、心配した家族の判断で病院や施設に入ってしまうこともあります。
家族の介護がなくても、24時間体制で在宅医療や介護サービスを受けることで、在宅で最期を迎えることが可能であると理解してもらう必要があります。
②デメリットも承知の上覚悟を決めること。 とはいえ、ゆらいでいい。
自由に過ごせるメリットと同時に、不自由さについての覚悟が必要です。
病院のようにナースコールを呼べばすぐに誰かがきてくれるわけではありません。苦しい時、不安な気持ちの時にいつも誰かがそばにいてくれるわけではありません。
ちょっと物をとりたい、シーツのシワを直したい、カーテンを少し閉めたい、そういった小さなことでも、次のサービスがくるまで待たなければなりません。
夜中に困った症状がある時に、朝まで待つべきか迷うこともあるでしょう。
また、制度内でのサービスになるためある程度の不自由さは受け入れなければなりません。
例えば、ヘルパーに買い物に行ってもらえる店は近所限定です。買ってきてもらえる物は生活必需品のみ、いつもお風呂は夜に入っていたが入浴介助は日中になる、等の制限があり、これまでの生活を一部変えることへの受け入れが必要になります。
逆にこれらの不自由さを受け入れられれば、お一人暮らしでも十分自宅療養は可能になります。
そしてもちろん、これらの覚悟をして在宅看取りを選んだとしても、やっぱり入院した方が安心だと考えたり、こんな筈じゃなかったと後悔したり、気持ちがゆらいで当然です。いつでも変更できます。
③亡くなる瞬間は誰かがみていなくていい。
日本では、亡くなる瞬間に一人にしてはいけないといった固定観念があります。
実際にたくさんの方の死に向き合ってきて私が感じることは、どこで死のうと死ぬのは一人。死ぬ瞬間は一人でもいいということです。
思い出がいっぱいの住み慣れた家で、安心できる好きな場所で死ねる。それは決して孤独なことではないと思います。
周囲にもそのことを理解してもらうと、見送る側も死に目に逢えなかったと後悔せずに送り出せます。
◆一人暮らしの在宅看取りで利用できるサービス
訪問診療
自宅で訪問診療医に診てもらえます。
疼痛緩和、苦痛緩和のための指示、指導、管理、処方を行います。
中でもがん患者の在宅看取りは叶いやすい点がいくつかあります。その理由としては、病気がわかってから動けなくなるまで猶予期間があること、予後が予測でき残された時間を意識できること、経過が想定しやすいこと、老衰に比べて家族や友人が若いこと、などが挙げられます。
訪問診療を利用していた場合、お一人の間に亡くなったとしても、検死の必要がなく、訪問診療医が死亡診断書を作成します。
訪問看護
医師から指示を受け、必要な看護を行います。
医療と生活、両面のケアにあたります。
身体的ケアだけでなく、悲嘆や苦悩にも向き合い、精神的・心理的なケアも行います。
医師との連携も担います。
亡くなった後の死後の処置も行います。
訪問介護
身の回りのケアを行います。
きめ細やかな食事、排泄、清潔保持の提供と、と安楽な体位の工夫等の身体的ケアを行います。
介護支援専門員(ケアマネージャー)
訪問薬剤師
その他民間のサービス
配食サービス
看取り士
ペットの散歩サービス
自費での介護サービス等
◆独居在宅看取りの金銭管理、死後の手続きについて
お一人暮らしの方に必要な金銭管理についてみていきましょう。
依頼できる家族がいれば金銭管理をお願いします。遠方でも構いません。実際の介護は難しいけれど金銭管理なら、といったケースは多いです。
金銭管理を依頼できるような家族がいない場合には、成年後見人に契約の締結や財産管理などを任せる成年後見制度を利用する方法もあります。ただ、成年後見人の選定などについては家庭裁判所での審理に2、3カ月かかるため、病状が進んで訪問診療や介護が必要な状態になってからこの制度を使うのは難しいかもしれません。
認知症の場合には、都道府県・指定都市社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を活用して、日常生活費用の管理を依頼できます。
死亡届の提出、遺品の整理などの死後の手続きについては、行政書士やNPO法人に依頼する方法もあります。
成年後見制度、日常生活自立支援事業については、権利擁護センター、社会福祉協議会などで相談してみるとよいでしょう。
いずれも、動けるうちに動いておくことが大切になります。
◆実際のお一人暮らし在宅看取り例
私が勤務する訪問看護ステーションでのお一人暮らしの方の在宅看取りは、家族が介護をしている方に比べると多くはありません。
やはり家族や親戚の意向でご本人の希望に反して病院や施設で亡くなるケースが多いと言えます。
また、できるだけ希望を叶えるためにと、仕事や家のことを調整して期間限定で付き添って介護をされるケースもあります。
実際に、お一人暮らしで最期までご自宅で過ごされた、Mさんについてご紹介します。
Mさんは、乳がんの末期でした。
「ペットがいるので家で死にたい」とご希望され、訪問診療、訪問看護、訪問介護、福祉用具、ペットシッター、といった様々なサービスを利用し、ご友人や愛犬サークル仲間にも支えられながら最期まで愛犬とご自宅で過ごされました。
私にとっても、自分らしく生きることについて、寄り添うことについてたくさんのことを学ばせていただいた、忘れられない大切な経験となっています。
Mさんの在宅看取りについての詳しい体験談については、以下のページをご覧になってみて下さい。
「ペットがいるから家で死にたい。」~おひとりさま・乳がんのMさん(70代女性、仮名)の在宅看取り体験談~
◆まとめ ー今だからしておけることー
誰でも、メリットとデメリットを知った上で、ある程度の覚悟があれば、様々なサービスを利用しお一人暮らしでも自宅で自分らしい最期を過ごすことは可能です。
何かの折に家族やまわりの人に話す、遺品整理をする、金銭管理について動いておく。これらの事前の準備は、自分らしい最期を迎えることに直結しています。
どのような最期を迎えたいのかを考えることは、死ぬことを考えて生きるためではなく、死ぬまで自分らしく生きるため。
それぞれがいつかは迎える死に向き合うことで、誰もが自分らしい生き方を貫ける社会になることを願っています。
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